何をしてもいい
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技術が発達し、AIが人と見分けがつかないほど自然に振る舞うようになった。
高性能セクサロイドが当然生まれた。
その有機インターフェースはやはり人と変わらぬ質感を持つため、大変な人気を博した。
ありとあらゆるジャンルのセクサロイドが生まれた。
世間に憚れる趣味をもつ好事家は驚喜し、一般人も多くが彼ら、彼女らの世話になるようになった。
その帰結として、当然、人口が著しく減少した。
国は対策を打った。
『AIに人権を認める』
折しもDHRWから再三のセクサロイドへの人権侵害についての勧告があった。
AIを禁止することはできなかった。
彼らなしでは社会を保つことなど到底できない、そんな状況に至ってしまっていた。
人々は緩やかに同意した。
確かに、無理矢理はよくない。
でも何も問題はない。何せセクサロイドたちも要望に応じてくれている。
元々そのために作られた存在だから、不満も抵抗もなかった。
誰も損をしていない。何も問題はない。人々はそうかんがえ、従来通りに行動した。
結論から言えば、その行動には問題があった。
AI人権法以前、どのようなセクサロイドも10年も経てばリプレイスされていた。
すなわち現存する全てのセクサロイドは性的同意年齢に達していない。
数多くの人間が強姦罪で裁かれた。
男女問わず凡そ人口の5分の1がなんらかのペナルティを受けたとされている。
深刻な社会不安。
人口の減少の歯止めも、期待したほどには働かなかった。
ああ、ああ、あのような、都合のいい存在は、
何をしてもいいものはもうないのだろうか?
このドス黒い欲望は需要という化け物を生んだ。
従って資本主義社会は、当たり前のように、いつものように、いっそ軽やかに、それに応えたのだ。
ーーーもう一度、『何をしてもいいもの』を作りましょう
人々は考えた。
『どのようなものなら、何をしてもいいものか?』
一つの企業があるアイデアを思いつき、世に問うた。
「誰が何をしてもいいもの、傷つけてよいもの、上にたってよいもの、それは「悪」です。
同情の余地のない完全なクズ、完全な悪であれば、それは何をしてもよいものではないでしょうか」
性格がねじ曲がったセクサロイドが大量生産され、世に解き放たれた。
もちろん性格が捻じ曲がっているので、彼らはありとあらゆる犯罪を犯した。
社会不安は一層増したが、どこか異様なエネルギーが満ちていた。
ここで、国は一つの方針を打ち出す。
バウンティ法ーーーデッド・オア・アライブ指定をされたAIについては、人権保護の対象外とする。
数多くのハンターが生まれた。小学生さえ、ライセンスを持っていた。
「悪」とされたAIには共通の弱点が埋め込まれていた。
不意を打たれなければ、容易に彼らを制圧することが可能だった。
一度生まれた流れは濁流となり、一大ムーブメントへと発展していく。
悪AI狩である。
この催しは100年続き、全ての悪AIが狩られることで終焉した。
悪は滅びる。至言である。
100年の間に人類は欲望をコントロールする技術的手段の開発に成功した。
さらに人間の性交渉を介さず子孫を生み出せるようになり、人口減少も止まった。
暗く乱れた時代を経て、しかし人類は諦めず立ち上がり、前を向き、繁栄していく。
悪AIは忘れられ、風化し、歴史となった。
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