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朱雀院

 食事を終えた一行は各々が部屋に戻り荷造りをすることになった。


 大黒舞妓とリミットJKはSu-Yuー姉妹を迎えに行き、


 朱雀院カオルは突然こんな大会に出てしまったものだから手提げのビニール袋に買ったばかりの着替えを詰めただけなので暇をしている。


おもむろにテレビのリモコンを手に取り電源を入れるとチャンネルボタンを連打し始めおもむろに赤いボタンを押すとおもむろに硬直しまう朱雀院カオル



 「――っん、あぁ、んぅう!」


 あ、これ吾輩まだ見ちゃいけない奴のボタンかと即座に理解したカオルは2,3秒のつもりで5分以上リモコン片手に棒立ちになってしまった。



 変えなければ、電源を切らなければ、しかし知的探求心とさらなる欲が朱雀院カオルも支配して彼の右手は電源を切ろうとしてくれない。



 「……やばっすっご――――」



 脳裏には大黒舞妓が押し入ってきた時にリリカ・バイエルン影に押し付けてしまった事が思い浮かぶ。


 いや本当、リリカには困ったものだ。欲望かかんな17歳の部屋にはいろうだなんて。



 ――――コンコン  ――ピンポーン



 「――!?」


 朱雀院カオルは部屋のチャイムでようやく我に返る。


 急いでテレビの電源を切って何食わぬ顔をして扉を開ける、するとそこにいたのはリリカ・バイエルンだ。



 「リリカ!?」


 「――さっきはごめんね、そっけない態度とっちゃって」


 「え、いや全然平気だけどそれを言いに来てくれたの?」


 「うーん、荷造り終わっちゃって暇してたんだ。21時だよね?出発」


 「――って言ってたね、あと20分くらいかな」


 


 ――朱雀院カオルはテレビ画面の右上に表示されていた時刻をはっきりと覚えている。


 ――今は20時41分



 「だからカオル君の部屋に遊びに行こうかなってきちゃった」


 「あはは、どうぞどうぞ」


 扉を押し広げて迎え入れたが首筋から喉へと伝わり鼻水が詰まるような感覚から脳が頭痛を訴える。


 


 ――これはもう、前へ進んでよかろうもん?




 ――いやいや、ないない、純粋に遊びに来ただけ。暇だっただけ



 天使と悪魔じゃないけれど、欲望と理性が混濁した彼の顔面はすごく困った顔に見えたらしい。


 扉を押し広げたままリリカが部屋に入っても微動だにしないカオルを見てクスクス笑う。


 「なんで動かないの?」


 カオルはちゃんと笑えているのかわからない表情筋のひきつりを感じながらもなんでもないと答え扉を閉めた。


 「――っあ」


 「でね、今日あたし大会で最強コンボっていう――」


 扉を閉めるとそこには彼女がベットに腰掛け手に持っているのはテレビのリモコン。


 まずいと感じたその後の行動がもっとまずかった。


 勢いよく飛び上がりベットに座るリリカ・バイエルンに襲うように押し倒してリモコンに手を伸ばした。その姿は欲望に駆られた犯罪者のように。


 「――カオル君?!」


 リモコンは押し倒した拍子にベットから転がり落ちてリリカは彼の突然の行動に慌て頬を染めている。そしてリリカは下を向いた。



 「――あたってる……」



カオルはリリカの視線の先をみてもう取り返しがつかないことに気付く、直前までの行動と妄想が相成って朱雀院カオルのチョモランマ山頂が真冬の山頂を覆う白雪の如き肌に触れていた。


 布越しとはいえあまりにも勢い着いたものがリリカの両足に――挟まれるように。



 ――もういくしかないと思った。


 カオルはうつむいたままのリリカの頬に手を添えて顔を近づける。


 ――抵抗しない


 ――目は逸らしているけれど動かない


 ――いってもいい、そう確信して






 ――――その時




「――キャアアアアアアアアア!」



リリカではなかった。しかし廊下のほうから聞こえた大きな叫び声に思わず立ち上がってしまい謝る。



 「ごめん……」


 リリカは何も言わなかった。


 部屋には音が一切を消し、そのかわりに廊下からは駆け足の足音がいくつも聞こえてくる。


 カオルは無言のリリカにかける言葉も見当たらず、部屋の扉をあけて廊下の様子を見る。するとそこには廊下の一番奥にあるYu-Su-姉妹が泊まっていた部屋の目の前で大黒舞妓が地面に崩れ落ち、リミットJKが口に手を抑えている。


 それを囲うように決勝に臨むメンバーが何も言わずに立ち尽くしていた。



 「――リリカ、その、なんかみんな集まってるみたいなんだけど行く?」



 リリカは未だ何も言わずにただそれには頷いた。



リリカが立ち上がり部屋を出て行くのに合わせてカオルが扉を閉めて後をついていく。


 その二人には目もくれず、未だに何も発せず、行動しない彼らの姿は異様だ。


 リリカもその不可思議さにつられて小走りになりいち早くみなの視線をあつめる部屋の中を覗く。


 「――っきゃ!」



 先ほど聞こえた悲鳴よりも幾段も小さいが出た悲鳴。


 遅れて覗く朱雀院カオルの目には頭蓋を右半分打ち抜かれ、お互いの頭を寄りかかるように壁にもたれた裸姿の姉妹だった。



 姉妹はどちらも同じように頭が繰り抜かれそれはまさに今朝がたにみたあの女と同じ光景。


 大黒舞妓とリミットJKが呼び出しても返事がないので寝ているのかと開けてみるとこの有様。


 


 「――カオル!あんた……あんたが話してたのって、これの事なの?」


 大黒舞妓が地面に這いながら見上げるカオルを睨み付ける。


 その眼に宿るのは疑心と、怨み。


 この二人を巻き込んだのは、この二人に厄災をもたらしたのはお前なんじゃないのかと。


 

 「そ――そうだけど、いや、待ってくれ――違う。俺のせいでこんな事に――そんなことはあるわけないってだ……違う、そんな、嘘だろ」


 

 確信が持てない。


 もしかするとやってのけるかもしれない。


 朱雀院という家柄。



 そこに生まれ育った朱雀院カオル自身だからこそわかる。


 そしてもしこれが朱雀院のやっている事ならば、ここにいる全員――



 ――朱雀院カオル以外死ぬだろう



 






 ――スーン  ――パタパタパタパタ








 はっきりとしない言葉が溢れ出てくる合間をぬって部屋からは音が聞こえる。



 その音に、全員が部屋の中を疑視した。


 ここにいるリリカ以外は全員が何の音かわかる。


 

 全員口ごもり、その音が本当にそうなのか耳を逆立て、



 「――みんな逃げろ!」



 カオルがその沈黙を割って声を挙げた。



 倒れた大黒舞妓を引っ張り上げ、リリカの背を押して走り出す。


 カオル以外すぐには理解できなかったが遅れて全員がきづいた。


 その姿を見て、音の正体が確信に変わって――



 



 ――戦闘用無人兵器 ドローンが2機部屋の中から飛び出してきた。



 全員が走り出す。


 

 最奥の部屋から階段までは10mもない、しかし、絶望がその先に待っていた。


 黒服の男、それも顔見知りの朱雀院カオルが住んでいたマンションにいた老人だ。


 老人はその階段から現れると胸ポケットに手を伸ばし、小銃を構えこちらに向ける。



 ――朱雀院の差し金



 ――それで決まりだった



 カオルはやるせない気持ちを振る絞り全員の先頭に立ってその銃口の盾となる。



 これなら打てない。打ったとしても傷つくのは自分が先、その後は階段に何人かたどり着いて、一人二人は逃げ出せるだろう。


 いや、逃げて欲しい。



 ――ダン  ――ダン



 カオルの気持ちなどいざ知らず、打ち出された銃弾



 カオルの体に痛みはなく、カオルは振り返る。



 ――誰か、打たれたのか?



 しかし振り返れば全員が無事に、走りだしている。


 さらに後方、戦闘用無人兵器 ドローンの一機がプロペラを捥がれ地面に転がり落ちていく。



 「――爺!」


 カオルは助けてくれたのかと、やっぱり朱雀院じゃなかったのかと安堵して老人に笑顔を振りまいた。しかし老人の顔は険しく、カオルに目がけ走り出しカオルに覆いかぶさる老人の胸には風穴があいた。


 

 ――ッゴフ



 老人の血がカオルの頬に飛散して染め上げる。


 「――逃げてください。――母様の元へお戻りください。――家に帰ってはなりません」 


 打ち抜かれながらもなんとか立ち上がり今度は身を投げ出してドローンを取り押さえる。


 プロペラを引きはがそうと掴みかかる老人に目がけて乱射される銃弾が血の雨を降らせた。



 「逃げ――逃げて――――ぼっちゃま――」



 動かなくなったドローンと一緒に老人の体も動かなくなってしまう。


 老人の残した言葉と、目の前で幾人も殺されていく現状にカオルは頭を掻き毟る。


 「――前はこんなんじゃ――前はこんなむごいやり方――そんな、そんなわけ……」



 動揺し立ち尽くすカオルの手を引いて、振り向かせたのはリリカ。


 何も言わずにカオルの目を見つめて「逃げよう」と一言つぶやくと手をひいたまま階段を駆け下りた。



 階段を降りる最中に思い出す光景。


 幼いころに見た親友の死体。



 それだけだった。


 朱雀院カオルが見た死人はそれだけだった。


 こんなのじゃない。


 こんな事、いくら権力があろうが父親だからってやっていいことじゃない。


 


 「――違う!」 



 幾階か降りて手を引くリリカの手を振り払い立ち止まるカオル。


 「違う、朱雀院じゃない!俺は最強だ!強いんだ!ずっと強いんだ最強だ。負けてない。上にいない。俺が孤高なんだ。負けてないだろうおおおがああ!なのになんで!なんでなんでなんでこんなに死んでしまうんだ。なんでおれのせいでこんなにみんなが、みんなが、あぁぁあ!クソぉ!」



  カオルは壁を蹴り上げ頭を打ち付けもがく。



 「カオル君、やめて!」


 リリカがカオルの背を抱きとめに入る。



 「――誰だ、誰がこんなことをする。許さない――こんな嫌な記憶を呼び起こしやがって絶対許さない!」



 掴むリリカの手を振り払い振り向きざまにリリカを払いのけた。


 「――ッ」



 肩から地面に転がるリリカを見て罪悪感が駆ける。


 けれど、それよりも、カオルは自分のしでかしてしまった事態に気付く。


 そこにはリリカとカオルを取り囲む無数のドローン


 カオルは走った。


 リリカに覆いかぶさるように、リリカだけでも助かって欲しいと思う一心で――



 ――自分がこの事態を招いた


 ――俺をほおっておけばまだなんとか逃げ切れたかもしれないのに






 「――――ごめん」





 視界が半分消えて、リリカの悲痛に見える顔が最後に写り後はなにもない黒い世界。


 




 ――暖かい



 ――黒いその先にはモヤがかかって、うっすらと何かがこちらを呼んでいた



 




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