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重圧から逃れられないままティータイムは終了し、シュムックは楽しそうなメイドたちと姿見の前で真反対の顔をしていた。理由は服装のデザインについてである。
フェルスとブルーメの子供である彼は、それはもう天使のような愛らしさを醸し出していた。
少女かと見まごう程の美貌ではあるが、性別はしっかりと男の子である。もっと言ってしまえばおっさんである。
顔と言葉遣いは噛み合っていないし、歩き方や振る舞い方も存外男らしい。
そんな彼が渋い顔をする服装は、見た目に沿うよう繕われた物だった。
男が着るには胸元や袖口がふわふわしすぎており、全体的に柔かいシルエットとなるよう作られている。
ぱっと見、女の子でも着れるんじゃないかと思ったシュムックの顔は、眉間にシワが寄せられ難しい顔になった。
そんな苦いシュムックの心は露知らず、口々にメイドたちは彼を褒めちぎる。
「まさにシュムック様が着るために作られた服ですわ!」
「ええ、違いありません」
「お召し物を着られているその瞬間を納められる物があれば良いのに…」
「髪は後ろで一つ括りにいたしましょう。お召し物の生地が水色なので、リボンは青か黄色にいたしますか?」
「殿下が変な気を起こされなければ良いのですけれど」
最後のメイドのセリフにますますシワを寄せるシュムック。だんだんと唇も尖り始めている。
シュタイン家に仕えるメイドたちは、シュムックを崇拝する存在かなにかと思っている者たちが多い。現代風に言えば、推しの為ならATMになってやると意気込んでいるお嬢さん方のような感じだ。
いや、人によって少し違うかもしれない。
「私は男だよ。もっとキリッとした服装がしたい」
彼女らとも長い付き合いだ。少しくらい文句を言っても許されるだろうと周りに話しかけると、メイドたちは雷を受けたような顔で固まってしまった。その顔に驚いてシュムックは肩を小さく跳ねさせる。
間を置かずにメイドたちの硬直が解けたと思えば、次は花の咲いた少女のように頬を桃色に染め、黄色い声を上げながらざわざわし始めた。
「し、シュムック様に話しかけられたわ!」
「しかも意見されてしまったわ!」
「きゃあ~! 今日は賄いも豪勢にしないと!」
「今日の日記は長くなりそう」
「シュムック様、このお召し物は本日の為にと特別にご用意したもので、申し訳ないのですが他に用意がございません」
「最後のは絶対嘘だろ! 私の衣装が今ある部屋だけではしまいきれなくなったからって、この前部屋がもう一つ増やされたことぐらい知ってるんだからな! そんなしおらしい顔されたって騙されないぞ!」
何とかして普通のシャツに変えてもらおうと奮闘するも、若い女性の勢いに敵わなかったシュムックは、数分後メイドたちの望んだ姿でカステンの前に戻ることとなった。