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気まぐれの先

 ――下着 (赤色ボクサーパンツ)


 ――下着 (赤色トランクス)


 ――下着 (赤色ブーメラン)


 ――靴下3セット (赤と白のシマシマ)



 「――ふむ、Tシャツはどれにしようか」


 最強を誇示する男朱雀院カオルが最強にかっこいいTシャツは右肩から左肩にかけて大きく白い斜線を描く黒のTシャツかはたまたこんな適当に入ったセレクトショップで一際目立つゼブラ縞模のTシャツのくせに腰よりも長い裾を持つ無駄に生地を使ったこのTシャツか悩んでいた。



 「――両方買えばいいか」



 朱雀院カオルは会計を済ませて店の外へ――


 朱雀院カオルは秋葉原タワーをでると手あたり次第に街を物色して、歩きまわっている。


 丁度あったセレクトショップで着替えを調達できたのでひと段落したところ――。



 「さて、次は――」


 「お兄さんお兄さん!」



 ふいに声を掛けられ振り返ればそこにはあと15歳わかければベストだったと一瞬で判断できる若作りした女が年甲斐もなく足を露出し、ヒラヒラのスカートを履いて、ばっちりがちがちのメイドコスチュームでアヒル口にこちらを見る。


 「お兄さん今お時間あったらメイド喫茶いかがですか!」


 言いたくはない。


 が、心に思うのは自由


 「あ、大丈夫です。 (貴様明らかに三十路のくせしてメイド喫茶飲み放題1時間2000円の看板ひっさげ、あろうことか三十路越えたらそれはもはや見せる暴力のアヒル口して首をかしげるという核弾頭を平気でぶちまけてるんっじゃねえよ!お前がどんなに若作りしてもお前ががんばったと思える詐称年齢よりも15歳は老けてるからな!)」


 「えぇー、お兄さんと一緒ならうちの子達みんな喜ぶとおもんだけどなぁー。かっこいいし」



 最強はちょっと鼻をピクつかせた。



 「いや、世の中にはぼったくりだとかなんだとか恐ろしい店があるというじゃないか。吾輩はそういうのは御免なのでね。吾輩のようなイケメンは興味はあってもさし控えるね!」


 仮定の三十路は朱雀院カオルの変わった言葉遣いにちょっと距離を置いて立ちなおした。


 「そんな、ぼったくりだなんて!うちのお店アイドルの卵たちが踊ったりすごいんだよ!もしよかったらこの道まっすぐいって十字路左だからお願いしますねー!」


 三十路は年の功から引き際の見定めが的確。

 

 これ以上話していても長話になるだけで来るか来ないかはお客に任せる場面と判断した。


 三十路は年の功から次の行動が早い。



 すぐに朱雀院カオルに手を振り去るとこんどはあからさまにメイド喫茶を嗅ぎまわる、


 ハイエナのようなギラつかせた眼をしたメイド喫茶閻魔帳なる手帳を携えた男に声をかけた。


 男は二つ返事で拳を握り、親指を立てて応えると、使命感に駆られたように街路字へと歩みを進める。


 最強は、その欲求への愚直さに感心する。


 あの男は堂々とメイド喫茶を評価して歩いて回っていることを閻魔帳なるもので公衆の面前に公表し、誘いがあれば断るそぶりを一切見せない。少しは周りの目を気にしてしまうところだというのに恥ずかしがる様子もない。



 「俺も――いや、だがしかし――」



 最強はあの人生を謳歌する男の背中を見て、あの堂々とした広い背中を見て決心する。




  ――吾輩もいってみたい




 そう思えば吉日が祭日でうんたらかんたら朱雀院カオルは閻魔帳男の後を歩いていた。



 そこは大通りからはずれ、何が入っているのかもわからないビルが隣接する道に入り、道幅は段々と狭くなり、漢は十字路に差し掛かるとはじめから場所をわかっていたかのように左へ曲がる。


 男は曲がれば不自然にも道路を斜め横断し一直線に白いタイルの死黄ばめられたビルへと入っていく。


 「メイド喫茶 ポメラニアンブルドック」


 男はその垂れ幕をくぐると階段へと一直線



 ――昇る


 ――昇る



 ――早くね!?



 男の後に続くカオルだが走っているわけでもないのに男からぐいぐいと離されていく。



 カオルは男を一段飛ばしでおいかけた、しかし男には追いつけない。



 「――2段飛ばしだと!?」


 たまたま声を掛けられ、気まぐれに行ってみようかと悩んだ男と、


 人生をメイド喫茶とともに歩む男の差がこんな場所ででてくるなんて――



 ついには男の姿が見えなくなり、階層を幾階かつきはなされ扉の開いた鈴の音、



 「おかえりなさいませーご主人様!」


 テレビでよく見るあの掛け声が聞こえてくる。



 「あいつ、やるな――」


 最強の男朱雀院カオルは最強にも勝てないものはあるし、勝ってはいけないのかもしれない概念もあるのかもしれないと何か悟った。



 「――キャァァァァァアアアア!」



 ビルから少し離れた場所であろうこだました悲鳴。


 それは朱雀院カオルがようやくF9ポメラニアンブルドックのドアノブに手を掛けた時。



 朱雀院カオルも気まぐれだった。


 少し息切れして、このままメイド喫茶にはいるよりもちょっと息を整えよう。


 その程度にしか考えず、朱雀院カオルは階段から覗くガラス窓を見てその悲鳴の正体を探す。



 ――公園


 ―さらにその奥の住宅街へと走りぬける黒髪の女がいた。


 


その女が走り間際に後ろを振り返るその先には――。




 ――無人戦闘用兵器ドローン。



 朱雀院カオルはガラスにへばりつく。


 「――なんだあれ!欲しいぞ!」



 朱雀院カオルは5段飛ばしで階段を駆け下り、見えた公園に向かって全力疾走。


 公園を見渡し、女が逃げた小洒落た住宅が隣接する道にたどり着いた。



 ――いない



 「くっそぉ、映画の撮影かなにかかな。あれめちゃくちゃ欲しいぞ吾輩!本物そっくりだったじゃないか!この辺で撮影やってるかなにかヅルッターとかに載って――スマホない設定だった……」




 ――ズギョオオオオオオオオオン!



 しかし、見失った朱雀院カオルに、女の悲鳴ではないにしろ、聞きなれた紛れもない戦闘用無人兵器ドローンの発砲音が聞こえる。


 ――デッドベアーだ


 朱雀院カオルは銃声の音だけですぐに何の銃かおもいついた。


 手のひらよりも少し大きい鉛玉を打つ出す装備で大航海時代、海賊たちが積んでいた大砲をモチーフにした簡素にも見えてファンもおおいロマン武器。


 決して強くはない、当てづらく、射程距離も短く、重量が重いのだけれどその風貌のカッコよさから愛用する人もいるのだ。



 ――朱雀院カオルはここぞとばかりにゲームで磨いた絶対音感を披露する。



 それは音楽の教科書に書いてあるよな音階を正しく判断できるとかではなくて、銃声、プロペラの音、風の唸る音だけで相手の居場所が正確にわかるのだ。



 最も、朱雀院カオルは幼いころより英才教育をうけているのでそちらの方も遜色なくできるだろう。



 


 いくつもの道を曲がり、もはや来た道をそのまま戻れるかも危ういほどにビルとビルの隙間を縫ってたどり着いた先には感知した通りやはりいた。



 ――さすが最強



 ――さすが朱雀院カオル




 心のなかで自画自賛にスタンディングオベーションが大盤振る舞いされるなか、その心の淀みは一切を断ち切らなければならなかった。


 戦闘用無人兵器ドローンを見つけてそれと共に目からはいる――別の情報。



 ――かすかに動いている


 ――それは規則正しく痙攣し


 ――宙を見上げて口を開けた女性



 女は手足を震わせながら言葉は発せずビルの壁に寄りかかり倒れていた。



 その正面に浮くドローン。


 

 女の顔は右半身がえぐれ、その傷口からこぼれる血とともに脳髄が肩に撫でおろす。



 ――悪い冗談だ



 朱雀院カオルは映画の撮影にしろなんにしろ、こんなグロイものなんのバリケードも撮影するなんて嫌なものをみたではないかとあたりを見渡す。


 しかし、その空間にはその二つの情報しか入ってこない。


 なんなら、今生物として活動している個体はこの空間に朱雀院カオル一人だけ。



 ――グルリ



 突如旋回し振り返るドローン


 カオルもその挙動に気付いて身構えた。


 ――ッガチャリ


 カオルは振り返る走り出す。


 今の音は銃弾を装填する音。



 その音はゲームと違い重みがあり、思わず朱雀院カオルは逃げ出した。


 ゲームでの癖、反射的に出た行動。


 しかしそれで良かった。



 朱雀院カオルが避けた先の壁は鉛玉めり込み外壁をボロボロに崩壊させる。



 ――戦闘用無人兵器ドローンは動き出した


 


 朱雀院カオルももは屋振り返らずに走る。


 音でわかる、相手がどこにいるかわかる。


 だから今は前を向いて、走り出した。







 ――殺される



 ――あの機体は紛れもない本物なのだから

 


 


 



 


 

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