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 それから騒がしい月日が経ち、周りから愛情みっちり注がれて育ったシュムックは、それはそれは大変大人びた子供へと成長した。

 癇癪も起こさなければ我が儘も言わない。非常に優秀と言えば聞こえは良いが、中には奇異の目で見る者も少なからずいた。整った容姿も相まって、近づく人もあまりいないように思う。

 前世の記憶があるので当然と言えば当然なのだが、誰もそれを知る由はない。

 じゃあ彼の部屋に物は無いのかと問われれば案外そうでもなく、大人びたシュムックを心配した過保護な両親が、誕生日やらなんやらと記念日にこじつけて大量の物を贈っている為、シュムック専用の衣装部屋は貴族の令嬢並みに詰め込まれている。

 しかし彼はこの間10歳の誕生日を迎えたばかり。社交界デビューにはまだ少し早く、プレゼントされたオーダーメイドのタキシードは現在持て余し気味だ。完全に両親の自己満足の為だけに着せられていると言っていいだろう。

 本人は、子供なんてすぐ大きくなるんだから、そんなちょこちょこ新調してたらきりがないだろうと若干呆れ返っている。

 このゲームがしっかりと中世を背景にしているかは不明だが、貴族制度の時代に子供服なんてまともに存在していないため、着ているとしたらそれなりの財力がある家の子しかいないのだ。

 前世の生活水準では平凡を貫いていたシュムック。染み着いたもったいない精神で、せめて身体が成長してしまう前に一度でも袖を通しておこうと、ここ最近朝からメイドたちと衣装部屋で格闘している。

 ちなみに本日は、襟元と袖口にフリルとレースがふんだんに使われた、可愛らしい白地の上品なシルクシャツを着ていた。首元の青のリボンも相まって、額縁に収められた絵画上の天使を彷彿とさせる。中身は覗かないでほしい。

「午後からはまたダンスレッスンか……貴族ってほんと意味わかんねえ」

「坊っちゃん、言葉遣い」

 シュタイン家自慢の庭が一望できるテラスで頬杖をつきながら紅茶を飲んでいると、脇に立っていたシュムック専属の執事が幼い主人の呟きに目敏く反応する。

 彼の名前はカステン。歳は二十前半。燕尾服が似合う実に精悍な顔つきの青年である。

 シュムックが生まれた時からずっと共におり、彼が信頼を置く数少ない人間の内の一人。

 彼との時間は、礼儀や作法、綺麗な言葉遣いを苦手とするシュムックが気楽に過ごせる時間でもあった。

 紅茶を注ぐタイミング。歳は小さいが甘いお菓子はあまり好まないこと。彼が椅子から立ちたいその時に椅子を引く瞬間さえも完璧に成し遂げる男だ。

 シュムックは自分が平凡生まれの記憶持ちだからと、周りに何でもやってもらうなんてするものかと頑張ってはいるが、カステンがいるせいで上手くいっていないことには気がついていない。

 一言で言えば、無駄な努力を繰り返している。

「本日はお客様がいらっしゃいますので、どうかお気をつけ下さい」

「え、客? そんな事言ってたっけ」

「朝一番にお伝えいたしました」

「えー、誰がいらっしゃるの?」

「大公殿下です」

 世間話程度の雰囲気で話していたシュムックであったが、カステンの言葉に思わず持っていたカップを滑らせ顔を強ばらせる。

 勿論カップが落ちる前にカステンが受け止めたが、あまり中身も残っていなかったので被害は少ない。

執事=多くの従者を纏める、使用人の最上級役職の一つ。家令より下。

大公殿下=王族の身分を持つ人の階級名称。陛下より下、公が付く身分より上。

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