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貸し1つ!

 やってしまった……。


 完全にやらかした。いくらお酒入っていたとはいえ勢いで和馬と一線を越えるなんて。


 すっとベッドから降りる。おお寒い。真夏とは言えクーラー聞かせてるし、流石に全裸というのはちょっと寒いな。

 和馬はまだベッドで寝てる。はてさて、どうしようか。とりあえずシャワー浴びよう。時間的には結構朝早くに起きちゃったみたいだし。

 脱ぎ散らかしたままだった昨日の服を集める。洗濯機に放り込んでおかないと。

 和馬の寝顔を見ている。この口が昨日あれだけ恥ずかしい言葉を吐いたのかと思うとつまんでやろうかと思ったけど起こしたら悪いのでやめた。音もなく静かに部屋を出てお風呂へ向かう。おお寒い。クーラー切っておこう。


 洗濯機に昨日来ていた服を放り込んで気づいた。しまった、私自分の部屋に服置きっぱなしじゃん。取ってこよう。


 それにしても昨日の和馬はすごかったなあ。思い出しただけで体が火照ってくる。いくらお酒が入っていたとはいえあんなに恥ずかしい台詞をいともあっさり言ってしまうなんて。いい声して思ってたより大きな体で包み込まれて。何度身をよがったことか。あう、今思い出しただけで体から火が出そうで身悶えする。

 熱くなった体を温めのシャワーで沈めようとする。まあ幸いにして昨日は安全日だったし、下着もそこまでダサいのをつけてたわけじゃなくてよかった。でもその前にシャワー浴びるべきだったかも。

 ああだめだ。まだ芯の炎が消えていない。これじゃあ和馬が起きたときに顔合わせられないよ。

 愛してるだとか、かわいいだとか。ずっと前からそうなんだろうなーとは思ったけど、面と向かって言われたのはこれで2度目だ。1度目は私がなかったことにしたし。

 そう言ったことを言われて、私も歯止めが利かなくなっちゃったもんなあ。たぶん酔ってたのもあるんだけど。だけどすっかり和馬のペースに乗せられて、嬌声を何度も上げてしまった。童貞なのにあんなに大胆になるとは。らしからぬ勢いだった。本当に。

 あ、あれ、童貞、だよね? 私の知らないうちに誰かとやってたりはしないはず。だよね? 


 それとも、あれは本当に経験があったのか?


 考えても仕方ない。今はこれからどうするかを考えよう。

 できることなら昨日の一件はなかったことにしたい。かといって寝ている和馬をベッドから運び出すのは大変だし。一応服を着せておくか。


 シャワーのおかげで体の火照りも取れた。ちょっと寝不足と昨日頭を使い過ぎたからしんどいけど、まあ何とかなるでしょう。




 和馬に服を着させるのは大変だった。何せ寝てるから体の自由が。でも眠りが深かったのは助かったし。それに、昨晩あんなことがあったとはいえ、男子の裸見るのはちょっと、ね。


「ふう」


 インスタントコーヒーを飲んで一息つく。眠気覚ましにしたかったのでブラックで。

 朝ごはんは軽めにサラダとスクランブルエッグ。あとトースト。一応和馬の分も作っておいたけど覚めちゃいそうだなあ。

 それから和馬の両親に電話しといた。昨日は遅かったので泊って行ってもらいました。事後承諾になってすいませんと。和馬のお母さん笑ってくれてよかった。本当に仲いいもんね。私の家族と和馬の家族。


 はてさてどうするか。まず一番いいのは和馬がすっかりぽっかり忘れていてくれること。普段よりもすごく大胆な変貌ぶりだったからね。記憶がないなら泊まっただけだって言い張れる。服も着せたし。ちょっとはだけてるのは寝相が悪かったって言い張れる。


「おはよー」

「ん、おはよう」


 和馬が眼をこすりながら起きて来た。夏休みだからって結構寝てるのかそれとも昨日夜遅かったからなのか。

 意識すると急に赤くなる。慌てて下を向いた。


「あ」


 和馬がそう言えばと言った感じで固まる。思い出さなくていいのに!


「咲、その」

「言わなくていい」

「昨日はホントごめん。言い訳だけど酔っぱらってて」

「いいって言ってるから!」


 変にその話題を蒸し返さないでよ。昨日の恥ずかしかったのを思い出しちゃうじゃない!


「お互い酔ってたんだからこの話はここまで! いいって言ってるんだから蒸し返さないで! 昨日は特に何もなかった! いいね!?」


 机を叩いた手が痛い。というか、顔も熱い。和馬もさすがに悪いと思ってるのか顔合わせてくれないし。


「でも、それじゃあ」

「いいから! むしろ和馬の童貞もらってあげたんだから感謝しなさい! これで貸し1つ! それでこのことは忘れる! わかった!?」

「でも、その」

「わかったかって聞いてるの」

「あ、はい。わかりました」


 顔赤くすんな! こっちまで恥ずかしくなってくる。バカ。

 席を立つ。


「あれ、咲どうしたの?」

「体冷やしてくる、バカ!」


 もう、顔合わせられないじゃないか。昨日の和馬の逢瀬を思い出しちゃって。スニーカーに足を通す。


「あ、でも」

「玄関の鍵はポストに入れといて。それじゃあ!」


 それだけ言い残して駆け出した。


 否が応でも和馬の顔を見ると思いだしちゃいそうだったから。そうしたら、和馬と付き合うのも悪くないんじゃないかって、そう思えそうだったから。いや、違う。本当は思ってしまってるんだ。和馬と付き合ってもいいんじゃないかって。強引な和馬もカッコよかったから。

 また体がカッと燃え上がる。これは夏の暑さのせいだなんて言い訳して。わかってる。本当は、和馬に好きだ、愛してるなんて言ってもらえたのが、耳元で囁いてもらったのがこれ以上ないくらいうれしかったんだ。だけど、その気持ちはどこに向ければいい?


 自分の思いが行き場をなくして。どこに行けばいいかわからなくなって逃げだした。本当に、私は何がしたいんだろう。すっごく、バカだなあ。

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