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影武者の娘

作者: 村岡みのり

誤字報告について(2/10(日))

誤字報告を送って下さり、ありがとうございます。

変更した箇所等につきましては、後書きに記しております。ご確認下さい。


令和元年8月28日(水)追記

誤字報告機能について、活動報告をご確認下さい。


令和元年11月7日(木)

加筆修正を行いました。話の大筋に変更はありません。


令和4年12月26日(月)

一部加筆修正を行いましたが、話の内容に変更はありません。





「お嬢さん、ご両親はご在宅かな?」


 買い物で買った品を抱えながら庭へ入った直後。やけに立派な馬車が家の前に停まっていたが、中から見知らぬ五十代くらいの男性が顔を覗かせながら尋ねてきた。この辺りでは見かけない顔。誰だろう。


「義父は畑に出ているかもしれません。義母は家にいるはずです」

「そうか、ありがとう」


 両親といっても実の両親ではない。母が亡くなり、体裁を気にして引き取ってくれた母の弟夫婦だ。二人にとっては子どもを引き取ったというより、賃金を払わない使用人を手に入れたという感じらしいけれど。

 なにしろ炊事、洗濯、掃除。義母に言われるまま、家事を全て私がこなしている。体調が悪くても関係ない。義母が最後に台所に立ったのはいつだろう?

 見知らぬ男性は馬車を降りると、私の荷物を取る。


「運ぶのを手伝おう」

「……ありがとうございます」


 一緒に帰宅した男性の姿に義母は驚いた。どうやら義母たちの知り合いでもないらしく、この人は何者だろうと首を傾げる。

 大事な話があるので席を外してほしいと男性に頼まれ、外に出る。

 夕食の準備に取りかかりたかったのになぁ……。遅くなれば罰として、夕食抜きを言い渡されるのに困る。

 玄関横に腰を下ろし、早く話が終われと願いながらじっと待つ。



「あんたはこれからこの人と首都へ行くんだよ!」



 玄関を開けるなり叫んだ義母の大声に驚き、立ち上がる。


「さっさと荷物をまとめ、出て行きな!」


 慌てて部屋へ行き、使い古している数枚の下着と洋服をカバンに入れる。これだけで支度は終わった。私の持ち物はこれしかない。母に買ってもらったぬいぐるみは言うことをきかない罰だと、ずい分前義母に捨てられた。

 追い立てられるように家を出ると、待っていた男性と一緒に馬車へ乗りこむ。

 最後に振り返ると義母が袋の中を覗きながら、にやにや笑っていた。


 どうやら私は売られたらしい。



◇◇◇◇◇



「突然のことで申し訳ありません。ろくに説明もなく驚かれたでしょう?」

「あ、いえ。はい」


 奇妙な返事になってしまったが、まだ名も知らぬ男性はにこりとした微笑みを崩さない。


「私は城に勤めている文官です。あなたにお願いしたいことがあり、城までお連れする役目を賜りました」

「私にお願い? どんなお願いですか?」


 ここからお城のある都までは、二週間以上かかる。そんな時間をかけてまで私にお願いしたいこととは一体なんだろう。なにも持たない一般人の私に、叶えられる願いがあるとは思えない。

 走り出した馬車の中ではお願いの内容に答えてもらえず、逆にどこで生まれ育ったか、本物の父親はどうしたなど、身の上に関する質問が始まった。


「父についてはなにも聞かされていません。母に尋ねても、いつも大人になったら教えてあげるとしか答えてくれませんでした。生きているのか死んでいるのかさえ、分かりません。叔父も私の父について、なにも教えてもらっていないと言っていました。気がついたら、離れて暮らす母が私を出産していたとも話していました」


 身の上話が終わると、今度は文字が読めるか、計算はできるかと問われた。教養面についても知りたいらしい。一体これらの質問がお願いとどんな関係があるのか、見当がつかないまま答える。


「少しなら読めます。計算も簡単な足し算と引き算なら……」


 それから毎晩、それでは足りないと宿泊する宿で勉強が始まった。

 一体私になにが起きているのだろう。何度尋ねてもお願いの内容は教えてくれない。城に行けば分かる。文官はいつもそう答えるだけ。



◇◇◇◇◇



 ようやく城に到着し、場違いな薄汚れた服のままで城内を歩く。すれ違う人が誰もが驚いた顔で私を見るのが不思議だったが、通された部屋で驚くべき人と対面し、なぜ皆が驚いていたのかその理由を知ることとなった。

 驚きあんぐり大きく口を開ける。相手は目を大きく見開き見つめてくる。驚いて言葉も出ないようだ。


「この御方は末の姫君です。貴女にはこれから姫様の影武者として生活をしていただきます」


 お姫様はなんと、私と瓜二つだった。なにも知らない人が見れば双子だと勘違いしてしまうほどに。でもそう思っても口に出せなかった。だって双子は縁起が悪い、不吉だって言い伝えがあるから。

 なぜ私が影武者に選ばれたのかは、顔を見れば尋ねるまでもなく納得した。


「王族は命を狙われることがあるので、影武者が必要なのです。姫様によく似た娘がいると噂を聞きまして。初めてお見かけした時は驚きました。なにしろ姫様ご本人と言われても納得しそうなほど、よく似ていらっしゃったので」


 文官も決して『双子』という言葉を使わない。不吉な言葉で例えるのは不敬に当たるのだろう。


 それから私は姫様と同じ恰好をし、同じ教育を受けることになった。

 すでに何年も前から勉強を始めている姫様に追いつくには、とにかく努力するしかなかった。寝る間も惜しみ、影武者となれるよう頑張った。頑張れば義母たちとは違い、皆が褒めてくれる。それが嬉しかった。



◇◇◇◇◇



「新年の国民との顔合わせで、これまでの成果を確認させて頂きます」


 新年の国民との顔合わせとは王族が城のテラスに並び、国民に手を振る行事。大勢の人前に出ると思うと緊張する。それにいくら姫様と顔が瓜二つでも、すぐに別人だとばれてしまうのではないかと不安でもあった。

 結果喋ることなく笑顔で手を振るだけなので、国民の誰も私が影武者と気がつかなかった。皆を騙しているようで申し訳ないけれど、影武者としてはやっていけそうだと自信がついた。

 ただこれをきっかけに、姫様に困った癖ができてしまった。



◇◇◇◇◇



「今回は影が出席して」


 あれ以来私を『影』と呼ぶ姫様は、なにかと理由を作っては行事を欠席するようになった。

 勉強も疎かになり教師陣は頭を抱える。しかし一過性のものと思われ、誰も強く注意をしなかった。それが過ちだった。



◇◇◇◇◇



「頭が痛いのー」


「今日は、お腹が痛いわー」


 棒読みでも体調不良だと言われれば仕方ない。その時はいつも私が姫として表に立った。

 体調が優れないと言いながら、姫様は公務が行われている時間に忍びで城下街へ出かける。私は姫様に注意できる立場ではないが、どうかと思う。知らず知らずため息が増える。

 やがて理由もおざなりどころか、酷い内容に変わっていく。


「面倒くさいから影が出て」


「私、これからパーティーへ行くの。隣国の王女との食事会なんかより、ずっと楽しいパーティーよ。気を使ってばかりの食事会なんて楽しくないもの。あなたが出席して」


 もちろん王様にも報告が行われていたが、しばらく静観すると決めているのか動かなかった。なぜ放置するのか理解できない。このままでは取り返しのつかない事が起きそうな気がして、怖かった。



◇◇◇◇◇



 心配した通り、それは起きた。

 珍しく本人が国に貢献した者に勲章を授与する式典に出席した。ところが式の途中で居眠りをしたり、受章者の名前を間違えたり、あり得ない醜態を連発する。

 途中で急病だと偽り退席させられた姫様に、さすがに王様は強く注意を行った。それまで一度も強く叱られたことのない姫様は逆切れを起こした。

 部屋へ戻ると、姫様付きの女中や騎士に当たり散らした。

 私も姫様を宥めるよう頼まれ、女中たちと機嫌を直してもらえるよう、お茶やお菓子を用意したりした。



◇◇◇◇◇



 ある時、少し離れた外国から姫様への縁談が持ちこまれた。前々から打診されていたが、本格的に話を進めることになったそうだ。

 互いの友好のための、いわゆる政略婚姻。その相手にと先方が指名してきたのが、王子様と年齢の近い姫様だった。

 外国とはいえ王子様と結婚できると聞き、最初はご機嫌だった姫様。しかし相手の肖像画が届くなり、嫌がるようになった。それは王子様の顔が、姫様のタイプと違うというくだらない理由だった。


「冗談じゃないわよ! なんで私があんな醜い奴の花嫁にならなきゃならないわけ⁉」


 醜いと姫様は言うが平凡な顔立ちをされた、穏やかで優しそうな方だと私には見える。

 王子様が来訪される日、気がつけば姫様は城から逃げ出していた。よほどこの結婚が嫌なのかと、ため息を吐く。

 仕方なく私が姫として、王子様を出迎えることになった。

 お会いした王子様は肖像画と同じで、平凡な顔つきの方だった。金色の刺繍が施された豪華な服を着ているというより、服が着られてやっているという感じで……。着慣れていない感じがし、ちぐはぐな印象を受けた。

 そんな王子様に付き添っているのは、美しい顔立ちの騎士様。彼なら王子様の豪華な服を立派に着こなせそう。


 会話をしてみると肖像画通り、王子様は穏やかな方だった。少し押しに弱そうな感じがするけれど、この方は奥様となった女性を優しく扱ってくれそう。きっと姫様も幸せになれるはず。

 しかし姫様は……。


「あーあ。あの騎士様が王子様だったら迷わずお嫁にいくのに」


 一度も王子様に会うことなく、こっそり姿を見かけた騎士様に夢中になっていた。

 もっとも騎士様に夢中なのは姫様だけではない。城の多くの女性が王子様より美しい顔立ちの騎士様に、熱い視線を向けている。

 私を姫様と信じている騎士様は、王子様に負けないほど優しく丁寧に扱ってくれる。

 蜂が飛んでくれば庇ってくれ、風で髪が乱れれば、そっと直してくれる。

 やがて私も騎士様を思い出すと胸が甘く締めつけられ、顔が火照るようになった。

 だけど……。

 彼は私が『姫』だから、優しいのよ……。勘違いしては駄目。私は影武者。私は『姫』ではないのよ……。



◇◇◇◇◇



 その日も『姫』として王子様と騎士様と一緒に、城の庭園を散歩していた。王子様が屈んで間近で興味深そうに花を見た時を狙い、横に立っていた騎士様が耳に口を寄せ小声で言われた。


「今日も本物の姫ではないのですね」



◇◇◇◇◇



 私は急いで王様へ報告を行った。

 まさか私が影武者とばれていたなんて……。いつから? どうして知ったの? これまで誰も見破らなかったのに……!


「陛下、伝えるべきではありませんか? せめて姫が城を抜け出しなにをしているのか」


 王妃様の言葉に、王様は頷くと教えてくれた。


「そうだな……。そなたが姫として活動してくれ、いつも感謝している。今や末の姫の名は、そなたこそが相応しい。当の本人だが……。最近では異性と交わる遊びに執心しておる。それだけではなく自分こそ本物の姫で、普段国民の前に姿を見せているのは自分の影武者だとも言いふらしておる」


 なんてこと……。絶句した。

 きっと騎士様は噂を聞いたに違いない。それであんなことを言ってきたのだわ……。



◇◇◇◇◇



「その沈んだ顔。姫様の噂を知りましたか?」

「騎士様……」


 庭園の片隅のベンチで一人沈んでいた私に声をかけてきたのは、騎士様だった。


「この国に肖像画を送る前、姫の悪い噂を耳にしました。国民の前に現れる姿から想像できない醜聞に、まさかと思いましたが……。この国へ来て側近が幾つかのパーティーに参加し、噂を確認しました。あちらが影武者、あなたが本物に見えるのに実は反対とは、不思議なものです」


 私は俯き、震える両手を重ねて握る。


「……王子様は、ご存知でしょうか。噂も……。私が影武者だとも……」

「報告を受けています」

「そうですか……」


 今さながら顔と腰を上げ立ち上がる。


「欺いていたことを、どのようにお詫びすればよいのか……」


 騙していたことを、王子様も知っていた。

 恥ずかしさと申し訳なさから深く頭を下げる。


「……王子様が結婚を申し込んだのは、国民に寄り添っている素晴らしい姫がいるからと聞いたからです。あなたですよね? 病院や孤児院を訪問し、自ら手伝っているのは」

「……はい。私は影武者として迎えられるまで、ただの村娘として暮らしていました。自分で家事もしておりましたので、手伝うことに躊躇いはありませんし……。いえ普段から、皆様に嘘をついている自責から逃れたいだけかもしれません……。心は姫ではなく、一人の人間として誰かを助けることで……。王子様はがっかりされたでしょうね、私たちに」

「……来週、国に帰ります」

「そうですか……」


 結婚の話を白紙に戻すのだろう。引き止めることは私にできない。

 影武者としての務めを果たせず、それどころか王子様の国と軋轢を生じさせたかもしれない。多くの人に心の中で何度も謝った。

 そして『私』は騎士様との別れを嘆いた。



◇◇◇◇◇



 王子様が発つ前夜、見送りの会と称しパーティーが開かれた。もちろん姫として出席しているのは私。

 今夜も姫様は遊びに出かけている。最近お気に入りの男性との逢瀬が楽しくて仕方ないらしい。


「さて……。宴もたけなわだが、ここで皆へ発表を行いたい。王子殿下と末の姫がめでたく夫婦となることが決まった」


 王様の言葉に会場が騒がしくなる。その反応から実は多くの貴族が噂を知っており、この結婚話が流れると考えていたと知る。

 私も驚き王様を見つめる。白紙に戻るのではないの?

 思わず腰を浮かしかける私の手を王妃様が握ってくる。


「陛下の言葉を最後まで聞きなさい」


 有無も言わさぬ声に浮いたお尻を椅子の上に戻す。


「ここで末の姫について皆に隠していた事実を伝えよう。王妃が姫を産んだのは予定より早い日のこと。視察先からの帰り道だった。突然の産気に慌てて駆け込んだ町医者のもとで、王妃は姫を産んだ。双子の姫を!」


 さらに場が騒然となる。それでも王妃様は毅然とし、手を離そうとしない。


「付き添いの者から一人は死産だったと言われ、王妃は一人だけを城へ連れ帰った。だがそれは付き添いの者の嘘だった。双子は不吉という迷信を信じこんでいたその者は、一人の赤子を亡き者にしようとした。それを止めたのが、そこに勤めていた、ある一人の看護婦だ」

「あなたがお母様と呼んでいるお方よ」


 そっと王妃様が教えてくれる。


「付き添いだった者も長年苦しみ死を目前にして耐えきれなくなり、王子が来国される直前我々に真実を打ち明けてくれた。そのもう一人の姫こそ皆もよく知る、今ここに座している姫だ!」


 王妃様に手を取られ立ち上がる。誰もが驚愕の眼差しを私に向けている。

 私が姫様と似ていたのは……。本当の双子だったから……?


「彼女には今この時まで事実を伏せていた。知らなかったとはいえ、実の娘でありながら片割れの影武者を強いてしまった。今さらどの面で両親と名乗り出られよう。彼女はずっと国民のために自ら買って出て働き、困っている者に手を差し伸べていた。そんな心優しい彼女に嘘をつき通すのは、許されることではない。そう思い直し、今日の発表となった。それに比べお前はなんだ!」


 ここで、これまで機会を窺っていたかのように会場の扉が開き、姫様が連行されてきた。


「遊びばかり覚えおって! お前に姫と名乗る資格はない!」

「自由になれるなら、こっちだって姫なんて立場を喜んで降りてやるわよ!」


 両腕を捕まれたまま、私の片割れが叫ぶ。


「今の言葉、皆も聞いたな⁉ 今この時をもって、この娘の王籍を剥奪する! どこへでも好きな所へ行くがよい! 城外へ連れて行け!」

「自分で歩けるわよ!」


 警備兵の手を払いのけると姫様は、堂々と自分の脚で会場を去った。



◇◇◇◇◇



 あの晩、王様が語ったことは真実だった。

 母と呼んでいた人は、双子という理由だけで赤子が殺されることに納得できず、助けるために引き取ってくれた。どうりで父親について尋ねても答えてくれなかったわけだ。王様と王妃様との子とは言えなかったのだろう。


「双子が不吉というのは迷信だ。大方権力争いを危惧した我々の先祖が、根拠なく言い出したのだろう」


 王様の推測に異を唱える者はいなかった。

 迷信を信じ、子を殺害する事は重罪だとも言い切った。

 とはいえ、すぐに根付いている言い伝えが消える訳ではない。けれど変わるきっかけにはなったはず。


 あれから私の片割れは、どうなったのかというと……。

 これまでは『姫』という立場があったから様々なパーティーに出席でき、周りも甘やかすよう機嫌をとってくれていた。

 後ろ盾がなくなった彼女に見向きする者はいなかった。それどころか王の不興を買うと避けた。中には声をかける男もいたが、それまで男遊びが激しかった彼女を商売女として扱ってのこと。

 逢瀬を重ねていた彼女のお気に入りの男性は『姫』という看板が無くなるなり、彼女から離れた。

 ようやく状況を悟り、王様に王籍の復活を訴えたが思慮されることなく却下された。

 ある一人の男が愛人として囲い出したと聞いたが……。その男には嗜虐的な趣味があるという噂があるので、楽しい生活は送れないだろう。


 そしてあのパーティーから一年後。私は迎えに来た王子様と一緒に、彼の国へ旅立った。


「どうしました?」

「いえ……。これまで影武者として生きていたので、今でも信じられなくて……。私が本当に姫だったなんて……。この一年は輿入れの準備に忙しく実感が湧かず……。それに、双子の姉妹のことを思うと……」

「自分から堕落した者です、お忘れなさい」


 そう言うと美しい顔をした私の夫となる人は、優しく手を握ってきた。


「でもまさか王子様が側近で、騎士様が王子様だったとは思いませんでした。昨年お見送りする前に知らされ、驚きましたわ」

「『姫』の悪評を聞き、事実を確かめようと思いまして。悪評ある『姫』は人を見た目で判断すると聞きましたので、肖像画もわざと別人の物を送りました。どういう反応をされるか知りたかったのです。あなたにも、あなたのご両親にも嘘をつき、こちらこそ申し訳ありませんでした」

「騙していたのはお互い様ですわ」


 騎士様こと王子様の手の上に、もう片方の手を乗せる。


「国王陛下も騙していたことを不問にして下さり、本当に良かったですよ。王子、去年も言いましたが私は二度と身代わりを引き受けませんからね」


 平凡な顔をした彼は、ただの王子様の側近だった。

 彼もまた母国に婚約者がおり、近々結婚するそうだ。いつも長旅に出るたび、胃痛持ちの自分のために薬を用意してくれると話していた。その顔は実に幸せそうで、この方と結婚される女性も良い方なのだろう。早く会ってみたい。


「お前には感謝している。身代わりにしてすまなかったよ。だが間違いではなかったろう? 王籍を剥奪されるような娘との結婚を阻止できたのだから。愚かな女に妃は務まらない」

「でも……。本当によろしいのですか? 私は国民を欺いていた女ですよ?」

「それでもあなたは逃げ出さず、あなたなりに国民と向き合っていたではありませんか。私はあなたのような女性がいいのです。国民に優しく寄り添える、身代わりでも、影武者でもないあなた自身が」






お読み下さり、ありがとうございます。


短編にするため削ったら、ご都合主義的な感じになってしまいました。

ここ数日で短編を三作公開しましたが、短い中で話を始め、終わらせることは大変だなと、実感しました。

面白い短編を書かれる方、本当にすごいです。


◇◇◇◇◇


訂正内容:「廃嫡」→「王籍の略奪」、これに合わせ何ヵ所か、単語を変えました。


上記誤り:「略奪」ではなく、「剥奪」でした。重ね重ね、申し訳ございません。誤字報告をして下さった方、本当にありがとうございます!



◇◇◇◇◇


誤字報告について(2月10日(日)修正内容)


・「姫」と「姫様」の表記について、自分なりに使い分けて使用していたつもりですが、誤り部分がございました。修正致しました。


・「王子」と「王子様」に表記ついて、書き方が一致しておらず、大変申し訳ありませんでした。修正致しました。


過ち(あやまち)は自身で調べた際、「間違い、思いがけずしでかした悪い事、過失」という意味でしたので、問題ないと考え使用しましたので、変更は行いません。


・「受賞」について、改めて調べた所、「受章」が正しいと判断しましたのでそちらに修正しました。報告して下さった言葉にならず、申し訳ありません。


・「~助けるために、」について、前後の文章を読み直し修正いたしました。報告通りの修正ではなく、申し訳ありません。


・句読点について、こちらは申し訳ございませんが、修正の対象外とさせて頂きます。

句読点の位置を直すと文章の印象が変わることは、重々承知しております。

ただこちらは修正しても、また別の方から元に戻してほしいという意見を頂く可能性があります。

決着がつかず、繰返し修正を行うことで生じる混乱を防ぎたいので、修正を行いません。


・その他の誤字報告については、検討中。もしくは受け付けられない内容となっております。

誤字報告を受け付けない内容が、どんなケースなのかを、別作品に記しております。そちらをご確認下さい。

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったです。 本当の姫もちょっと可哀そうだと思いました。
[良い点] シリーズ四作品とも面白かったです。 主役は毎話ごと違うのに、どのお話も上手にリンクしていてその絶妙な繋がり加減に毎回「ああ、なるほどここでリンクしているのか」と感心させられました。 ざまぁ…
[気になる点] 悪い方の姫って王様の手のものに囲われるってことでいいのかな?  普通修道院とかで教育やり直しはよく聞くのですが?その後悪ければ病死とか?反乱フラッグありますか?(ーー;)
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