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大笑いの酒樽

 砂とほぼ同系色でできた土壁の建造物には入り口にのみ木材が使われており、大笑いの酒樽へようこそと看板も飾り付けられている。


 その建物は他の家屋と同じ横に長い立方体で住宅と少しちがうところは天井の高さが1,5倍ほど高かった。


 入ってみればこのバハナでよく見かける褐色の肌をした女性がただずまい、小奇麗な白色の制服を着用している。まさにナース服にくりそつだ。


「ようこそ大笑いの酒樽へあけみ様、Yu-様、Su-様。そちらの方はおつきの方ですか」


 女性は目だち過ぎるどでかい熊と二人の少女とイケメンと自負する朱雀院カオルの登場にすぐさま頭を下げて歩み寄ってきた。


 「――そうね、ただのチェリーボーイよ」


 「あけみ!?」


 「チェリーボーイ?」

 「チェリーボーイ?」


 何故それを見抜いたと自称イケメンはこの類を見ないほど整った顔をした17歳が童貞であることを見抜くなんてこいつただものじゃないと恐れおののく。


 普通こんなに目鼻立ちがよければ17歳だろうが彼女の1人2人、いや10人くらいいたと勘ぐってもおかしくないだろうとちょっと彼の自尊心が傷ついた。

   

 「――だってそうでしょ?クエストやったことない初心者なんだから?」 


 あけみは顔をパンパンに膨らませてチェリーボーイではないだとわめくカオルに、冗談の通じない子だわねぇと蔑んだ目で応戦。



 「左様でございますか。それではかおる様!ご説明いたします」


 大笑いの酒樽はこの島全域にある街すべてに店を構える情報屋で変異種ゾンビの出現情報や大量発生したゾンビの討伐クエストを領主、民間から受託し斡旋もしている。


 討伐クエストには基本的に15歳を越えるものであればだれでも参加することが可能でカオル達のようなプレイヤーだけでなく、NPCとされる民間人もここ大笑いの酒樽で仲間を集い、一攫千金を夢見て徒党を組んでいくのだ。


 今日も2階では自分たちの武勇伝に花咲く傭兵がたむろして騒いでいる。


 カオル達プレイヤーがここ大笑いの酒樽に足を運ぶメリットはまず先に変異種やボス級ゾンビを倒した際、ランクアップした際の武具をここで受け取れるという事。


 そして大規模クエストとなると多いものでゾンビの数が千をこえる事があるのでその際武器の都合上本体の守りが薄くなるために護衛を頼むものなのだとか。


 あとは色々と、首領・バナレーゼの動向や、島の異常気候など、旅にはかかせない情報が提供される。



 「プレイヤーの方には登録作業等は必要ありません。しかし一度傭兵登録を済ませてしまうと1週間分の食事、寝床は用意することが義務付けられていますのでそれも考慮したうえでの契約をお願いいたします」



 説明が済めばでは、っと受付嬢があけみに近づき今日はどのようにされますかと問うとあけみはとりあえずと一本指を突き立てた。



 「あら、あけみ様久しぶり大規模クエストをされるのですか?」


 「――えぇ、ちょっとサボテンのステーキにも海鳥の肉にも飽きてきたし新地開拓といきますわ」


 あけみは最初いきなり100人の傭兵を雇い、ゾンビが街中を蔓延っていたバハナを制圧して見せた経緯がある。その百人をなんとなく雇ってしまったので後々食料を配布するために外のゾンビを駆けずり回り迎撃していた時期があった。


 もう百人も雇わないと決めていたあけみだが領主として制圧したあとのうま味を知ってしまった分また今度はどんなごちそうがあるのだろうと大盤振る舞いに100人を斡旋した。


 「Yu-は二人でいい!」


 「Su-も二人、女の子!」



 畏まりましたと受付嬢は机に戻ると2枚紙を用意して書き込みを終えるとカオルを見た。



 「カオル様は何人お雇いになられますか?」


 「えー、じゃぁ吾輩も二人かなぁ?」


 さらにもう一枚の紙を書き終え、行き先をあけみに尋ねると階段を昇り掲示板に張り出しに行く。


 ――するとどうだろう。


 一斉に人が掲示板に群がりワチャワチャキャッキャと騒ぎ立てると数十人いた傭兵が階段を駆け下りカオル達を横目で一瞥してから店の外へと出た。


 「――これはこまりました。あけみ様が人気過ぎてこのお店では収まりきらなそうですね」


 なんでそこで吾輩の名前がでてこないのかとカオルは女を見つめるが彼女はなんの悪気もなく笑顔で答える。



 「そーよねーあけみちゃん支給物資は全部傭兵にあげちゃうもんねー?」

 「みんなお仕事ないからみんなあけみちゃんだよりだもんねー?」



 バハナはゾンビから解放されてから1週間ちょっとしかたっておらず、みな生計を立てる土台がグラグラなのだ。故にあけみは子持ちの母親など使用人を雇用してみたりとここバハナの街では信頼が厚い。


 一方カオルのような新参ものは最初募集をかけるのではなく、一人ひとり声をかけてスカウトするのが通例なのだとか、命と1っ週間のくいぶちをあてにするので信頼がない雇い主の元へは誰も来ないという。先に言えよと言いたいカオルだがもう2階に誰も残っていないのを見て諦める。


 なんなら一人でも問題ない。


 最強ゆえの余裕であると自信をもって、


 最強故にわかってくれる者はかならず自分についてくるだろうと確信をもって。



 「あげるも何も、あれ不味いのよ……」


 あけみは謙遜とは明らかに違う苦虫をすりつぶした粉末を飲み干すような顔をしてその物資の味、お粗末さに首を振った。


 砂漠地帯故に井戸を設置できる地形を中心に構成される街が多いのだが食料は外界の世界に頼っているのがこの島の現状。月に一度来る外商人の時期にまとまったお金を用意していなければ月を越せない実情にあけみのような大型雇用主は何からにもすがられる存在なのである。


 故に報酬物資のほとんどをいらないとして武器パーツにしか興味のないあけみはなおさら羽振りのいい主だと大人気。


 「御三方!ちょっとこりゃぁ店の中はいれねえや!外でメンツを選んでくりゃぁせぇ!あけみ様の人気っぷりたぁすごいですよ!」



 ワッ――と唸る外の歓声。


 100人規模と聞いてこれぞ一攫千金だぞと何百人集まってきたんだという声が聞こえてきた。


 呼ばれて外に出てみればそこには10m以上ある道幅を覆いつくすようにずらにとならんだ人の数。



 このほとんどがあけみを頼り集まってきたこの街の猛者たちだ。


 そしてそのなかに10人足らずの女性がYu-Su-姉妹に手を振っている。


 Yu-Su-の顔をみるとどうやら顔なじみのようで聞くと何度もパーティーを組んだ中らしい。


 



 さて――――、ではこのイケメン最強朱雀院カオルとともに勇姿を振りかざしたいと現れたものは何人いるのだろうか。







 ――ゼロ






 いや、おかしいだろうと横を見る。あけみと姉妹とカオルが離れて並び、希望の雇い主の前へと整列するように受付嬢が指示をだすとあの集団すべてがごっそり一番右に腰を下ろしたあけみに移動して朱雀院カオルの目の前には人っ子一人いない。



 「しょうがないよ!」

 「はじめてだもん!」


 姉妹の気を使ったエールに励まされるどころかさらに自尊心を深くえぐり取られてそんなにこのイケメンナイスハンサムガイの顔は頼りなく見えているのかと三角座りで二人の選別が終わるのを横目でじっと待つカオル。



 いじけて、


 いじけて、


 ついには地べたに転んで


 あくびを掻いて。




 「――っけ、一人でいいもんね!一人で十分だもんね!一人のほうが足手まといがいなくていいもんね!」



 プンスカプンスカうじうじしていると大きな足音が聞こえてくる。



 ――ドスン  ――ドスン



 聞き覚えのある重量感にあけみかとカオルが見上げるとそこには全く違う大男がいた。


 それとともにざわつく会場。


 カオルも声こそださなかったが周りの傭兵とともに彼の存在に驚きを隠せない。


 そこに立ち尽くす男はかおるよりも2倍はあろうかという肩幅、腕っぷしから体の隅々までが隆起したたくましい程の恵体。


 2mはあるのではないだろうか?



 そしてなにより、その体が支える大きな顔は、瞳が一つ 



 片目がとかではない、鼻の上に顔の中心から一つの大きま目が朱雀院カオルを覗いている。


 漫画やなにかで見たことがあるサイクロップスと言われる一つ目の巨人だと紹介されても違和感はない。


 「――なんであいついんだよ、きったねえなぁ」

 「――ほんときっもちわりい」

 「くせえからくんなよ、なんであいつ街中まででてきてんだよ」


 集まる傭兵たちの中から聞こえる数々の悪態。


 しかしカオルの目の前にただずむ大男は堂々とし、カオルに近づくと頭を下げた。


 それはただお辞儀をしたのではなく、ヒザをついて、カオルも人生初めてみる土下座だった。


 ――彼は言う。



 雇ってください。


 こんな見た目ですが懸命に働かせていただきます。



 カオルは答えた。



 「――声高!」










 ――この大男、歳は12歳という



 



 

  

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