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 赤子を包むは染み一つ無いシルク。滑らかな手触りが快眠へいざなってくれる。

 幼すぎる身体には持て余す程の大きいベッド。その上で彼は母親にいだかれながら穏やかに眠っていた。

 静かな寝息をたてる顔を見つめる目は、どれも優しさばかりが帯びている。

 その姿を一目見ようと、産声を上げた時には見えなかった姿もぽつぽつと増えていた。

 その内の一人がこのシュタイン家現当主であり、彼の二人目の父親となるフェルス・シュタイン卿である。

 優しげな目元はたれ目気味で、鼻の下には整えられた髭が生えており、悠然とした雰囲気を醸し出している。顔に似合わず素晴らしい厳格者で、その仕事ぶりは見事な手腕だと聞く。

 フェルスは社交界でも有名な愛妻家だ。フラれた女性は数知れず。他に側室を構えることなく、その愛を一心に受けたのが彼の二人目の母親となるブルーメである。

 ブルーメが未婚の当時は、社交界随一の華と謳われていた。彼女をダンスに誘えなかった男は後を絶えなかったという。その美貌は今も劣らず、歳を重ねるごとに淑女の魅力が増すばかり。

 そんな二人の愛の結晶がどうなるかなど、安易に想像できるだろう。

 中身がおっさんであろうと、この世界では全く関係ないのだ。

「んぅ~……」

 くずるような幼声で、皆の待ち望んだ宝石が目を覚ました事を教えてくれる。いち早く反応したフェルスが、嬉々として赤子の眠るベッドの縁へ駆け寄った。

 丸い瞳が眩しそうに瞬きをし、大人とは比べ物にならないくらいの小さな手が、何かを探すように開閉を繰り返す。

 それを見たブルーメが人差し指を差し出すと、赤子は安心したような顔できゅっと力強く握りしめた。

「なんてかわいらしいの」

「ああ、本当に。文字通り私たちの宝だ。……そうだ! この子の名前はシュムックにしよう!」

「素敵! シュムックの成長が今から楽しみだわ」

 フェルスがブルーメの肩に手を置き、自分の方へ優しく抱き寄せると、二人は仲睦まじく顔を近づけはじめた。

 この世がアニメーションであったなら、彼らの周りには確実に大量のハートエフェクトが飛んでいることだろう。

 下衆な予測をするならば、シュムックの兄弟が出来るのもそう遠くはないかもしれない。

 いまだ淑女の指を握りしめ続けるシュムックは思った。

 何だこの寸劇は。キラキラしすぎていて、おっさんの脳みそはフリーズを起こしたぞ。どこのお伽噺だ。て言うか俺の名前横文字なのか!?

 シュムックは知らないかも知れないが、彼が新しく歩む転生先は、世の女性の夢が詰まりに詰まった乙女ゲームが舞台であった。

 もちろん、この夫婦に女性の夢が詰まっているとは誰も言っていない。

 全てがキラキラしているのだ、背景から世界まで。トーンを何重に張り付けたのかと突っ込みたいぐらいにキラキラしている。

 そして女性より肌と髪が綺麗な男たちで溢れていたりするのが、乙女ゲームなのである。

 でも悲しいかな、シュムックの恋愛ゲームは、某テレビゲームのときめいてメモリアルするところで止まってしまっていた。

グラフィック=情報伝達を主に目的とした視覚表現のこと。

トーン=漫画やアニメーション、グラフィックなど様々な世界で活躍する画材道具。

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