海鳥
「ついたわ、ここが今日のディナー会場ボコボコ岩の養鶏場よ!」
ピタリと宙で制止して魅せた青春少女あけみがいち早く追従してきたカンカンラクダの背にあるバッテリーをドローン二機と交換してみせるといきなり一撃で鳥を打ち落とし、もう一機で落ちた鳥を回収してみせる。
――ゴロゴロゴロゴロ!
「あけみ、その武器って俺みたことないんだけどなにそれ」
朱雀院カオルですら知らない武器を装備する青春少女あけみのドローンは次々と鳥を打ち落とし、そのたびに鳴る地鳴りのような音と、もう一方の落ちる鳥をつかみ取るドローンが持ってくる取りには銃跡がないことが謎を呼ぶ。
「――」
あけみは夕食に夢中で答えようとはしない。
よく目を凝らしてみると細い糸のようなものが発射されていて、鳥が打ち落とされる瞬間にドローンから切り離されているようだ。
「スパイダーファイバーショットガン!」
「細い針を打ち出してバッテリーからの電流で相手を仕留めるの”!」
姉妹の説明を受けて納得がいく、みるからにあけみに打ち取られた鳥たちは死んでいるようには見えないからだ。どうやら気絶させているだけらしい。
この打ち落とされていく海鳥はここから約120kmも離れた海辺から訪れるらしく、羽化したひなにエサを与えるため毎日往復の日々を過ごしていくのだ。
なかでも珍しい生態として、自分の子供ではなくてもお腹を空かせたひな鳥をみれば他の親鳥たちがエサを分け与えてくれるのだという。
それゆえにいくらこのような青春少女あけみが行う理不尽なジェノサイドが行われようとも個体数は減らない。さらには個体ごとの優劣を群れで各々判断し、優れた者同士から繁殖して増えすぎた時は劣るものから自ら繁殖行動を絶するという。
この小さな、それでも何千羽といる限られた岩の中で群れが共存するために自然と得た生態系なのだろう。
なにより繁殖からあぶれた個体であっても、懸命に種の存続に貢献しようとエサを運び続ける姿は誇りに満ちている。
――人間がこんな生態系を保つことができるだろうか。
「あ、そういえばきちゃったとお兄ちゃん」
「出番だ兄ちゃん!」
姉妹は鳥の狩りはもう青春少女あけみにまかせろという、それよりも今なすべきことは、追ってきたゾンビどもを蹴散らしてしまう事。
「え、でも弾ないんだけど!」
――バサッ
姉妹から投げつけられた箱の中にはおよそ500発の銃弾が入っていた。
「まさかお兄ちゃんの武器が最小口径だなんて思わなかった」
「それだけしか最小口径もってないけどがんばってお兄ちゃん」
朱雀院カオルは不敵の笑みを浮かべて応える。
背から取り出したドローンから空になった弾倉を取り外し、新たに500発の銃弾を装填する。
それは脳に自然と刷り込まれていたかのように行えた。今まで一回もやったことがない動作だが、この金属で覆われた頭蓋の下で何かが伝えてくる。
朱雀院カオルは装填を終えるとカンカンらくだに跨りながらドローンを投げつけた。
「――戦闘モードヲ開始シマス」
飛び上がるドローンはゾンビの両腕を捉えて銃弾を浴びせ、よろけた隙に虎鉄に持ち替えて両足と頭を切断する。
段々となれてくれば一度に10体の腕を打ち落とし、10体同時に頭をそぎ落としたかと思えば、視界が高速でかいてんする中で10体の足を切り抜きまたたくまに制圧していく。
「わっはっはっは!吾輩は最強!使い方さえわかってしまえば吾輩に敵はない!」
相変わらずだなぁと姉妹があきれて愛想笑い姉妹もAK99を携えてドローンを飛ばす。
AK99は一撃で腕を吹き飛ばし、2,3発で両足と首を吹き飛ばす。
普段ガトリングを使い、正確な操縦を行っていた姉妹にとっては朝飯前。
――あっという間に周囲のゾンビは蹴散らされた。
「オメデトウゴザイマス。ランクFニナリマシタ」
またも右耳から聞こえるその音に、それと同時に数字がカウントされていることに気付く。右下にある数字。
――51ポイント
「――なぁ、Yu-Su-。右下のポイントって何かな?」
姉妹は今何ポイントかと尋ねてくる。
51ポイントと答えるとプププと笑われじゃぁ二人はいくつなんだと聞くと
「10600ポイント」
「10599ポイント」
桁違いの数字に目を丸くするが今自分がFランクだと言われて、Yu-Su-姉妹と同じ階級のはずだとして、青春少女あけみはいったいいくつだというのか。
「49万くらいよ、端数はいいでしょ?」
FとDの間に分厚い壁がありすぎやしないかと絶句。
しかし姉妹いわく、クエストを受けて討伐すればこのぐらいのポイントは余裕なのだそうだ。
なにより青春少女あけみは一人でボス級を退治したことが大きかったらしい。
「すごいのよあけみちゃん」
「着た瞬間目の前に大型変異種ゾンビがいてね!倒しちゃったの!」
大型変異種ゾンビがいったいどんな敵なのかわからないが姉妹は目を輝かせる。
「――いや、死にかけてたからとどめ刺しただけよ?」
平然と言ってのけるあけみの両腕には20羽はくだらない海鳥の山。
猟が終えればあとは買えるだけだとまたもここは迅速な動きでバッテリーを乗せ換えて飛び立つあけみ。
「さ、ディナーにしましょ」
結局カオルは操縦方法を道中忙しなく流れで覚える形となり、チュートリアルもくそもない、青春少女あけみの食欲のすごさを見せつけられただけだった。
「――チュートリアル受けたかったなぁ……」




