朱雀院カオルの優勝インタビュー
「賞金100万円は何に使うんですか?」
「ずばり生活費でしょうね」
――閲覧人数2万6千人。
アマチュアの本大会前の催しだというのにそれだけの人が注目する個人戦デスマッチ優勝者インタビュー。
十数人の記者に囲まれはにかみ笑顔をみせるのは朱雀院カオルその人。
――年齢は
A.17歳
――身長は
A.176cm
――彼女は
A.秘密
――なんでそんなコスプレしてるんですか
A.ほっといて
「今大会に出場されるまでまだかまだかと声が上がり続けていましたがなぜよりにもよって今日公式の試合に出場されたのでしょうか?」
「んー、家を追いださ――いや、強者の臭いがしたのでね、その臭いにつられてついつい出場してしまったというわけさ」
朱雀院の一員として培ってきたリップサービスに花が咲く。その勢いは止まらず出場していた選手一人ひとりを褒めたたえ、この後に続く本選優勝チームとの争いに頼もしい味方だと答えた。
記者はそのとめどない口ぶりに愛想笑いを浮かべる。
「ではですね、何故名前がKAORU.namberと呼ばれるようになったかについてなんですが――」
「あぁ……」
カオルは別にそれは面白くない話だよと苦い顔をしてみせるが記者としては一応直接本人に聞きだして記事にしたいポイントなのだろう。
カオルもどこか察したように淡々と説明する。
元々はKAORUというプレイヤーネームで活動していたが初心者期間の1週間の間にゲーム自体は楽しいと感じてもどこか自分にフィットしない。全力を出せないような感覚に襲われた。
そこで初心者期間自由に使える武器を片っ端から試し打ちして、5体目のKAORU.fiveと命名したキャラを使用している最中TTT-Gをガチャで引いてそれが見事にフィットしたのだ。
だがしかし困ったことにTTT-Gはそのガチャを回して必ず当たるわけでもなく、初心者が最初に貰える1万ポイントでは1回しかガチャを回せないことから朱雀院カオルはTTT-Gの使用期限が切れれば1週間ごとに新キャラを作り続け、いつの間にかKAORU,2078という途方もない数字へと移り変わり、度々KAORUと名うったキャラクターに今大会のような圧倒的デストロイを繰り広げられた被害者がプレイヤー間でKAORU.namberには気を付けろとうわさが広まっていったのだ。
「ではキャラクターを作り直し続けていたことも大会出場に踏ん切りがつかなかった1つですか?」
「そうですね」
「では今回のアップデートでTTT-Gが永久アイテムとして販売されたことからプロの仲間入りもあるということですね?」
「――プロどころかNO.1プレイヤーになりますよ」
髪をかき分け応える朱雀院カオルに瞬くフラッシュの嵐。
「なるほど、頼もしいですね!これからますますスカイウォーが盛り上がりそうですが一部この圧倒的強さに制限をかけるべきだという声もあるのですがあのTTT-Gは具体的にどういった操作であのような強さを誇っているのかヒントなどいただけませんか?」
「ヒントも何も教えてもかまわないですよ。まず初弾は障害物にも阻まれず絶対追従して敵にデスポイントを刻む銃弾が装填されています。そしてその次なのですが装填動作のある途中までは初弾の次弾にかぎり、コマンド手順が決まっているんです。TTT-Gは打ち出したミサイルの弾速、方向、風速条件ごとにifを組み込む関数の入力の仕方によって薬莢の取り出し方も操作が変わります。なのでまず初弾を打った後の薬莢を取り出す手順は一定なのでそこをまず暗記して即座に入力できるようにするといいでしょう」
「よくわからないのですが、ずばりどのくらいのコマンド入力を行っているのですか?」
「そうですね、打ち出した弾の薬莢を取り除いて次弾装填に掃除するだけでも初弾で12コマンド、多くて30コマンドくらいでしょうか。これは弾速を遅く設定するとコマンド数が減ります。」
「え、じゃぁ優勝した試合ですが弾幕を張ったミサイル一本につきいったいどれだけのコマンドを打っていたのですか?」
「弾幕は少ないよ、一発当たり――32コマンドくらいかな。同時押しレベルのもあるから実際にやろうとしたら5コマンドくらいになるかも?」
簡単に言ってのける彼にどよめく観客は数知れない。確かに途中までは規則的だと知られていたマニュアル操作にまさかそこからランダムに変わる規則性の理由が薬莢を取り出した後の動作が未確定だからなんて誰も知らなかったのだから。
これは公式でも発表されておらず、そもそも、軍から民間に移行された際にそこまではっきりとした仕様書なんて渡されていない。
朱雀院カオルまさになんとなく、たった一人その事実にたどり着いた。
「会場にいるみなさんの歓声がすごいですが本当に公表して大丈夫なんですか?」
「いいですいいです、いい加減倒してくれる人、探してるくらいですから」
――無敵宣言
その様子をみているのは後々彼と渡り合うであろうプロゲーマー達もいる。
そんなことを一切気にせず手の内を明かす彼の立ち振る舞いに憤慨し意気込むものは少なくない。
彼の勇姿をみて、彼の言葉を聞いて、スカイウォー日本サーバーはパンク寸前のアクセス総数1000万人に到達しようとしていた。
――そして大会の裏で、彼の存在を危惧するものも少なくはなかった




