名声なきライバルの産声
――20人の個人戦
――参加者401人
――1試合10分
――1度勝てば決勝に進める
――1試合に勝者は一人
秋葉原MAPは市街地でNPCである歩行者も多いことから小回りの利く機体が選ばれる事が多い。
無害のNPCを攻撃してしまうと対戦相手以外にも敵対的NPCが現れ襲われてしまうからだ。
小回りが利くということはつまり、軽量であるということで、それに合わせて武器重量にも制限があり、多くの物はハンドガンのような小型単発照準の中距離武器。
それか武器の重量どころか装甲を薄くしてまでも速度特化し、超接近戦のナイフのみを使うものがほとんど。
第一試合はカオルナンバーという起爆剤に焦がされ盛り上がりをみせていたが全員が中距離型のサブマシンガンを使用してしまい対戦どころか敵対的NPCをいかに避けるかといったグダグダな展開となってしまっている。
制限時間いっぱいまで戦うが全員揃って満足にキルも稼げずに見どころもない10分だった。
アマチュアの世界。
所詮そんなもの。
みなはまだかまだかとその存在を待ち望むも退屈すぎる見ごたえのない試合に始まると同時にTTT-Gを装備するプレイヤーがいなければ出て行ってしまうものもいた。
――第6試合
丁度1時間が過ぎたころ会場がかすかに沸いた。
「ゼログラムだ!」
「ゼログラムすげぇ!」
「誰だあんなレア武器当ててる奴!」
指定希少武器――ゼログラム
ゲーム内サーバーにおいてあまりにも強力な事から存在個数に制限がかかり日本サーバーにおいては毎週7人までしか保有されない希少武器だ。それは名前の通り重量がなく、だが切れ味鋭く一撃で相手の機体HP残数をゼロにする。
欠点は唯一、射程もゼロ距離に近いということ。
相手とぶつかるように接近しなければ攻撃判定が行われない。
「すげぇ、すげぇよ!クロイ?クロイって聞いた事あるよな?」
「クロイって地下賭博場MAPのランカーじゃなかったか?」
「あ、俺ナイフばっかり使ってるから知ってる知ってる。今月夏休みに入ってからずっとランキング1位にいる奴だよ。地下賭博場TOPランカーがゼログラム毎週配布されてるのは知ってたけど、まさか今日のためにランキング1位キープしてたのか」
「ていうかどいつだよ、その操作席にいる奴がクロイだよな?!」
会場は久々に沸く話題に選手の顔を見定めていく。
チェック柄シャツの男。
違う。
全身スーツの会社をズル休みしてきたような人。
違う。
上下ジャージのボサボサ頭のおっさん。
違うだろう。
――いない?
そのいないというのはクロイがいないというわけではない。もちろん目の前でかすかに動く腕の動きが見えているのだがクロイらしき人物の姿は操作画面に隠れて見えない。
「おいおいおい、まさか?クロイってよぉ!」
――試合終了!
「やったぁぁぁっぁぁあああ!」
勝利条件達成 WIN クロイの文字がスクリーンに浮かび出たと同時に立ち上がったのは見るからに小学生の少年。
会場はどよめく、今の今まで魅せられていた試合を子供が圧巻していたなんて。
ただ単純に操作性が優れているとかそういった問題じゃない。
クロイはほとんどのキリングで行っていたのは心理戦。
相手に見えるように行動したかと思えば人影に潜り込み追ってきたところを後ろに回り込む。
はたまた待ち伏せをする。
それが上手いように対戦相手がひっかかるものだから見ごたえがあった。
あんな子供がひとを馬鹿にするよような戦いかたしていたのか。
会場にいた全員が彼と一戦交えてみたい感情に駆られ沸き立、その声を置きざりにクロイははけていく。
「あいつ1っ回も死んでねえぞ…」
誰かがそういった。
――第11試合
ゼログラムのように希少武器やランキングに顔を出すプレイヤーもちらほらと現れそこそこに盛り返した会場に未だTTT-Gを扱うプレイヤーは現れない。
それどころか、あの第六試合のゼログラムの戦い方に触発されてナイフを使うものが多く現れた。
この第11試合でも全員が一様にナイフを所持している。
試合が始まると同時に混戦。
全員が接近戦であると一様に判断したことから秋葉原駅上空に十数機の機体が押し寄せる。そこは刹那の瞬間に相手を読み、引くか攻めるかの押収が繰り広げられる。
――ドゴオオオオオオオオオン
大きな爆発音。それは秋葉原駅上空で乱戦していた機体たちを突き抜けて空高くに爆炎が立ち上った。
一瞬で19機のデスポイントが加算され、たった一人のプレイヤーに19ポイントが加算された。
――サブウェポン
メイン武器として全員がナイフを選択していたが彼だけはサブウェポンに大量破壊兵器DORAを使用していた。
DORAは1試合1発しか打てない使いどころを選ぶ戦略兵器でまさかこんな市街地MAPでぶっぱなすプレイヤーがいるとはだれもおもわなかった。
NPCにダメージを与えてしまえばそれで終わり。そんな固定概念から誰も視野にいれていなかった武器を混戦の真下から打ち抜くなんて。
あとはナイフ戦特有のジリジリとした均衡するポイント稼ぎが続き、結局最初に19ポイントの差を作っていた奴が勝利を収めた。
青春少女あけみ
その勝利をおさめたプレイヤーの姿にその場にいる全員が注目する。
――キコキコ
車いす?
――ッギュッギュ
溢れている?
――バイイン~~~ん
そこには車いすに腰掛け自らの太い腕で力強く車輪を押し出す年齢不詳の女の姿。
いや、性別も不詳かもしれない。あの溢れ出た体脂肪に押しつぶされぎゅっとなった細い目。
何カップなのか見当もつかない胸元。
服はかろうじて女性らしい、大人っぽい紫色だ。
全身体脂肪と言っても過言ではない彼女が勝者らしい。
「いや、まぁでもプレイ内容はすごかった――よな?」
「あぁ、そうだな――みんなあのあとあけみとかいう人目がけて全員襲い掛かってたもんな」
「あぁ、今思えばまるで相撲部屋で稽古つけてるような……」
「よ、よせよ、見た目じゃないって!スカイウォーはゲームなんだからさ!」
「そ、そうだな!」