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虚弱系令嬢は第三王子殿下に保護される2

作者: 雪野ゆきの

「虚弱系令嬢は第三王子殿下に保護される」の続編です!

 前作を読まないと少し意味のわからない所があるかもしれません。

「シアは俺を残して逝くのか」

「勝手に殺さないで下さいルイさま」


 こんにちは、虚弱体質でお馴染みの公爵令嬢アリシアです。

 私にギュウギュウ抱きついてこの世の終わりのような顔をしている十九歳男性が私の保護者のルイス・アシェル様。この国の第三王子殿下です。


 勿論力加減はされてますよ。

 ルイさまに本気で抱き締められたら呼吸困難で死ねる自身があります。(自慢できませんね)


 さて、普段はニッコニッコしてる我が保護者様が何故こんなに絶望しているかというと、話は数十分前に遡ります。


 


 私は一冊の本を読了しました。

 タイトルは「はじめてのおつかい」です。

 涙なしでは読めない感動のお話でした。


 はい、察しの良い人はもう展開がわかったでしょう。

 私はまだ"おつかい"というものをしたことがありません。


 ならば!!


 アリシアは十六歳にしてはじめてのおつかいをしたいと思います!





「却下」


 読了後ルイさまに会って第一声がこれです。

 私まだ何も言ってません。

 ルイさまはエスパーってやつなんでしょうか。


「シアの考えてることが俺にわからない訳がないでしょ。いつもシアの事しか考えてないんだから」


 お仕事して下さい。


 というか私今、口に出してませんでしたよね。


 ルイさまは天才だとは思っていましたが遂に読心術までマスターしてしまいましたか。これからはわざわざ口を開かなくても良いんですね。楽チンです♪


「シアの綺麗な声が聴けなくなるのは寂しいから俺限定で喋ろう」

「それ意味なくないですか」

「他人にシアの声を聴かせるなんて勿体な過ぎる。減る」

「ルイさま許容範囲が砂粒大」


 はっ!流されるところでした。


「ルイさまおつか」「そのことだけどシアがわざわざ自分で行く必要ってあるかな?ただの自殺行為だと思うよ。欲しいモノなら男以外なら俺が何でも用意してあげるし。ああ、でも女にシアを盗られるのも嫌だしペットにシアがかかりっきりのなるのも嫌だから生き物以外かな。まさか出逢いを求めてる訳じゃないよねぇ。シアには俺が居れば十分でしょ、だって俺にはシアが居れば十分なんだから」


「ルイさま剥がれてる剥がれてる。早く化け猫の皮被り直して」


 闇(病み)が深いです、ルイさま。


 これが俗に言うヤンデレってやつなんですかね~。


 ですが諦めませんよ。

 アリシア人生初のちゃんとした我が儘ですからね。

「それはわかっているんだけどね」


 ………ナチュラルに心の中と会話してきますね、ルイさま。


 そんなことを考えていると不意に、正面から抱き締められた。

 肩口に顔を埋められる。


「どうしてもおつかいとやらに行きたいなら俺も一緒に行くよ。それなら許可してあげる」


「いいえ、それでは意味がないのです。おつかいとは庇護を受けている子供が初めて保護者の下から飛び出す成長するための一種の儀式なのです!」

「シアがおつかいに夢を見ていることは良く解ったけれど…。ああ、そんなに興奮するとまた熱を出すよ」


「ルイさま、心配は無用です!ハムスターよりも小さい三歳児が出来るのですから十六歳児の私が出来ない道理はありませんよ」

「シアが三歳の頃は手乗りサイズだったんだねぇ。毎日そこらで駆けずり回ってる餓鬼供にシアが勝てるはずないだろう」

「言い切りますね」




「あっ、でも別に護衛は一緒でいいんです。それは貴族として常識ですから。ルイさまさえ一緒じゃなければ」


 ルイさまが笑顔で固まりました。


「うお?」


 視界が暗転しました。

 また抱き締められてますね。


「何で護衛はよくて俺はだめなの?よくわかんないんだけど。シアは俺を残して逝くのか」

「勝手に殺さないで下さい。私の保護者はルイさまなので、ルイさまが居なければはじめてのおつかいなのです」



「ルイさま、護衛が一緒なら良いですよね」

「………」

「ルイさま、一生のお願いです」



 ルイさまが一向に顔を上げてくれません。


 すりすり。

 ルイさまの背中を撫でてみます。

 

「ぐえっ」


 拘束が強くなりました。


「……」

「……」


 無言。


「はぁーーーーーーーーーーーー」


 ルイさま長いため息ですね。幸せが逃げちゃいますよ?

 

「無理はしないって約束できる?」

「できます」

「少しでも体調が悪くなったら直ぐに連れ戻すからね」

「わかってます」

「……………明後日までは待って」

「ありがとうございます!!」


 お礼の気持ちを伝えるためにほっぺにキスをしてあげます。


「くっ……シアは俺を悶え殺す気?」

「王子殺したら私大犯罪者じゃないですか。頑張って心臓動かして下さい」

「動きすぎて心臓破裂しそう」

「ルイさま落ち着いて下さい。ひっひっふーです」

「シアそれ違う」


 あら。








 そしてなんやかんやで当日です。


 興奮しすぎて微熱が出ましたが気合いで冷ましてやりましたよ。


 ルイさまは門のところでお見送りです。

 勿論、ここまではルイさまに抱っこで運ばれましたよ。


「ハンカチは持った?十分歩いたら休憩を取るんだよ。水分補給もしっかりしなさい。できるだけ人に顔を見せないように俯きがちで歩くんだよ。人と目をあわせたらいけないよ」


 ルイさま過保護に磨きがかかっています。


 第三王子殿下のオカン化に門番さん唖然ですよ。


「ルイさま、大丈夫です。今日のためにたっぷり十時間睡眠とったんですから」

「おかげで俺はシアと話す時間が減って仕事のやる気が出なかったよ」

「文官さん困らせちゃだめですよ」


 後ろで側近さん達が苦笑いしてます。




「では行って参りますね」


「知らない人にお菓子を貰ってもついて行ってはいけないよ。靴は道端で脱いではいけないよ。」


「わかってますよ、ルイさま~」


 遂にはじめてのおつかいに出発しました。

 後ろからまだ何か聞こえる気がしますが気のせいですね。






 数分後。



「さて、俺達も行くぞ」

 

 ルイスは真顔で言い放った。


「やっぱりですか殿下」

「当たり前だ」


 ルイスの二人の側近達はしっかりと外出の準備を整えていた。


「でもどうせアリシア様の直ぐ近くで見守るならあんなに口うるさ………厳しく注意しなくても良かったんじゃないですか?」

「シアは砂糖菓子よりも脆いんだぞ。いくら気を付けても全然足りない」

「……左様ですか」


 ルイスと側近達三人が急ぎ足で二分程歩くと、アリシアの後ろ姿が確認された。

 

「護衛達が周りに居ると何だか物々しい雰囲気ですね」

「完全に周り引いてるじゃないですか。馴染めてませんよ」


 側近達が率直な感想を口にするとルイスはさも当然というように首を縦に振った。


「敢えて周りを威圧するような風貌の護衛達を選んだからな。これでいくら俺のアリシアが愛らしかろうと自分から話し掛ける奴は居ないだろう」


((心狭っ!!))


 そうであった。アリシアの事に関しては彼らの主の器はどこまでも小さくなるのだ。


 アリシアを見やると護衛の一人に何かを話し掛けている。


「なになに?『城下町は思ったよりも人が少ないんですね。いつもこんな感じなんですか?』だって?シアは可愛いなぁ。仮にも王都がこの程度の賑わいのはずないじゃないか」


「「!?」」


 側近達は主の人外加減に驚愕した。


 確かに普段よりは人通りは少ないが、それでも十分賑わっている通りである。

 であるにも関わらず、彼らの主は50メートル程離れた場所を歩いている少女の声を正確に聞き取って見せたのだ。

 そして案の定、話しかけられた護衛がアリシアに返答した内容は聞き取れていない。


 執念が恐ろし過ぎる……。


 思わぬ所で主の溺愛っぷりを見せつけられた側近達であった。


 そして、今日に限って人通りが少ないのは無論、ルイスの仕業である。

 ルイスは昨日の間にアリシアが行動するであろう範囲に通行規制をかけた。


 ルイス曰く、「人がたくさんいたらシアにぶつかってくる輩がいるかもしれないだろ」ということらしい。


 そのために彼の側近達が昨日、一日中東奔西走したのは言うまでもないだろう。



 アリシア達一行は政治家も驚きの牛歩で城下町を見て回っている。

 勿論、ルイスの言いつけを守っているのだ。


 アリシアは常人の半分の速さで歩けば体調も悪化せず、比較的長時間行動できる。

 その事を知っているルイスが、アリシアがなるべく楽しめるようにアドバイスしておいたのだ。

 おかげで、がたいのいい護衛達が歩幅を合わせるのに苦労している。


 ルイス的には「俺を差し置いてシアと一緒に行動しているんだからそれくらいの苦労はしてもらわないと」ということなのだろう。



 十分程散策を続けると、アリシア一行は休憩に入った。


 アリシアは広場のベンチに腰を下ろしている。

 ほぼ初めて街に来て喜んでいるのかその表情は晴れやかだ。


 護衛の男がコップにレモン水を注いでアリシアに差し出す。



「はぁ?一度にあんなに注ぐとか何考えてるのあの男。シアがそんなにたくさん飲めるわけないだろ。レモン水も常温のを飲ませろよ。ああ、俺以外の男がシアのお世話をするなんて……」


 ルイスは早くも禁断症状が出始めていた。


 長身のイケメンが建物の影から一人の少女を見つめる様子はなかなか異様な光景であった。


 数分の休憩の後、アリシアは再び歩き始め、一軒の店に入った。



「ここからじゃ中で何をしているか見えないですね。出てくるまで待ちますか?殿下」


「仕方ない。あれは何の店だ?」

「ジュエリーショップですね。その場で自分好みの石を選んでアクセサリーを作れるらしいですよ」


「シアはここに来たかったのか?」


 アリシアがルイスに内緒で何処かに行きたがっているということは薄々感ずいていた。

 アリシアは頑として教えてくれなかったのだが……。


「アクセサリーが欲しいなら俺が贈るのに」



 ちなみに、アリシアは今回、自分のお金で買い物を行っている。

 ルイスから貰ったお小遣いという意味ではなく、アリシア自身が稼いだお金だ。


 アリシアは王宮に住まいを移してから、王室御用達の店での商品開発に精を出している。

 その商品が売れた場合、アリシアにも何割か利益が入ってくるようになっているのだ。


 ルイスがお小遣いをあげようとしても決して受け取ろうとはしなかった。

 もう"おつかい"からはかけ離れていると感じるのはルイスの気のせいだろうか。



 一時間程すると、アリシア達が店から出てきた。


 アリシアの手には小さな小包が握られている。


 アリシアは余程嬉しいのか手元の小包を見ては頬をゆるませている。

 その様子を見ると、ルイスも自然と自分の口角が上がるのを感じる。


 アリシア一行は再び先程の広場で休憩を取ってから城に帰還するようだ。



 広場に着くと、アリシアと顔馴染みの騎士がアリシアに話し掛けた。


「にしても、アリシア様はどうして今回ルイス殿下を置いて出掛けようと思ったんですか?」


(よく聞いた、名前も知らない騎士よ。俺のシアに馴れ馴れしく話し掛けたことは減点だが今回は許す)


 アリシアは少しはにかみながら言った 


「それはですね……ーーーーーーーーーーーー












           ーーーーーーーーーールイさまには言いませんけどっ」





 ルイスは暫く固まって動けなかった。


「ルイス殿下?」


 訝しく思った側近がルイスに声を掛けた。


「………帰る」

「え?最後まで見届けなくていいんですか?」

「後少し休憩したら帰ってくるよ。ウチの護衛達も優秀だしね。」



「それに、保護者は家で出迎えてやらないと」



 そう側近に言うとルイス達が一足先に城に帰還した。





「あーーーやっぱり心配だ。先に帰らなければ良かった」


 ルイスは門の側で後悔していた。


「シアが視界に居ないとこんなにも不安になるものなのか……」




 数分後、アリシアが見えるとルイスは全力で駆け寄って抱き締めた。そしてお互いの額同士を合わせる。



「おかえり、シア」


「はいっ、只今帰りましたルイさま。寂しかったですか?」


「心配で心臓が張り裂けるかと思ったよ」


「安定の過保護ですね」



「ルイさま」


 ルイスを呼ぶ声と共に眼前に小包が差し出された。


「プレゼントです」


 ルイスは目を微かに見開く。


「俺に?」

「はい、日頃の感謝を込めて」


「………~っ、ありがとう、シア。愛してる」

「大袈裟ですよ~」


 思っていた以上に喜ばれ、アリシアの頬が赤らむ。


 ルイスはこの瞬間の幸せを噛み締めていた。





 アリシアのプレゼントはピアスだった。

 

 そのピアスには翠の石ーーーアリシアの瞳と同じ色の石が使われている。


 ルイスは中身を確認すると直ぐに、今まで付けていたピアスを投げ棄て、アリシアから贈られたものに付け替えた。





「………それで、いろんな種類の石があって迷いまして……」


 その晩、アリシアは出掛けた先であったことを嬉々としてルイスに話していた。

 ルイスも優しい眼差しでアリシアの髪を撫でながらその話を聞いている。


 暫くすると、アリシアは疲れていたのだろう、話している途中で夢の中へ旅立ってしまった。



 ルイスの脳裏に、広場で聞いたアリシアのセリフが蘇る。


『それはですね、ルイさまに自分のお金で日頃のお礼にプレゼントをしたいと思ったんですよ。ルイさまが居ると絶対払わせてくれませんから。でも、一番はルイさまに私を覚えていてもらえる"何か"を残したいと思ったんです。

 私の命は、今ルイさまに手を放されたら一年も生き延びれないような儚いものです。きっと、いつかはルイさまを置いていってしまいます。だから、ルイさまに私の面影を残す物を持っていて欲しいと思ったんです。

 ドン引きでしょう?重たいから絶対ルイさまには言いませんけどっ』

 



 暗闇の中でルイスが付けているピアスに月の光が反射して、淡く翠の光を放つ。


 ルイスは自分のよりも大分小さくて華奢な手を優しく握り締める。


「ごめんね、シア。」

 

「俺、そう簡単にこの手を放すつもりないから………。」



「シアは必ず俺が生かすよ」



 ----俺を置いて行くなんて許さない。


 一緒に生きよう。アリシア。







 そして、ルイスは医療部門に力を入れた王子として後世に名を残した。


 それが誰の為であったかは、王宮に居た全員が知る所であった。





ルイスはプレゼントを重たいなんて感じていません。

むしろ歓喜しています。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ヤンデレだけでなく、医療に貢献したところが素晴らしいです!
[良い点] すごく尊かったです [一言] ちょうだいちょうだいこおゆうのもっと頂戴! 更新頑張って下さい!
[一言] すごく微笑ましいです!ありがとうございます! ハムスターはツボってましたw
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