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⑧ 最終回!? 魔法お兄ちゃん!ダテ☆リョウイチ!(後編)

「ふ、復活したは、したんですけどぉ…… なんか、いい材料拾っていい装置ができたから…… もう怪人作らなくても、か、勝てるんじゃなぃかなぁ、とか…… ぐごご……」


 容赦の無いブレーンバスターにのたうちながら、ブリザデスはこれまでの目論見を語った。


「……なるほどな、あいつらが悪に走るのも妙には思っていたが……」

「へ? なんか…… おかしかったっスか?」


 ブリザデスの前で屈み込み妙に納得したように目を閉じて頷く伊達に、相変わらずドロドロのまま、げんなりとした表情でクモが聞いた。


「魔法少女の選別ってのは魔力とか潜在能力云々(うんぬん)より、実際はどれだけお人好しかで決まるところが多いからな…… それにちょっとおかしいだろ? 数ヶ月文句も言わずに戦い続けた子達が終わってから突然に不満持って非行に走ろうとするってのも……」

「まぁ~…… 確かに」

「そりゃ本人達も少しは想うところがあったんだろうがな…… 小さなわだかまりが、増幅されちまった形なんだろう……」


 伊達は立ち上がり、例のポッドの前へと歩む。


「要するに、こいつのせいだって―― ことだな!」


 強化ガラスの中へと伊達の拳が貫通し、浮かんでいた石を掴んだ。

 伊達の全身に紫色のオーラが立ち、石はどんどんと色を失っていき―― 砕け散った。


「ふぅ…… これで終わり、と」


 ポッドの中から手を引き抜き、濡れた腕を払いながら伊達が呟く。


「お、おぉぉ…… 私の…… 傑作が――」

「やかましい! 次もう一回作ってみやがれ! 今度は頭から床に落とすぞ!」

「お、おぅ…… はぃ…… もうしわけありませんでしたぁ……」



 その後、ブリザデスは伊達に怒られながら、様々な取り決めを迫られた。

 装置は二度と作らないということだけになく、厄介ごとを起こしていい時間帯や曜日、無論、今日の必殺技及び特殊弾頭の使用禁止、プライベートスペースの覗き見禁止など、その決め事は多岐にわたった。



「え? あれ…… 戦うのは、よろしいので?」


 背中が痛すぎるのか、えびぞりになりながらブリザデスが言った。


「そいつはかまわん、あいつらの仕事だし、俺としては不干渉だ」

「そ、そうなんですか?」

「ああ、だから、復活したなら第二期―― じゃなくて、とっとと新しい能力の怪人でも作ってこそこそしてねぇで復活を宣言しろ」


 伊達がそう言った時、研究室の一画に光の柱が立った。


「大将」

「おう、来たか」


 光の柱は人ほどの大きさの長方形を形成し、やがて、光り輝く扉となった。

 呆然とそれを見るブリザデスを後に、伊達とクモは扉へと動き始める。


「結局一日で終わったな、毎回こうなら楽なんだが……」

「たいしょ~、私早いとこお風呂入りたいっス~」

「おお、今日は特別に一番風呂に入っていいぞ」

「やった♪」


 扉が伊達の手により開かれる。その先は、ブリザデスには光以外何も見えなかった。


「ああ、そうだ……」


 ノブを持った伊達がブリザデスへと振り返る。


「さっき決めたこと、ちゃんと守れよ?」

「え? は、はい、もちろん!」

「もし破ったら……」

「や、破ったら……?」


 ニヤリと、伊達が笑った。


「俺が来る」


 彼らがくぐり、閉じられた光の扉は縦に縮んでいき、線一本の細さとなって光をまき散らし消滅した。


「む、無念じゃあ……」


 気力体力尽き果てたブリザデスががくりと首を落とし、動かなくなった。

 研究室にはボコボコと、空になったポッドが液体を吐く音を響かせていた。



~~



 そろそろと夕陽が顔を出す時刻。

 ランドセルを背負った二人の少女が小学校の校門をくぐり、イチョウ並木の歩道を歩いていく。元気に体を揺らすようにして歩く短い黒髪の少女と、栗色のおかっぱ頭でトボトボとした感じで歩く少女。見た目には対称的な二人だった。


「おお…… ちょっと今日寒いな~」

「アオシちゃん、そろそろ長袖着ないとダメだと思うよ?」


 時季外れに思えてきた普段着と、すっかり木を埋め尽くした黄色い扇形の葉。その季節の変わり目、時の流れを感じさせる様子が、子供にとっては随分前にも感じる一ヶ月前の出来事を思い出させた。


「ねぇチャコ~、兄ちゃんって今でも戦ってんのかな~」

「え? ああ…… うん、きっとどこかで戦ってるんだと思うよ?」


 いきなり振られた話題で返答に困る話題だったが、チャコはそう答えておいた。

 実はすっかりチャコの中では「心のお兄さん」と化している伊達であり、彼女にとっての伊達は次元の違う強さを持った最強のお兄様でもあった。

 「いつか」協力してもらおうとは言っていた伊達だったが、その「いつか」は無い、チャコはそう思っている。最強のお兄様であれば、もうとっくに戦いは終わらせているだろうと。


「う~ん…… どこ行っちゃったんだろうな~、「いつか」っていつかな~」

「私達がもっと強くなったらって言ってたよ? 忘れちゃったの?」


 「いつか」なんて無い。

 ひょっとしたら自分だけになく、他の子もなんとなく思っているんじゃないだろうか、チャコはそう思う。

 誰も言わないだけなのだ。きっと「いつか」、もう一度会えればいいなと思っているから。


「でもさぁ、強くったってどうやってなればいいんだろ…… 敵もなんにも無いし、戦う相手もいないんじゃ何やっていいかわかんないよ~」

「そうだねぇ~」

「ハッグマンちゃんにでも相談してみればいかがでしょー」

「うわっ!」


 彼女達の後ろから、ミドリがにゅっと現れた。今は彼女も癖っ毛の黒髪だ。


「図書委員終わったの? ミドリちゃん」

「はいー、曜日を間違えてましたー」


 あの一件の後、ハッグマンはタンスより救出された。魔法少女達から無体な暴行に対する素直な謝罪を受けたハッグマンは、彼(?)としても思うところはあったらしく、何かご褒美を用意することと、普段の生活を出来る限り乱さない手段を講じてくれることを自ら約束してくれた。

 ブリザデスによって知らぬ間に乱されていた心が解放された今にしてもその申し出は嬉しく、彼女達とハッグマンの間は壁が出来ることもしこりが残る事も無く修復されていた。


「ん~…… ハッグマンか、それがいいのかな~」

「はいー、ハッグマンちゃんは伊達さんの言ったことを気にしていましたー、次に何か起こるってことはあるかもー、とー」

「あっ、じゃあ…… 何か考えてるかもしれないね、今度ミサオちゃんの家に行ってみよっか?」


 三人になった彼女らはとことことイチョウ並木を歩く。やがて正面に、信号を挟んだ商店街の入り口が現れる。赤信号に、皆の足が止まった。


「ん? あ、ミドリ、それって…… あの時兄ちゃんが言った「二つ目」だったよね?」

「ふたつめ? ふたつめー……」


 振り向いたアオシに尋ねられたミドリが、反復しながら首を傾げた。その様子に、チャコが代わりにと答える。


「そうだよ。新しい敵か、何か事件か、私達が力を持ってる以上何かあるって」

「だよね? それで一つ目が……」

「戦った私達だけが何かもらえるー、ですねー」


 ぽんっと手を叩いて嬉しそうにするミドリ。


「もー、そこだけすぐ思い出すなんて~」

「あららー、私ったらー」


 楽しそうに笑い合うチャコとミドリ。

 そんな彼女達の横で、アオシは腕を組んで首を捻っていた。


「私達だけがもらえるものって…… なんだろ?」


 一人呟いたその声は、前を通り過ぎていった車のエンジン音にかき消された。

 やがて、車側の信号機が黄色へと変わり、正面の信号機が青へと変わる。


「あっ……!」

「えっ…… え?」


 アオシとチャコは驚きの声をあげた。商店街側の信号から、こちらへと走り寄る少女達。


「アオシー!」


 真剣な表情で駆ける青髪の少女、笑ったまんまで走る黄色い衣装に身を包む少女。


「ミーたん! モモ! どうしたの!?」


 その格好は、あの日以来ずっと見ることのなかった、魔法少女の姿。

 悪事を働く気はなくとも、ずっと「みんなでなりたい」と思っていた魔法少女レインボーシューターズの変身後の姿。


「出たわ! 商店街の中…… 怪人よ!」

「えー?」

「か、怪人…… そんな、ブリザデスは……!」


 まさかのミサオの発言に驚くチャコとミドリ。


 アオシは―― ぐっと拳を握り込んだ。



「行こう! レインボーシューターズ! 出撃だぁっ!」



 ――縞々の路上を、五人の女の子が駆けていく。


 秋の吸い込まれそうな青空から射す陽光が、少女達を一つの虹のように照らしていた。


読了お疲れ様でした! これにて本作は終了です!

次のページは「あとがき」となります。

ありがとうございました(^^)/

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