行方
常闇を照らす月明かり、今宵は風もなく足跡がはっきりと見える夜――。
つい先ほど攫われた少年少女たちは見通せる限りのこの砂漠でも見つけ出せないほどにすでに距離があるようだ。
どれだけ目を凝らしても足跡が続く道しか見えてこない。
「この方角――何百キロも離れた海に向かっているのでしょうか……」
腰にぶら下げた革袋から金属の道具を取り出すと考え込むレミー。
「それは何かまずいって感じかい?」
カオルが渋い顔をするレミーに気付いて問いかける。
レミーはそうだとすると1日カンカンラクダを休ませてからでないと海にはたどり着けない事実と、帰りにもそれ以上の時間がかかり、さらには徒歩で帰らなければいけない子供達の食料や歩き続けられるのかが心配なんだという。
カオルもレミーの話を聞いてそういう事かと顔を顰めた。
一度自分が戻って食料と乗り物を用意するか、それでもレミー一人に行かせるわけには行かないし、土地勘のない自分がこの足跡を追って無事救出できたとしてもバハナへ戻って来れるかと言われれば難しい。
「あれ、カオルさん……」
同じく考えていたカオルに声をかけるレミーが見つけたもの、それは大雑把に三角錐のようにただずむ岩石を目印に足跡が直角、南に向かって進路を変えていたのだ。
岩石のふもとで足跡がいくつも潰れており何やら時間を食った様子があったのでそれに向かい駆ける二人。
――たどり着くそこには潰れた足跡の上に飛散する血痕
――岩壁に倒れたカラカラゾンビの屍
ここで何かあったのは明白。
あたりを見渡してカオルがレミーの乗るカンカンラクダを蹴り飛ばした。
勢いよく走りだしたカンカンラクダの背後からは沸きだすように飛び出す太い牙を携えたゾンビが歯を鳴らせレミーを睨み、逃げたのに気づくと今度はカオルに矛先を向けたる。
少し遅れて走り出すカオルにゾンビは追い続けた。
カオルが微かに聞き出したゾンビの初動に、あと一歩遅れてしまえばかえの利かない足が奪われるところ。
「――なんだこいつら、今まで見たのと全然違うじゃないか」
湧き出たゾンビは決してその一匹だけではない、次々と同じように牙を持つゾンビが沸きだして二人を追いかける。
「ドレッドゾンビです!”こいつらは人の血を吸って成長するんです!でもこんな数みたことがないですよ、年に1回、街に迷い込んでくるかどうかの奴らです。――それがこんなに」
「――罠ってことか」
二人は無数に追ってくるゾンビにそれ以外の焦燥が掻き立てられる。
もしかすると子供達を攫った三人組は後から追っていった子供達の存在に気付いているのかもしれない。だとすると、その子供達が危ない。
「たぶん、大丈夫です。たぶんこれに引っかかってしまったのは僕たちが最初みたいです。一緒にずっと暮らしてきてますからわかります。僕らは必死に生きてきた分しぶといですから――」
そう言うとレミーは革袋から赤い瓶を取り出し蓋を外すと追ってくるゾンビ目がけて投げつけた。
すると飛散した液体が一匹のゾンビに降り注がれ、その周りにいたゾンビたちが一斉にそのゾンビに襲い掛かり、牙を突き立てた。
「――無気力孤児の血です。栄養失調で亡くなった子達の血を分けて貰ってこんな風に僕らはゾンビから逃げたりしてます」
――険しい環境で育った故の知恵
生きるためにあらゆる手段を模索して手に入れた防衛手段なんだろう。
レミーはも追って来ないゾンビの大群を見計らい、もう一度金属の器具を手にするとカオルに伝えた。
――この方角はゴーストタウン・ブラハへと向かっていると




