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 出会って十分も経っていない子と手を繋ぎながら屋敷を案内するシュムックを、使用人たちは失礼にならない程度に物珍しそうに見ていた。

 彼らの普段知っているシュムックは、大人びた性格から同年代と親しそうにしている素振りが見られない。どちらかというと、せっせと世話を焼いては面倒を見ているタイプだ。

「シュムックは本当に綺麗だね。もっと着飾ればいいのに。僕がプレゼントしようか?」

「私には勿体ないので」

 手を繋ぐだけだった距離が会話をしていくうちにだんだんと縮まり、今ではシュムックの腕に隙間なくくっつくヴォルター。

 上目線になりがちなところを見ると、若干ヴォルターの方がシュムックより小さいということか。

「最初はさ、この話断ろうと思ってたんだ。僕から行くのめんどくさいし。でも父上から君の絵を見せてもらって、僕に匹敵するぐらいの美貌の持ち主がいると知って来たんだよ!」

 一言一句聞き逃すまいと耳を傾けていたシュムックだったが、頭で理解した言葉に一瞬違和感を感じ時間が止まる。

 自分にくっついている顔をおそるおそる見てみるが、彼の表情は変わっていなかった。弾む声で当たり前のことのように楽しそうに話し続けている。

「美しいものはこの国の宝なんだ。だから僕はこの国の宝なんだって皆が言う。この前も宮廷画家を呼んで何枚かこの顔を残してもらったんだ。それがなかなか良い感じで……あ、シュムックにもあげようか?」

 シュムックは絶望した。そして心の限り叫んだ。どういう教育方針してんだ国王と。この国の未来を背負うであろう男がナルシストとか、繁栄を築くはずの国王がすぐ国を滅びさせそうな先導者を作ってんじゃねーよと。

 いらねー!と突っ返したいところだが、口を開いたところで両親の顔がちらりと覗きなんとか心を落ち着かせる。

「え、ええ。もし頂けるのであればぜひ」

「待ってて! すぐ家に頼むから」

 言葉選びは間違っていなかったのか、ヴォルターは嬉しそうに後ろに控えていた従者へ指示を出す。

 急いでないけどな。むしろゆっくりで全然いいんだけどなと死んだ魚のような目で思いながら、そんな事のために遣わされる従者たちにシュムックは哀れみを覚えた。

 先程よりも重く感じる腕を引き連れながら、自画自賛話を上手く受け流しつつなんとか自室へ着く。

 シュムックの部屋は公爵家の子供にしてはシンプルな作りをしている。玩具も物も少ない。

 勿論見た目こそ普通だが、調度品類は最高級の素材で仕上げられた物ばかり。

 本人にそれを伝えると直ぐに変えるよう言われるだろうからと、シュムックは家具の値段を知らされていない。

 今回はヴォルターの為に、チェスやトランプ、子供向けの本、外には乗馬用の馬や射撃用の銃も用意されていた。

 部屋の中央に置かれている椅子に座り、紅茶を楽しみながらヴォルターが望んだボードゲームで二人は遊ぶ。

 やりなれていないチェスにシュムックは悪戦苦闘しながらのんびり過ごしていると、しばらくして飽きてきたのか、ヴォルターは足を揺らして窓の外を見ながら思いついたように喋りだした。

「そうだシュムック、一緒にお店へ行かない? 僕、君に似合う服を見繕いたいな」

「あ、私、服はいっぱいありまして」

「何言ってるの。これから僕たち社交界に出るんだから、一度袖を通した服なんて着てけないでしょ!」

 椅子から勢いよく立ち上がると、自分の御者にいつもの店へ連れていくよう指示するヴォルター。

 シュムックは再び腕を掴まれながら、これだから貴族は!と文句を心の中で叫びつつ、ヴォルターの後を着いていった。

宮廷画家=王族や貴族などから依頼を受けて描く絵師のこと。

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