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和馬はシスコン(嘘)

「おはよー」


 週明け。教室に入ったところで、ピリッとしたいやな空気を感じた。私が入ってきた瞬間に何かのスイッチが押されたみたいな。それとも、一緒に登校してきた麻希?


「理彩、実萌奈、おはよう」

「あー麻希じゃんおはよー」

「おはよう」

「ん」


 私にだけ素っ気ない態度を取られる。それでハッとした。これ、あれだ。いつものちょっとした無視だ。

 女の子同士だと、よくあることだ。何かちょっと気に食わないことがあると、グループの仲間外れになる。まあ、普段は1週間もしないうちに仲直りしてそんなこと忘れちゃうんだけど。でもあんまり気持ちのいいものじゃない。


「はあ」


 一人自分の席でため息を吐く。さて、今回の原因は何だろう。早めに謝って元に戻りたいな。もうすぐ夏休みだし、あんまり遺恨を残したくない。それに、ちょっと離れているうちにエスカレートしちゃ大変だしね。

 ただ、その問題は何をやらかしたかわからないことなんだよね。たぶんこの週末の内に何かあったんだとは思うんだけど、何があったのか。

 考えてもわからないなら後で麻希に聞くか。




 お昼ごはんは久しぶりに食堂で食べた。理彩が麻希を取ってっちゃったし。麻希も心配そうにしてたけど表向きに私を庇ってっていうのもあんまりいいことじゃないし。

 そういうわけで食堂に来た。知り合いの姿は、あ、いたね。


「こんにちは、末広先輩」

「っ、舞坂さん!?」


 そんな、あからさまにギクッとしないで欲しい。ちょっと傷つく。


「たまには食堂で食べてもいいかなって。向かい使ってもいいですか?」

「あ、どうぞ」


 椅子を引いて座る。でもきっと額面通り気まぐれで来たと思ってるんじゃないかな。

 それはともかく、末広先輩とも仲良くなりたいな。少なくとも警戒されないくらいに。8人で遊ぶことも結構多いし、ライブをやるとしても結構関わりあるし。同じベーシストだし。


「末広先輩って私に苦手意識持ってますよね?」

「いや、その。まあ、ね」

「私どこか怯えさせてますか? 嫌なところあったら言ってくださいね」

「いや、その、雰囲気が、ね」

「なっ! それは無理ですよ」


 雰囲気とか変えられるわけないじゃん。というか、それならどうやればいいっていうんだよ。生まれついた時からこんな性格ですけど。


「ごめんね。姉に似てるんだけど」

「お姉さんにいじめられたとか」

「まあ、そんなところ」


 私にどうしろっていうのさ。似てるのは仕方ないとして、出来ることがないと思う。そりゃ、苦手意識持たれる行動なら慎むのはできるけど、無理だって。


「わかってるんだけどね。別に、舞坂さんは悪い人じゃないって。でも、生理反応っていうか、そんな感じ」

「酷いですって。私そんなことしませんから」

「まあ、そうなんだけどね」


 そう言って末広先輩がセルフサービスのお茶を飲む。小動物的なかわいさがある。これなら麻希が狙うのもわからなくはないけど。


「それに、和馬にだけちょっと厳しいでしょ? あれが、姉みたいで」

「ゴホッ! それはっ! 和馬だけだから! その、和馬は幼馴染だし気兼ねしなくていいしつい、ね」

「それより、これ、どうしよう」


 むせたご飯が末広先輩の湯呑に入ってしまったみたい。まあ、仕方ないか。というか不意打ちで和馬のことを持ち出すのはやめて欲しい。


「ちょっ、それ、僕の!」

「あれ、まずかった?」


 一度口に入れたものを食べさせるのもどうかと思ったんだけど。


「いや、僕が口付けちゃったから、その、いいのかなって」

「な、バカヤロウ!」


 あ、やば、つい癖で足を思い切りふんじゃった。末広先輩大丈夫かな?


「だ、大丈夫?」

「あ、うん、まあ一応ね。それじゃあ、僕はこれにて」


 末広先輩が足早に去っていく。その、なんかすいません。




「麻希、私何かやらかしたかな?」


 放課後、軽音部の活動の時に麻希に尋ねる。それ以外の時だと迷惑だろうし。


「あー、それなんだけどね。なんか週末に、和馬ってけっこうかっこいいねって話になってらしくてさ」

「なるほどね。傍から見てるとヘタレだけど、まあ幼馴染だから変な視点混じってるかもしれないもんなあ。しかしあの和馬がねえ」


 さりげなく言った和馬を落とす台詞が胸にチクリと刺さった。対外的には私は和馬のことをヘタレだって思ってるように見せているから。本当は、全然逆なのに。


「それで、和馬と咲って仲いいじゃん」

「というか幼馴染だしね」

「それが、咲が和馬の好意をこき使って侍らせてるように見えるんだってさ」

「うわー、それどうしようもないやつだ」


 というか、それ私に何ができるっていうのさ。傍から見てたらそうなのかもしれないけど、一応はヘタレの和馬が幼馴染だっていうことで仲良くしてるだけということにしてるし。でも実際は和馬の好意に気づいた私がそれに気づかないふりをして邪険に扱ってるわけで。

 ……どう見ても私が悪女じゃないか。


「咲、どうかした?」

「いや、客観的に見たら自分和馬に相当酷いことしてるなって」

「それじゃあ、どうする、つきあっちゃう? たぶん、恋人扱いでもないのに都合よく使ってるのが気に食わないんだと思うんだよね」

「いや、それはないって。今更和馬とか眼中にないし」


 そうやって私は泥の鎧で自分を固める。いつか沈むのがお似合いだ。わかってはいるんだ。

 だけど、今の私は和馬を堕として自分を保つことしかできない。


「それに、和馬が私のこと好きならコクってるって。それに、性格はヘタレだし、シスコンだし」

「ええ!? 和馬ってシスコンだったの?」

「あれ、言ってなかった? でもたぶんそうだって。前水族館行こうって誘ったら家族で映画行くからって断られたし」


 さもいつものようにとでも言う。実際は前と言っても1年以上前だし、そうやって断られたのだって2回しかない。


「麻希も神楽ちゃんに会ったことあるでしょ? 俺の自慢の妹だーって」

「そっかー。確かにそうだった。あちゃー、私自分の見る目には自信あったんだけどな」


 ごめん、麻希。その見る目は確かです。いや、私は悪い人だから見る目はないのか。


「あいつ、財布の中に私と神楽ちゃんとのプリクラ入れてるよ。ハートマーク付きで。仮に私が好きだったとしても、絶対叶わないから」

「そうかそうか、うんうん」


 その気持ちよくわかるよと言った感じで麻希が頷く。ああ、完全に勘違いされてる。私が和馬に好意を持ってるけど意識外にあるんだって。いや、ある程度はあってるんだけどさ。




「俺はシスコンじゃねえ!」


 翌日、実萌奈の問いに和馬はそう叫んでいた。私への風当たりは元に戻ってくれたけど、私の心の中には針が埋まったままだった。

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