表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Degrade  作者: 我道&九尾
6/6

エピローグ

「キ……キティ!」

 四人は奈良樹の寝泊り小屋のテーブルについて話をしていたが、ボウストはフードを取った女性の顔を見て驚きの声を上げた。

「ちょっと! ボウスト、気付いてなかったのっ?」

「フードを目深に被ってたら、顔なんか殆ど見えないじゃないか!」

 ボウストは言い訳しながら、キティの顔をまじまじと見た。

「最っ低ーーー! 恋人なんだから、顔見なくったって声でわかるでしょうが!」

 キティは本気で怒ったかのようにボウストから顔をそむけた。

「まぁまぁ、キティさん。怪我人をそんなに怒るのはよくねぇ」

 奈良樹がキティをなだめる。

「えー。でも、恋人なんだったら一発で分かるべきですよ」

「そうよねぇ! さっすが秋留ちゃん、話がわかるわぁ」

 かつての仲間であり恋人でもあるキティは、ボウストと別れてからも変わっていないようだ。

 相変わらず口煩くてボウストを困らせる事に闘志を燃やしている。

「捜すの大変だったのよ。あんた、変な所通り過ぎ!」

 ボウストは人目を避けるように旅をしていた。だから必然、立ち寄った町や村にあまり痕跡を残していない。

「悪かった、キティ。機嫌を直してくれ」

 ボウストは素直に謝る。どうせ何を言っても、それ以上の言葉で責められるだけなのだ。

「そうやってすぐ謝れば何でも許されると思ってるんだから……。まぁ、いいわ。もうあたしを置いてどこかに行かないでね」

 キティは目に涙を溜めながらボウストを見つめた。あまりに真剣なその瞳に、ボウストは目が離せない。

「キティ……」

 それ以上、何も言えずにボウストはキティを抱き寄せた。

 秋留と奈良樹がそっと席を立つ。

 キティは儚げに肩を揺らす。その弱々しさを守ろうとするかの様に、ボウストは一層きつくキティを抱き締めた。

「………っ……」

 嗚咽のような声が、キティの喉から漏れた。

 そこまで寂しく思っていたのかと、ボウストはしんみりした気分になる。これからはもっとキティの事も考えてやらなければと、ボウストは心の中で反省した。

「……ぷっぷぷぷぷぷっ! あっははははははは!」

 突然の笑い声に、ボウストは首をかしげた。

「なぁにシリアスやってんのよ。笑っちゃうわ〜」

 あろうことか、キティはこの期に及んでボウストで遊んでいるのだ。

「全く、こんなんに騙されるんだから、ボウストは子供なのよ〜!」

 確かに、ボウストはキティより二つ下だが、子供扱いされるような年齢ではない。

「キティ!」

 ボウストは、先程とは別の意味で言葉をなくす。考えてみれば、そんな殊勝な女ではないのだ。

「ふふっ……」

 席を立ったものの、行く場所がなく近くで聞いていた秋留が笑う。つられて奈良樹が笑い、ボウストも笑った。

 さっきまで生きるか死ぬかの戦いをしていたのが、こうしていると嘘のようだ。だが、笑うと痛む身体が現実を物語っている。

「で、なんか用があったんだろ?」

 奈良樹はさっさと席に戻ると聞いた。奈良樹の怪我は秋留の持っていた薬で何とか治っていたが、折れた肋骨はそう簡単に繋がる物でもない。だが、奈良樹は「ほっときゃ治る」と言って、固定すらしていない。

 ボウストは奈良樹に言われてようやく当初の目的を思い出した。

「伝説の、鍛冶屋についての情報を」

 ボウストの言葉に奈良樹は眉をひそめた。まるっきし知らないわけではないが、知っているとも言いがたい。

「どんな事でもいい。知っている事を教えてくれ」

 奈良樹は目をつぶり、情景を思い浮かべる。

「極寒の大地にある灼熱の溶岩地獄。活火山の胎内に、それはいる」

 親父から聞いた話だ。と奈良樹はつけ加えた。

 そんな所に行く奴も、そんな所に住む奴も、気が知れないと奈良樹は思う。

「か……活火山……」

 秋留が嫌そうな声を出した。

「場所はわかるか? 山の名前は?」

「いや、そこまでは知らない。親父が生きてれば、もう少し詳しい事が分かったかもしれないが」

「世界地図はある?」

 今まで黙っていたキティが奈良樹に聞いた。奈良樹は自分の後ろにある棚に手を伸ばすと、分厚い本を取り出した。

 キティが一頁目を開く。

 世界の大雑把な地図がそこに出ていた。

「亜細李亜大陸の、北山がココ」

 言ってキティは、北山の場所をくるりと指で指した。

「伝説の鍛冶屋は遥か北に」

 ボウストが言う。キティはツツーっと指を地図の上を走らせる。

「ここから一番近い山は、亜細李亜大陸の不死山。でも極寒の地と言うくらいだから、常冬の大陸のどこかだと思うの」

 世界は大きく分けて三つの気候で分かれている。南にある三大陸は常夏で、亜細李亜を含む真ん中の四大陸は四季があり、北の三大陸は常冬になっている。

「常冬の大陸って言ったら、バーム大陸か、ワグレスク大陸か、アステカ大陸だね」

 秋留が地図を確認しながら言った。

「活火山なんてそう多くないから、近い場所から総当りするしかないわよね」

 キティは言って次の目的地を差した。

「バーム大陸、ガドレア山」

「行くだけでも、随分掛かりそうだな」

 ボウストが言う。

 地図では高々五センチといったところだが、実際に行くとなると半年近く掛かるはずだ。

 ボウストは秋留を見る。

「もちろん、ついて行くよ。……邪魔じゃなければ」

 もとより、今の秋留には行く所も帰る所もないのだ。しかも、冒険者としての登録さえしていない。秋留は最初からボウストについて行くつもりだった。

「邪魔なわけないじゃない。ボウストを置いて、秋留ちゃんと二人で行きたいくらいよ。魔法も色々教えてあげるわ」

 キティは笑って言った。

「本当ですか? わ〜い」

「じゃあ、どっか町に着いたら冒険者として登録して、ラーズ教団で魔法使いの認定を受けないとね」

 ボウストは一人取り残され、女達だけで話が進められている。だが、そんな様子もボウストにとっては微笑ましかった。ボウストは一人で生きてきた今までを振り返る。話し相手も居ず、夜も眠れない。そんな寂しい一人旅とは、もうおさらばだ。

「行くのか?」

 奈良樹が問う。

「あぁ!」

 ボウストは力強く答えた。

 その瞳は眩しいくらいの金色に輝いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ