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再起不能・諭吉がとどめをさしました。

 「まったく、なんで君はそんな無駄に厚底の下駄なのか草履なのかわけわかんないものをはいているのかな?」


 朱雀院カオルが未だに泡を吹いて横たわる青年の横で事の発端大黒舞妓に問いただす。


 舞台袖から大黒舞妓のVIPルームにたどり着いたすぐそばから。


 「それはいいじゃろうが……。おしゃれの一環じゃ、良いではないか……」


 朱雀院カオルは横たわる青年を見つめて納得がいかないと大黒舞妓を睨み付ける。


 「いいや!良くないね!この男の世継ぎが産まれなくなったらどう責任をとるんだ君は!反省しろ!反省するならそんなわけわからんものぬぎたまえ!」


 「わ、ちょ、何をする!」


 朱雀院カオルはしゃがんだかと思えば大黒舞妓にタックルかまして下駄を鷲掴みにすると全力で引っ張り上げた。


 「さぁ脱げ!今すぐ脱ぐんだ!」


 朱雀院カオルは容赦がない。


 下駄を鷲掴み引っ張り上げるものだから大黒舞妓のスカートはめくりあがり黒の下着が露わとなる。


 赤面する大黒舞妓のことなど知ったことではない。


 罪には反省。その思いからそんな女性の羞恥心や普通の男子なら沸きあがる煩悩もそっちのけで朱雀院カオルは下駄を引っこ抜く。しかし大黒舞妓も強情な女、いくら醜態を晒そうとも足先の指に下駄紐を絡め離そうとはしない。


 「いやじゃ!いやなのじゃ!それだけは譲れんのじゃ!」


 「何を頑固になっている!お前はこの横たわる青年に申し訳なくおもわないのか!このような過ち二度と犯さぬのならこの下駄捨ててしまった方が早かろう!」


 「嫌じゃぁ!嫌なんじゃぁ!これがないとダメなのじゃぁ!!!」


 ――ゴーン!


 朱雀院カオルの後頭部に鈍痛が伝わり朱雀院カオルは柔らかな赤い絨毯に沈み込むように倒れる。


 「や・め・な・さ・いよぉ?」


 リリカだ。リリカ・バイエルンだ。


 この女。


 ブロンズらしき金属でできた諭吉の銅像で朱雀院カオルの後頭部を強打しやがった。


「くぅ……この朱雀院カオルの大事な大事なおつむをそんな凶器で殴打するとは貴様!許さないぞ!」


 「許すもなにもカオル君はたからみたらただの性犯罪者だよぉ?」


 朱雀院カオルははっとする。


 我が家系から性犯罪者などだしてしまっては一族総出で存在を抹消されかねない。


 「――っむう。申し訳ない」


 だが朱雀院カオルは気づいた。両手にはあの強情にも離されることがなかった下駄が今まさに両手にあることを、というか、下駄の底が30cm近くあるそれに絶句した。




  ――まさか


 


 「舞妓ちゃん立てる?」


 「……」


 「舞妓ちゃん?」


 「……」


 「よいっしょ!」


 「――ふぁあ!ダメ!」


 リリカ・バイエルンは思っていた以上に軽かった大黒舞妓を立ち上げるどころか自分の肩よりも高く、まるでそれは母親が子供をもちあげるように、「たかいたか~い」してあやすように持ち上げてしまった。


 下駄がなくなった大黒舞妓はまるでおさがりを着る子供のようで、そのままゆっくりと地面に立たせた大黒舞妓はあまりにも小さかった。


 「え……舞妓ちゃん……」


 「……」


 「ご、ごめんね?」


 「……グスン」


 大黒舞妓は泣きじゃくる。


 それは本当に小学生のように。


 下駄の脱がなかった理由はこれだった。


 彼女にとってコンプレックスを補う欠かすことのできないアイテムだったのだ。


 厚底30cm。


 彼女の本当の身長は142cmだった。



 「さ、さて、まずはこの男をどうしようかという事だな」


 朱雀院カオルは平静を装い話題を変えた。


 「んな事だうだっていいわよ!あんたたち!絶対この事口外しちゃだめだからね!したらあんたたち!」


  ――ガシャガシャ  ――ダダダダ  ――ダッダ


 黒服の男達が周囲を取り囲む。


 「殺すから!」


 ――両手を万歳


 人生で一番無害そうな笑顔を大黒舞妓に向けて朱雀院カオルはうなづいた。


 厚底30cmはさすがに落差激しすぎて言うに言えないよ。


 そう思ったのは口にださず。


 「もういいわい、お前らに見られてしもうたのならもうこのままでええわい。そいでおぬし、いったいどこに隠れておったのじゃ」


 「そうよ!あたしもみてたけどカオル君あれじゃ戦ってるとは言えないじゃないまるで裏技を使っているような……」


 朱雀院カオルは不服だなと口をへの字にしてそっぽを向いた。


 「裏技じゃないね、――ただの経験の差だもんね」


 大黒舞妓がその言葉にいち早く反応して反論しようとするが朱雀院カオルは手のひらを差し出して後に続く言葉を静止する。


 大黒舞妓が納得いかないのも当然だ。


 経験の差と言われて、自分に朱雀院カオルが勝ったと言えどもベーターテスト時代から参加している大黒舞妓が経験で負けているなどそれは納得がいかない話。


 「戦闘スタイル事に経験する場面は違うって話ですよ大黒舞妓さん」


 朱雀院カオルは語る。


 近接戦を行えば近接戦特有のチャンスがある場面、危機に直面する場面もある。


 それは中距離のアサルトライフルや長距離のスナイパーライフルにおいても同じで


 たった一つのジャンルに拘ってプレイをしていては知らない世界も存在して当たり前。


 そして今回朱雀院カオルが隠れた場所は秋葉原タワー最上階の赤い自動販売機の裏。


 これを知っているものは限られている。


 それは上手い下手じゃない。


 ある特有の遊び方を知っているものならだれでも知っている。

 

 それはかくれんぼ。


 スカイウォーでは公式的にフィールドが用意されていて、制限時間があって、ポイントが貯まれば自動的にゲームが終了するようにプログラミングされているがそれを守るかどうかはプレイヤー間の自由。


 その制限時間内に戦うのかチャットに勤しむのかは自由なのだ。


 そこで一部で人気がある遊び方がかくれんぼ。


 あまりにも精巧につくられたMAPは現実世界を旅行しているような疑似体験もさながらそういった場所で息抜きがてらチャットもしつつかくれんぼをする層がいるのが日本サーバー特有の文化だ。


 「もっと言えばこういった大きな大会でそんなことする奴いないだろうと裏をかいた吾輩の完全なる作戦勝ちというものだよ。まぁもっとも、自販機の裏側に潜り込むと殺されるか自分から出て行かないかぎり画面はまっくらで何もみえないのだけれどね。まぁそれでも、攻撃できちゃうTTT-Gの万能さに気付く吾輩が天才である故に勝利なのだけれどね!後ろでポンポンポンポン打ちあがるミサイルに気付けないどこかの誰かさんのおごりのせいだともいえるけどね!おっほん」



 「きぃいい!言わせておけば何をそんなに自信過剰にもほどがある腹立つわ!いいわ、今すぐもう一度勝負しなさい!」


 「望むところですよ」


 大黒舞妓は立ち上がりドスドスと壁に向かって歩くと何の変哲もない壁の一部を押し込む、するとそこから壁が両脇に開き5人座れるプレイ席が現れた。


 「さぁ、決勝まで時間はあるわ」


 「え、まって舞妓ちゃんこの人どうするの?」


 リリカ・バイエルンは未だ泡を吹いて倒れる青年を小突いて意気込む二人を見つめる。


 その二人も見つめ合う。


 「――うっ」


 「あ、起きた?」


 「――うぅん、あれ、ここは」


 少しほっとしたような顔をして大黒舞妓は彼に近寄っていく。


 「起きてよかったわ、ごめんなさいさっきはあわて――」


 「あれ、この子カオル君の妹かい?小学生くらいだよね!かわい――」


 


 ――ゴッ



 鈍い音のあとに気付く。


 リリカ・バイエルンの手元にあった諭吉のブロンズ像が今目覚めたばかりの青年の股に顔をうずめていた。


 大黒舞妓は振り返り青ざめた朱雀院カオルに手を挙げて応える。



 「いくぞ?おら?」




 

 


 

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