帰れない
少年は目に光を宿さないまま…
暗闇の中を彷徨っていた。
ーー二ヶ月前ーー
あれはまだ高校一年生だった頃…
ミオが、ウキウキと彼女からのバレンタインチョコのお返しのチョコを考えていた時の話である。
ネットで検索したり、女友達に相談したりして、明日渡す彼女へのチョコをどうしようかと悩んでいると、
彼女であるアヤから連絡が来た。
「今から会いたい。大事な話があるの」
ほほう、と思いつつ普段積極的ではない彼女から会いたいと言われ少し舞い上がりながら待ち合わせ場所のいつも学校帰りに二人で行っていた公園に愛車のロードバイクで向かった。雪が振りそうなくらい寒かった。
彼女はもう来ていた。神妙な面持ちで佇んで下を向いていた。嫌な予感がした。あ、俺振られるわ。そう確信していた。
「あのさ、言いづらいんだけど……うち、もうミオ君のこと……」
「あー、はい、言いたいことは分かった。一応なんでか聞いていい?」
無理をして内にある感情を隠す。
「普通に性格が無理でした。顔はいいのにね、ホント残念、性格」
「………」
「じゃあね、バイバイ。お返しいらないから」
「………」
携帯の時計を見ると3月14日を表示していた。雪が降り始めていた。
ーーそして今ーー
5月になり新学期からのあわだたしい空気がなくなってきた頃。
部活に入っていないミオはなにもすることなく友人とは話さずただ家に帰り、ゲームやラノベ、漫画を読み漁る日常を送っていた。今は元カノとなってしまった人からは連絡一つない。別れてから何もやる気が起きず、学校に通うだけの白黒の日々が続いた。
そんなある日の帰り道。ミオがいつも学校から帰るときに使っている道が工事で迂回しなければならなくなった。一番の近道を失い、山の中を通る羽目になったミオは少し苛立ちつつ仕方なく迂回ルートに向かう。
歩いている途中に細長いものがミオの目に止まった。ところどころ錆びた鉄の棒である。普段なら気にもとめないがどこか惹かれるものがあり手にとって持ち帰った。幸いミオの家は一軒家で置く場所には困らなかった。
その日の夜。ミオは拾ってきた鉄の棒を持ち中段の構えをし、ひたすらに振りまくった。角度を色々と変え振りまくった。何時間も。はじめは筋トレ程度に思っていたが、月日が経つにつれてただ振るだけから剣道の面、小手、胴の位置を狙うようにして振った。全身をとことん鍛えた。辛いなんて思わなかった。なんせ、彼女を失ったことが一番辛かったからだ。トレーニングはいつも夜に欠かさずやっていた。
春から夏へ、そして秋に季節が移り変わったある夜のこと。
ひたすら鉄の棒を振っていたミオの耳に女性の悲鳴が聞こえた。常人離れした脚力で庭から駆け出し、悲鳴のもとへ向かった。女性は街灯がない暗がりで押し倒され、襲われていた。
「離してっ!!誰か助けてー!!」
「うらぁぁぁ!!」
リクは持っていた鉄の棒を横薙ぎに振る。横薙ぎが来ることを知っていたかのように襲撃者は身を引きかわす。
本気で振るった棒をかわされたことにミオは驚く。ニヤリと襲撃者は笑い、身を翻しそのまま逃亡する。ミオは他人と関わることに嫌がったため、女性を置いて襲撃者を追いかける。襲撃者に追いつけないことに、ミオはまた驚いていた。住宅街を離れてしばらくすると、襲撃者は光る何かを取り出し、森の中にある獣道に消えていく。リクは危険など微塵も考えず、後を追う。
しばらくは足に道を踏む感覚があったが、途中でなくなり、見渡す限りの闇で襲撃者の背中すらも見えなくなっていた。
少年こと、ミオは暗闇の中を彷徨っている…