最強の凱旋
メインウエポン TTT-G
コンセプト 最強の遊び心
可変倍率10段式2~1024倍
精度誤差1ミクロン以下
対応環境制限なし水中可
一撃ですべての標的を撃破し、その一撃は敵を追従する。
1弾装填式のTTT-Gは一発弾を打ち出すごとに装填をする必要がある。
装填動作のマニュアル入力制。
装填動作を失敗すると本機は自爆する。
多少の範囲はランダムで許されるがノーミスでないかぎり高い精度は保たれない。
その装填動作は12万通り10~120動作をランダムで行わなければならない。
ただし初弾と完璧な装填動作を遂行した次弾は必ず敵に命中する。
スカイウォーがベータサービスを開始した当初から存在する地雷ロケットランチャー
弾速は 秒速 めっちゃ早い/s
誰しもが初弾の威力に目を輝かせ、次段装填動作で間もなく自爆しゲームにならないことから遠ざけられていた武器。
それを操る者が、今現れる。
――第18試合
終盤まじかとなり秋葉原MAPに対して各々が知見を披露しあらゆる攻略法を披露する中そこそこと名の知れた女が会場に現れた。
大黒 舞妓――このスカイウォーを日本にアプローチし、日本国内、世界全土にこのゲームを知らしめた立役者大黒堂の令嬢。
大黒舞妓もベーター時代からのユーザーであり、度々名のある大会には顔をだしている人物。
持ち前の冷静さで相手のプロペラを狂いなく打ち抜き地面にたたき落とすスナイパーライフルの腕前はプロ級と言われている。
そして彼女は第一席。
何故か彼女はプレイヤー席に腰を下ろした。
その表情は涼やかで、未だ袖に隠れる敵を横目に沈黙を貫いている。
あとにつられてぞろぞろと入場する挑戦者たち。
彼らの表情は固かった。見るからに脂汗をかいて今から始まる勝負に興奮が収まり切っていない。
それもそのはず、ぞろぞろと後につられて入ってくる堂々とした笑顔で会場に手を振る男、伝説のスカイウォープレイヤーカオルナンバーが今まさに横にいてこれから自分達と勝負をするのだから。それどころか超かわいい大黒舞妓までいる。
まさにここにいる何人かはその彼のプレイ動画を見てスカイウォーを始めたという者だっているだろう。
それほど彼は有名なのだ。
憧れなのだ。
そんな当人はというと、
――まったく緊張していない。
「うんうん、ネットでみるのと同じじゃないか!!うんうん、素晴らしい!楽しみだねぇ君君!」
隣で愛想笑いを返す青年は違和感を感じざるを得ない。
本当に彼があの伝説のカオルナンバーなのか。
というか、ゲームに本名登録するようなアホがいる事にも驚きだ。
こんなヘラヘラしたやつなら倒せるかもしれない。
それは隣にいた青年だけではなく、同じ土俵に上がったプレイヤー全員の共通意識だった。
――「それじゃあゲームを開始するぞ!みんなお待ちかねなんだ!デュエル!スタート!」
入場もつかの間すぐにログインを済ませると試合開始のアラームが鳴ってMAP情報のローディング画面に移る。
今出場している19人は誰がカオルナンバーか把握しているが観客は誰がカオルナンバーかわかっていない。
故にプレイヤー全員は決めていた。
開始同時にこのへらへらしている少年のTTT-Gを持った機体を一番に打ち抜いてやると。
ローディング画面が終了しプレイヤーはランダムに配置された自分の周囲を見渡す。
いない。
見当たらない。
もっと高い場所からみおろさなければわからない。
考える事はみな一緒十数機が同時に上昇をすると次の瞬間5回の発砲音が聞こえて同じく上昇していた機体5機が煙を出して墜落していく。
機体は地面にたどり着く前にリセットリスポーンしてまたHP全開の状態でランダムにMAP配置された。
「くっそ、大黒舞妓ぉ!」
この試合に今まさに臨んでいたドレッドヘアーの男が叫ぶ。
大黒舞妓は黙ったままだ。
暗黙の共通認識だっただろうとドレッドヘアーは大黒舞妓を睨み付けた。
まずはカオルナンバーだとか調子にのった奴の出鼻をへし折ってやろうってやろうって時に横水を差してきたのだから。
ドレッドヘアーは真っ先に大黒舞妓の機体目がけて直進する。
大黒舞妓の持つスナイパーライフルは5発撃つと4秒から5秒ほどの装填時間がかかる。
PSG-S。
スナイパーライフルでもっともポピュラーな武器だがそのロスタイムが長いことで長年プレイすればするほどこの武器からは卒業していくものなのだが大黒舞妓はこの武器を愛用している。
「っへ、そのくっそ長い装填時間じゃぁ、間に合いっこねぇよ!」
ドレッドヘアーのスピード重視の機体はもうまじかに、目の前に、ナイフを振り下ろす直前まで来ていた。
だが大黒舞妓の表情に変化はない。
――サブウエポン テキサスショットガン
あと数センチ、1秒もない感覚で繰り出されたショットガンにドレッドヘアーの機体は木っ端みじんに吹き飛ぶ。
「……嘘だろ」
ドレッドヘアーは開始数十秒で2ポイントもの差をつけられた。メインウエポンにナイフを持ってきている以上連続キルを狙える場面は限られる、このままなにか好機をつかまないとズルズル最下位に決まってしまう。
「くっそぉ!お前は後回しだ!それよりもあいつはどこいった!!」
ドレッドヘアー以外のプレイヤーも未だ探すが見当たらない目当ての人物に仕方なしに周囲のプレイヤーを手あたり次第襲っていた。
その中で大黒舞妓は今まさに自分達がプレイする秋葉原タワーの最上階を制圧し、はるか上空から他のプレイヤーを寸分狂いなく打ち続けている。
「すごい!すごいぞ!さすが我らが大黒舞妓だぁ!ほかの選手は手も足もでないじゃないか!いやいやいや、KAORU.nambrだったっけ?そんなやつ出てくる暇すら与えないってかい姉さん!すごいやぁ!そのKAORU君はもう目立ったところがみえないけれどもう何回死んじゃって……しんで……ない?」
司会の男が有名プレイヤー大黒舞妓の活躍に会場を盛り上げるがただ一人、ポイントが増えも減りも微動だにしない今大会台風の目KAORU.namberに気付いて困惑。
他の選手もそれに気づくが未だ見つけられない彼の存在を気にしつつも目の前の敵に追われてそれどころじゃなかった。
でもきになるのは気になる、先ほど話しかけられた青年がちらりとKAORU.namberのプレイデスクをみてみると彼の画面は真っ暗。
「ほぅあ?」
思わず変な声がでる。
それもそのはずだ。
プレイ画面が真っ暗なのに彼の手は止まることなく動き続けている。
両手はキーボードではなくマウスに添えられて、マウスに備え付けられている割り当てボタンをせわしなく連打していた。
間違いなく聞こえるのは彼が打ち出す発砲音。
間違いなく彼も戦っている。戦ってはいるのだけれど、いったいどこで?
彼は笑っている。
謎に支配され気をとられ。
「あぁ、」っと大黒舞妓に打ち抜かれ墜落する画面を見る青年。
そして青年はさらに声をあげた。
打ち抜いてきた大黒舞妓の機体を見つめると、はるか上空から何か影が迫っている。
影、違う、それはまさに。
TTT-Gから打ち出されるミサイルだ。
先端に生意気そうな顔が描かれ全身真っ赤なミサイルが秋葉原MAPすべてを覆いつくすように降り注いでいた。
大黒舞妓も青年の声を聞いて振り返る。
だがそれは遅い。振り返ったその時にはもう、被弾していた。
降り注がれる弾幕にほかのプレイヤーはなすすべがない。
そしてそんな状況のなかまさにこのときだと見計らったように大きな笑い声をあげて弾幕ちりばむ上空に浮かぶ機体。
KAORU.namber と表記された機体が浮かび上がった。
「わっはっははっは!がっはっはっはは!私こそが最強!”」
朱雀院カオルはもはや勝利を確信して手放しだ
「君たちはTTT-Gを難しいからといってTTT-Gを勘違いしているのだよ!」
彼が勝ち誇る最中にも降りやまぬTTT-Gミサイルに死に戻りリスポーンをしてもすぐにHPを0にされなすすべがない他のプレイヤーは彼を見つめる。
「TTT-Gはこういう使い方もできるのだ!どうだ諸君!これが吾輩KAORU.namberである!」
TTT-Gから放たれる弾幕に自分も巻き込まれるがその分ほかのプレイヤーの死亡ポイントが加算されるのであっという間にKAORU.namberのポイントは勝利条件の100ポイントを達成した。
普通であれば到底到達しえない数字なのだが彼はものの3分で成し遂げてしまう。
「勝者――KAORU.namber」
――ネット上に伝説として存在していたプレイヤーの正体はまだ成人すらしていない少年。そしてその伝説の勝利を素直に称賛していいものか疑ってしまうプレイスタイルに会場は鎮まりかえる。
「何よ、あれ――」
仕事の合間をぬって様子を見に来たリリカの表情は、腑に落ちない顔をしていた。