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必死なカオルと猛獣と修羅

 なんであんたが裸でなんであなたが壁に押し倒されててなんでビッショビッショなのよと朱雀院カオルの部屋には大黒舞妓がどっしりとベットに腰掛けて問いかけている。



 なんなのよなんなのよととにかくうるさかった。


 のでとりあえず部屋の中に入って貰ったという流れ。



 リリカ・バイエルンが無表情に近い顔をしているのは気のせいだろう。


 「いや、夕飯一緒に食べようって話しててさ、その前にシャワー浴びようかなって……」



 大黒舞妓はまた少し頬を染めて朱雀院カオルを指さした。


 「な、な、な、なんで晩御飯食べるのにシャワーを浴びるんですか!いったい、いいいいいったい――な、なにを――して――」


 なんもしてねえぞと言いたい。しかしもうなんか面倒くさくなってきたので朱雀院カオルは汗かいたからだよとわざとらしく正直に答えた。


 「あ、汗……汗を掻いたですって!?」


 日に焼けたのとはまた違う血流の巡りがよくなったような顔して目をウルウルさせるこの女は自分の要件も忘れて何でそんなに大きなリアクションに勤しんでいるのか。早く用件をいえばいいのにとカオルは段々面倒くさくなっていた。


だが、それよりもさらに横をふと見た時に気が付いた。


 


――リリカ・バイエルンがもはやはっきりとそっぽ向いている。




 朱雀院カオルはあれ、何故、と首をかしげるがもしかして大黒舞妓に思わせぶりな発言をしてしまっているのが気に食わないのかと手を額にあててしまったなぁと眉間にしわを寄せた。



 「リリカ、えっと――」



 「それよりも朱雀院カオル!」



 そっぽを向いたままこちらを一向に振り向いてくれないリリカに話しかける事を遮ってきたかと思うとようやく本題らしきものを持ち掛けてくる大黒舞妓。



 なんでも朱雀院カオル以外の選手がホテルに戻ってくるとすでに黒服たちのにらみ合いが始まっていていたらしい。


 大黒舞妓がその理由を聞くと、朱雀院一族の黒服が即刻大会出場中のカオルを出場停止にするように上で掛け合っているから今すぐ朱雀院カオルを引き渡せとこのホテルに乗り込んできたのだ。



 秋葉原タワーも東京帝国ホテルも実質経営権は大黒堂一族がもっており、あまりにも怪しい部外者の黒服たちを出禁にした結果こうなったという。


 「あんた、自分ちのことは自分でなんとかしなさいよ!」


 「――無理」


 大黒舞妓は般若のごとく髪を逆立て一声あげる


 「っはぁ?!」


 どうにか理解してもらえないものかと大黒一族と朱雀院一族の違いというか、とにかくこのまま朱雀院に戻るのは命に関わるので遠慮しときますと大黒舞妓に言ってみた。


 なんなら、大会が終わるまでかくまってほしいと大黒舞妓にお願いした。



 「っはぁ?!――――っはぁ!?」



 ちょといい加減にしてよとすらもう口から言葉を発するよりも先に口からストレスが噴き上げる大黒舞妓。


 カオルは大黒舞妓の隣に座って耳打ちで今日会ったことを小声で伝えた。



 買い物していたらメイド喫茶の誘惑に負けたこと、その原因は勇ましい背中だったこと――


 「っはぁ?!」


 メイド喫茶に行くんだと階段を昇っていたらスカイウォーの実物機体が飛んでいた事――


 「――っはぁ?!」


 その機体を追いかけた先には頭蓋の右半身が打ち抜かれた女性がいたこと――


 「え、ちょっと?」



 大黒一族にだってそういうことよくあるだろうと同情してくれないかと朱雀院カオルは目をウルウルとさせる。


 「――いや、無いわ」


 大黒舞妓はそんなのもはや警察沙汰じゃないかと通報しなさいよというが朱雀院の系譜はカジノという賑わう仕事柄警察関係者とつながりが深いらしくそんなもの通用しないんだよと大黒舞妓に合掌する。


 仏に、神に頼み込むようにどうかせめて大会が終わるまででいいからと。


 どうせ、ここまでやってきているのなら戻っても軟禁されるのかどんな仕打ちを受けるのかそもそも生きているのかもわからない。


 そんな家に生まれてしまった哀れな少年に慈悲をと頼み続けるしかない朱雀院カオル。


 せめて、せめて賞金の1億があれば当分逃げ切れるからここは譲れない。


 「そんなのウチとはまったく関係ないじゃない!私達はゲーム業界の発展、より良い環境を作るために行動しているのよ。危険因子をわざわざしょい込む理由がないわ。そう思うわよねリリカちゃんも」



 「――――ッ」



 一瞬気のせいかとも思ったがリリカ・バイエルンはもしかしたら二人からそっぽ向いたまま舌打ちをお奏でになられたのじゃないだろうかという音がかすかに聞こえたカオル。


 相当ご立腹だなぁと今は朱雀院よりもリリカのご機嫌のほうが恐怖に思えてきた。



「ほら!朱雀院カオルがごねて話長引かせるからリリカちゃんも怒ってるじゃない!」


 ――俺だけの問題なんだろうかと自分にまったく非が無いように振舞う突然押しかけてきたこの女のメンタルハートは何でできているのかと一考。


 「――なぁ、舞妓はおこづかい制なの?カードとか貰ってる?俺おこづかい制なんだけどさ」



 「……?」



 朱雀院カオルの提案、大黒舞妓、あなたは欲しいものはないのか?



 「っちょ、話逸らさないであたしは」


 「月いくら?」


 「――10万円」


 大黒一族もやはりそうだと朱雀院カオルは自分の名推理に酔いしれる。


 こんな才能も吾輩はあるのかと。



 「いってごらんよ?」


 「ちょっと、ゆする気ねあんた!」



 朱雀院カオルは提案する。


 大黒舞妓は開催者側という理由で賞金を辞退する。


 そして受け取った賞金を選ばれた選手で分配する時、大黒舞妓の分を朱雀院カオルでも誰でもいい、違う人に受け取ってもらえばあとから大黒舞妓自信もそのお金を手にすることができるという魂胆。



 大金持ちの家柄といえども、長年培われた日本の伝統芸能。


 質素倹約の精神が根づいているもの。


 それは将来会社や一族をきりもりする存在となるための教育。


 それでも、一般の家庭と比べれば多いことは多いとは思うが――。



 朱雀院カオルはお小遣い制度。


 大黒舞妓はお小遣い制か毎回毎回欲しいものがあればお願いするしか買って貰えないタイプだろうと予想した。なんなら、お願いしたとしても理由を逐一問いただされ、際立った今若者ではやっているようなものは買って貰えないような厳しい制限があるのだろう。


 そういうのがあればお小遣いの中でやりくりするように、そう言われているに違いない。


 昨日の夜みんなで集まった時に変わった雑誌をを持っていた事からそれを感じ取っていた。


 ――お姫様家具辞典


 辞典とは書いてあったこっそりのぞけば値段が書いてあったカタログだった。


 大黒一族という名家としてそういったものが買ってしまっては威厳がないし、家に置けないということもあるだろう。


 だがしかしもう立派に社会を生きる大人の一人。


 隠れて買うことだってできるはずだしお金に余裕があるならするはずだ。


 値段は数十万からで金銭的には大黒一族の大きさからしてみればなんなく帰る程度のもの、それを羨ましくも眺める大黒舞妓は衝動買いの欲求に駆られた、獲物を刈り取る寸前の猛獣のようだった。



 朱雀院カオルは確信していた。


 ――あ、この子もお小遣い少ないんだなぁ






 「不覚……」


 「さぁ、声にして言ってごらん!それが手に入るよ!吾輩が本選にでて最強を奮えばプロなんて一捻り!勝利を確約しますよお嬢さん!」



 朱雀院の最期の押しの一言。






 「王子様……」



 ――そう、その一言を言ってしまえ!



 「人体模型の……」



 ――そうだ!言ってしまえば欲しくなる!言えば手に入るんだ!



 「――王子様コスチューム人体模型たかし君が欲しいの!!」



 




 ――表情に困る。



 真剣に任せろ、絶対勝つからというべきなのか


 笑って冗談だよね?と問い返すべきなのか。



 ――前者のようだ


 朱雀院カオルは真剣に見つめてくるその瞳を見てこれは笑ったら大黒舞妓に殺されるのではないかと猛獣の姿を重ねて見えた。



 朱雀院カオルは宣言する。


 「――任せろ」


 華やいだ顔をしてベットから飛び上がる大黒舞妓。


 たかし君、たかし君、たかし君。そればかりを連呼するようになったかと思えば立ち上がりすぐさま部屋をでていこうとする大黒舞妓。


 「そうと決まればさっさとおたくのゴキブリ男たちけちらせてくるわね!約束よ!いい?破ったらあたしがあんたをぶち殺してさしあげますからね?」



 出会った中で一番素敵な笑顔で出て行く大黒舞妓。



 やれやれとこれでひと段落かと、せわしない日だなと少し眠気が誘い欠伸がでる。


 ――やっと夕飯たべにいけるね


 そうリリカ・バイエルンに声を掛けようとして彼女を振り向くと彼女はもう、ほっぺを膨らませて完全にご立腹の意をお示しになられているご様子だった。


 あわわと手を付けられそうもない顔にどうしたものかと取り敢えず謝る朱雀院カオル。



 「……ごめん」


 「…………」


 「時間かかっちゃたね、すぐ着替えるから食べにいこっか?」


 「…………」


 「いや、あのほんとごめ――」



 「――――カオル君に誤って欲しいんじゃないの!!」


 

 「あ、そうですよね、そうでしたか、ごめんね、あの……怒ってますか?」


 「――怒ってない!」







 リリカ・バイエルンは怒っている



 



 


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