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 ――わっはっは


 ――わっはっはっは


 ――だぁぁあっはははははは!



 「――わっへっへ、ベックション!」



 「あ、やっと起きたよ寝言が凄すぎて起きてるんだか寝てるんだかわかりゃしないよカオル兄ちゃん」

 「いやいや、まだ寝てるよきっとお水かけてみる?」



 ――ビチャ!


 Yu-Su-姉妹は白い湯気が昇るやかんを手に取って朱雀院カオルの額目がけて注ぎ込んだ。


 「――あっつぁぁあ!!……っは……」



 朱雀院カオルは爽快にも3千のゾンビをなぎ倒し自分が最強であるという何よりも得難い承認欲求を満たし、その余韻の中で採掘場の中心で倒れていた。


 最後の1匹のゾンビを蹴散らしたところで眠ってしまったという。



 そして気が付けば布を張った簡単な日よけの下で、もうすでに昇る太陽の元に目を覚ました。



 「まったく、お兄ちゃんのせいでこんなとこで野宿することになったんだよ!」

 「はやくいくよ!」


 姉妹は一団を連れて螺旋の坂を昇り始めていた。


 あけみはさすがにこの坂道を神輿に担がれ昇るのは申し訳ないかとなけなしの優しさを見せて自分でドローンを使って昇っていく。


 「いやぁ、2週間くらいしかたってないのにずいぶん会ってない気がするナカオル」


 眠気眼のまま歩き出したカオルの横に着いたのはロジャー、大会中とはまた容姿がずいぶんと変わってしまって、もはやサイボーグと言って過言ではない姿に改めてどう反応していいか困る。



 ロジャーは聞かれる間もなくどうだと見せびらかし、ランクアップ報酬の選択武器なんだと説明してくれる。なんでもBランクになると2機ドローンを追加でもらうか、この装着型、自分の体に装備するタイプの武器を選べるというのだ。


 その中でもロジャーは弾数の心配がないこの機械アームの着いた装備を選択した。理由は昨日のような対集団戦には弱いが大型変異種と呼ばれる箱舟の子が異形化すると産まれるようなボス級には最適なのだ。


 「ロジャーは箱舟の子っていうのはもう何か知ってるのかい?カバビさん兄弟とか言ってたけどあいつらのことも?」


 「あぁ、え?クエスト画面にかいてないカ?最終クエストが首領・バナゼーレの討伐って書いてると思うんだガ、そのバナレーゼがいる城砦都市ココリコに行くのに行くのに条件が書いてあるだろウ?」



 朱雀院カオルの操作画面には相変わらずそのクエストやらは表示されていない。なんなら、戦闘を行うための切り替えボタンといつの間にかポイントが加算されているCとかかれたランクしか表示されていない。


 チュートリアルもなかったことに加えて朱雀院カオルに関わるシステムは一部不具合を起こしているようだ。


 「そんなことガあるんだナ?お前以外そんな奴いなかったがナ。まぁいい、その条件の一つがカバビさん兄弟の討伐サ。奴らは反乱軍バナレーゼの戦略指揮官で次々と街中にゾンビを解き放ち進軍してくル」



 ほら、っとMAP情報が赤と青でわかれているだろうと、ロジャーが今度はMAPを開くように指示してきた。カオルは最初の方に勝手に開いたレーダーかとそれを開いてみる。



 するとたしかに、ブラハが赤く染まり、そのすぐ西側が青く広がっていた。



 「それが制圧境界線ってやつでナ、カバビさん兄弟はゾンビを使って次々と街を侵略し、その青い領地を増やしていってるのサ。それが80パーセント以上制圧されると俺たちの本拠地が攻撃される。それを阻止しながら逆に80パーセントの領地を制圧するかカバビ三兄弟を倒さないと城砦都市ココリコに行けないんだ。もっともAランクを越えると領地構わず進めるんだが999万ポイントもいるんだ。条件がそろわないと領地を踏んだ瞬間体が勝手に動いて外に追い出される。――やったらついでにカラカラゾンビの大群に囲まれたからやらないほうがいいゾ」



 がははと笑ってロジャーは無気力孤児と箱舟の子については商船団護送車を襲うクエストで何かわかるらしいとだけ教えてくれた。


 ロジャーも知っているのは箱舟の子と呼ばれる子供が奴らの手中に落ちると割かし手の焼くゾンビに変異してしまうということだ。


 「――そっか、そういう感じなんだ。ところでロジャー、そんなにカタコトの日本語話してたっけ?」


 「――?」


 ロジャーは不思議そうな顔をして応えてまぁいいやとカオルはレミーを探した。


 すると、レミーは、箱舟の子と呼ばれた子供達のそばで面影すらもう残らないリベリカの死体の目の前で立ち尽くしていた。



 カオルはレミーに歩み寄るがかける言葉も見当たらずに、ただそばにいてあることしかできなかった。


 「――箱舟の子、僕らは怪物になるために産まれてきたんだって」


 箱舟の子と呼ばれる子供の一人が口を開く。その後に続くのは「ありがとう」助けてくれたお礼なんだろうが、先に出した怪物になるために産まれてきたという言葉に含まれる感情は何なんだろうか。


 さらに他の子も声をひきつらせ泣き始めてしまう。


 「私達、人を殺すために産まれてきたんだって」


 生きていていいのかなと大きな牙が生え渡り、血を垂れ流すリベリカを見て助かった命の、自分の価値を問いかけていた。



 ――カバビ三兄弟に言われたのだという。



 「お前らは我らが買った奴隷であると」



 死んだ方がいいのではないのか、いずれリベリカの様に異形を成して街のみんなに仇なしてしまうのなら生きていてはいけないのではないのか、ただでさえ嫌われ生きている存在なのにもう本当に迷惑しかかけていないじゃないかと――。


 ――自分達が生きる意味はなんなんだろうか



 レミーが12歳でこの子達もそう変わらない子供達だろう。


 ありえない現実に考えさせられてしまうのも無理はない。



 「み、みんな!せっかく助かったんだ!良かったよ!僕うれしいよ!またみんなと暮らせるって思ったら、おばあちゃんだって泣いて喜ぶよ!心配してたんだよ!みんなが戻るとおばあちゃんだって僕だってうれしいんだ!」


 レミーの無理にでも励ましの言葉に子供達は無理にでも笑い返す。


 ――帰ろう



 こんなのは、悪い冗談で、こんなのは、嘘だと信じて。


 いつもの、手を取り合い明日を生きる日々に戻ろう。



 ――この現実を直視するには、まだ僕らは力もなくおさなすぎる。


 ――どうしようもないんだ。






 「……ロジャー?」


 「ん?どうしたタかおる?」


 悲劇に打ちひしがれ寂しげにもカンカンラクダに跨り去る少年少女を見送って話しかけるカオル。カオルは聞いた。その領地というシステムについて。



 このブラハに隣接する都市が3つある場所、一つはバハナ、他二つは青の領地に染まっている。



 「この青の領地って取り敢えず制圧しちゃえばブラハもあるし、バハナにはカバビ三兄弟もやってこれなかったりしない?」



 ロジャーはウンウンと頷いて鋭いなと太鼓判を押す。


 カバビ三兄弟は占領した領域の隣接的区域なら移動できるのだ。しかし二つ制圧ポイントが離れていると入ってこれないシステムらしい。



 「じゃぁ、そこ二つ制圧してくればいいのかぁ」


 それはあの子達をみて感化された。衝動的なもの、ロジャーは笑った。


 感情を押し殺したように、ポーカーフェイスを気取って聞いていた朱雀院カオルの心中は案外穏やかではないらしいことに。



 カオルはそうと分かればとレミーに駆け寄る。



 「……なぁ、レミー」


 「――あ、カオルさん今回のことはありがとうございます」


 「……いや、礼なんて貰えないよレミー、最強だ最強だと大口叩いて、いざ君を背に背負い込もうと思えば自分がその強さから逃げていたいた事を思い出されることばかりだった。何回も死にかけた。俺は、吾輩は、もう一度最強であり続けると君に誓う」



 「――カオルさん?」



 「レミー、吾輩とともにその子達を守ろう。吾輩の苗字は朱雀院、その一族は慕い寄り添う家族を背負い守り抜き生き抜いてきた。吾輩は一度何故背負わなければいけないのかと、自分じゃなくていいだろうとその運命さだめを投げ捨てたんだ。恥ずかしいけどゲームの世界にね。だけど、こんなにも仲間思いで、命を投げ出し駆けずり回る君が蔑まれ、何の罪もない子供達がわけのわからない化け物たちにいいようにされましてや奴隷なんて言われている世界吾輩は許せない。だから――君を背負わせてくれないか」


 

 ――確信がある、ここはVRゲームの世界なんかじゃない。現実なのだから。



 「カオルさん……すごい、うれしいです。誰かにこんな必要にされた事なんてなかったので」



 「そんなことはないだろう、ほら、君を誇りに思うその子達がいるじゃないか――」


 カオルの指さす箱舟の子達。そうですねと笑うレミーは一つだけお願いをした。


 その恩については必ずお返ししますからと、街に戻ったら姉さんに贈り物だけはおくらせて欲しいと。


 生まれて初めて、自分に生きる道を示してくれた人なのだという。この大きな体もその人あってのものなんだという。



 朱雀院カオルはニヤける。





 「――まかせろ、盛大なパーティーにしてやる!」

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