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box

作者: ジャス

プレゼントは手首でした。


薄暗い玄関


私の震える手が、蓋をゆっくりと閉めました。


帰宅したのは数分前のことです。


ドアの前には小さめの箱が置かれてました。


クリスマス――


しかし、今時、こんなやり方で贈り物をする人も少ない。



その結びかたに見覚えがあった私は、箱を部屋に持ち帰りました。


彼女はリボンを結ぶのが下手でした

彼女の蝶々結びは必ず右の輪っかが小さくなるのです


だからこれは、きっと彼女から…

送られてくるはずのないプレゼント



あけてびっくり玉手箱

箱の中には手首が綺麗に収まっていました

白い綺麗な左の手首です

小指だけがもぞもぞと動いています


断面からは吹き出るはずの血液もでず、箱の中は清潔に保たれていて、それが逆に不気味でした。


閉めた箱の蓋に両手を添えるように置いて私は考えていました。


なぜ、彼女からこれが送られてきたのか。


送られるはずのないプレゼント


彼女は…



一年前に死にましたから

彼女と出会ったのは、友人の見舞いに病院に行った帰りでした。


ベンチで本を読んでいました


私は「綺麗な人」と思いつつ、声を掛ける勇気もなく、彼女の前を通り過ぎました。


あれは悔しかった。



次の日、雑貨屋で三毛猫のついた栞を購入した私は、人生の勇気を全て振り絞って彼女に渡しました


彼女はホンワリと笑ってくれました


あれは嬉しかった




彼女との日々は


正に幸せというにふさわしいものでした

もちろん病院の中に限られた会瀬だったけれど、私は幸せでした。彼女もきっと…そう願いたいものです




私はもう一度蓋をあけました。


彼女の手首はやはり静かにそこにありました。


私が愛した手首

私が誓った手首

私が…裏切った手首

私は蓋を閉め、もう一度目をつぶります。





彼女の余命は半年でした。


私は、それをある日彼女から告げられました。


私は何となく気づいていました。

彼女の容体は、いつだって安定しなかったので。


私は彼女に結婚の申し込みをしました。

お金が必要でした。

サラ金で借りることも出来ましたが、彼女はそれをよしとしませんでした。


なので私は働きました。


残業に加えて、会社に内緒でバイトもしました


私は働きました


彼女に会うのも我慢して


ひたすらに働き、


彼女に呼ばれても我慢して、


ひたすらに金をため、






気づけば彼女を失っていました


私は…間に合わなかったのです



私は彼女の死に目に間に合いませんでした。

彼女はずっと私を呼んでいたそうです

彼女はずっと私を探していたそうです


私は彼女を裏切ったのです

彼女を繋ぎ止めたかったばかりに、一番大切な時に彼女の側にいなかった




なので、私は本当は知っています

彼女が何をしたいか…

何のために来たのか…




私は恐怖で上手く動かない指に力を送りながら、彼女の手首を掴みました


私は彼女の葬式に行かなかった

私は彼女の墓参りにも行かなかった


私は彼女の存在自体を忘れるように生きてきました


彼女の目的―それはきっと私を…


裏切り者の私を○すことに違いない。



私はそれをゆっくりと首に押し付けました。


彼女が絞めやすいように―







しかし、いつまで経っても私の頚椎に圧力はかかりませんでした


殺したいんじゃないのか?

憎んでいるんじゃないのか?


私は彼女の手首を見つめながら途方にくれました


彼女は何も言わず小指を動かしています






「約束だね」




…彼女の声が聞こえました。


私は思い出しました

あの日、彼女に結婚を申し込んだ日に、彼女が言った言葉



約束


約束だった


小指を使う時は…


人と約束するときだった。




私は、彼女の動き回る小指に指を近づけました。

小指はホッとしたかのように私に指を絡めました。



私「指切りげんまん…」


私は唄いました。

幼いときから何度も歌った歌でした

針千本飲んでもよかった

彼女が帰って来るなら、針千本のんでも…


「指切った…」



私が歌い終わると、彼女はゆっくりと力を抜き、そしてもう二度と動きませんでした



私は静かに手首にキスをすると、ベランダの植木鉢の中にそれをそっと埋め、そして―









そしてその夜だけ、泣きました

昔、書いた物でした。

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