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④ クロシゴは実はグロくないし全年齢推奨! 健全だよ!


 相も変わらず撃ちまくってくる赤、土手や橋などの高台に移動し狙撃してくる青、要所要所で手榴弾の投擲によりリズムを狂わせてくる黄色、そして、自らが緑なのをいいことに茂みに隠れ謎の薬剤を撃ち込もうとする緑――


あめぇ!」

「……!?」


 だが、抜群のチームワークであろうとも、それが通用し続けるほど伊達は安い男ではなかった。


 絶妙な位置取りから跳躍し、二丁拳銃の乱射を誘った伊達は機関銃のように拳を振るいアオシの背後、土手に向かって全ての彼女の銃弾を弾き飛ばした。


「きゃー!」


 遠くミサオの悲鳴が聞こえ、高台で青い衣装の少女が横っ飛びに伏せて銃弾を逃れる。


「ちっ…… 逃れたか……!」


 着地と同時、舌打ち一つ。


「ひどいなアンタ! ミーたんに何すんだ!」

「お前に言われたくねぇよ!」


 理不尽な悪態に言い返しつつ、伊達はその二丁の拳銃が火を噴く前にとアオシに手のひらをかざす。


「うわわわわわっ!」


 青白い光弾が彼女目がけて数十発と速射され、アオシがわたわたと逃げ惑う。


「そらそらそらそら! ……!?」


 ヒュッという最早馴染んだ風切り音に気付き、彼は走りこむ。回避ではなく、音の方へと。


「そこだっ!」


 狙い澄まし、後方に宙返りする要領でそいつを蹴り込む。バイシクルシュートによって飛ばされた飛来物は茂みの中へと飛び込み。


「うひゃー!」


 爆発して緑の女の子を天高く吹っ飛ばした。


「ミドリちゃん! まさかギタイが見破られるなんて!」

「いや、河川敷だし、茂みって数えるほどしか無いしな……」


 隠れられる場所的には三択くらい。今日の伊達は運がいいらしかった。


「くっそぉ! レッドデッド――」

「ベギ●マ!」

「わひゃひゃひゃひゃひゃ!」


 ポージング最中に伊達の手からぶっとい熱線が放たれ、アオシは焦って逃げだした。


「アンタおかしいだろぉ! なんで武器無しで魔法使えるんだよ!」

「道具に頼るようなヒヨッコじゃねぇんだよ!」


 言い返しながら、伊達が雑草混じりの地面を激しく平手で打つ。


「えっ……? な…… ぎょわー!」


 アオシの足下で地震が起こり、巨大な土の拳(雑草混じり)が盛り上がって彼女を吹き飛ばした。


「ふんっ、他愛の無――」

「ブルーマンデー・ストラーイク!」

「ちょっ!」


 いつの間にやら近くに忍び寄り、ポージングを終わらせたミサオの口径から電車並の大きさのレーザー砲が伊達に向けて放たれていた。まさに、満員電車並の。


「のわあああああっ!」


 腕で十字受けした伊達の体がそのまま押され、河川敷をリングアウトして川の上を飛ぶ。


「嫌な名前過ぎるだろおおおおぉあっ!」


 強引にレーザー砲を空の彼方へと打ち上げた伊達は、その反動で激しく川に突っ込んでいった。


「や、やった?」

「いえ…… 防がれたわ……!」


 土の拳に吹っ飛ばされた体を起こしながらアオシが聞くが、一部始終を見ていたミサオは効果のほどを否定した。ほどなく――


「ぶはっ……! お、おのれぇ……!」


 全身ずぶぬれになった伊達が水面から、川の上に浮遊した。


「やってくれたな……! 今携帯持ってたら絶対に許さなかったところだ……!」


 やはり今日の伊達は運がいいらしかった。


「もう面倒だ……! とりあえず…… くたばれぇぇぇー!」


 浮遊したまま両手を二人に向けた伊達から、昨今のシューティングゲームのような目に余る数の光弾が降り注いだ。


「うわっ、うわわわわっ……! ひど! ひどいっ!」

「な、ななななななー!」


 わたわたわたわたと、それでも二人はちっこい体を活かして光弾をかわしていく。だが、それほど長くは持ちそうに無かった。その時――


「ミドリちゃん! モモちゃん!」


 二人の前に現れた緑と黄が並んで両手を前に出し、黄緑色のバリアを形成した。


「こいつらそんなこともできるのか……! だが! ムダだ!」


 情け無用とばかりに伊達は光弾を撃ちまくる。むしろバリアが現れた分遠慮無しだった。


「ダ、ダメ、これ以上はもちませんー」

「あはは~」


 ミドリがバリアの限界を察知しだす。モモはそういうキャラなのだろう。


「くっ…… ミドリのバリアは二百五十六発しか持たない……! この数では……!」


 ミサオも状況の悪さに焦りを見せた。ちなみにゼビ●スの都市伝説は公式に嘘だ。


「みんな……!」


 一際大きく、強い声でアオシが叫び、皆の注意を集めた。


「あれをやろう! あれしかないよ!」


 その真剣な表情はまさに『主人公』。赤色にふさわしいものだった。


「……そうだな、それしかない……!」

「はいー、そうですねー」

「あはは~」


 皆が意思を確かめ合い、頷く。


「でも、アオシちゃんー? わたしたちバリアから動けませんー」

「う…… それは……」

「私がやろう、一瞬隙を作る、手早くフォーメーションだ」

「ミーたん……?」


 降り注ぎ続ける光弾に、バリアがひびを見せ始める。

 そんなバリアの後ろで、ミサオがキャラに合わない可愛らしいポージングを決める。


「キャラに合わないとか言うな…… ブルーマンデー・ストラーイク!」


 さっと離れたミドリとモモの間から、バリアが壊れると同時に青い大出力レーザー砲が発射された。


「……!?」


 先ほども見た高威力に伊達は攻撃の手を止め、回避に入る。


「今よ!」


 ミサオの叫びとともに、皆が手にした武器を彼女のスナイパーライフルに合わせる。


「なんだ……?」


 回避を終えた伊達がその行動に見入った。合わさった武器達は融合し、巨大なバズーカ砲となり、四人の魔法少女達がその砲身やミサオの体を支えていた。


「私達の虹の輝きを一つに……! レインボーシューターズのみんなの力を一つに……!」


 ミサオの背後で体を支えるアオシが、必殺技の口上を述べる。


「……ひどいな、その口上……」


 複数ヒロインものの合体友情必殺技を理解しつつ、伊達はちらりと土手の斜面に目をやった。


「なるほど…… 『レインボー』、シューターズか……」


 斜面には、「茶色」の子が体育座りで戦いを見守っていた。そのぽつんとした様に、伊達は少し涙腺が緩んだという。



「ハードラック・レインボー!」



 四人の声が合わさり(黄色も言った)、七色の光が渦を巻いてバズーカから発射される。青いレーザー砲と同等の、それ以上の巨大さを持った七色レーザーが伊達に肉薄し――


「だからネーミングおかしいだろうがぁああああっ!」


 伊達の怒りの叫びと共に振られた拳がレーザーを真正面から殴りつけ――


「ぬぬぬぬぬぬぬっ……!」


 七色の閃光とともに押し合い、地鳴りとともに世界が震え――


「砕け散れえぇぇーっ!」


 彼女らの最大の必殺技は爆発し、霧散した。

 残ったのは七色に煌めく光の粒子、その中に浮かぶ、息を荒げるジャンパーの男。



「嘘……」


 バズーカが光りと共に消滅し、アオシがぺたんと尻餅をついた。


「ブリザデスさえ倒した…… 私達の必殺技が……」


 信じられないという表情でミサオが伊達を見上げていた。


「ふぅ……」


 河川敷に靴音を鳴らし、伊達が降り立った。ゆっくりと歩いてくる彼を、皆が呆然と見る。

 一見して弾数無制限にも思える彼女らの兵器。だがそれは、攻撃をイメージした一つの魔法の形に過ぎず、使えば魔力が消費される。

 今、最大の必殺技を放った彼女らに、抵抗するだけの魔力は残されていなかった。


「くっそぉ!」


 しかしそれでも、アオシは諦めていなかった。


「なんだ……? まだやんのか?」

「あ、当たり前だ! こんなところで負けて――」


 言いかけた途中、アオシの目が伊達の右手を捉えた。


「あっ…… そ、それ……」

「あん?」


 虹色の破壊光線を殴ったその腕は、焼けただれてくにゃりと曲がっていた。


「ああ、やられちまったか…… まぁ、丁度いいか」


 ひどい状態になっている腕を痛がりもせず、伊達は軽く上げた。その途端――


 腕はジャバラに裂け、赤黒い紐状になって垂れ下がった。


「ひっ……!」


 そのグロテスクさに軽く悲鳴を漏らした瞬間、腕であった紐は何本もの触手となりアオシに絡みついていた。


「アオシ……!」


 捕らえられた彼女に叫ぶミサオにも、赤から鈍色にびいろへと変化を遂げた触手が絡みつき、合わせて数十という数になった触手がその場にいる全員を絡め取っていった。


「そらよ……!」


 伊達が腕を振るうと、四人の少女達は拘束されたまま空へと吊るしあげられる。不安定な空中に、細い触手達は貼り付けるようにして彼女達を固定した。


「うああっ…… なんだ……! これ……!」

「うぷっ……」


 必死でもがこうとするアオシだが、元腕とは思えない硬質な触手はぴくりとも動かなかった。彼女以外は、あまりの気味の悪さや不安感にかられ、声を発することも出来ない様子だった。

 どうしようもない窮地きゅうちに追いやられ、縛られているだけで恐怖に駆られていく少女達。やがて、数秒と押し黙っていた伊達がアオシと目を合わせ、言った。


「はい、ごめんなさいは?」

「え……?」


 あまりの状況にちょっと涙目になっていたアオシは、その間の抜けた一言に呆けた。


「だから、ごめんなさいは? ちゃんと、まぁ…… 俺はいいが、商店街の人達に対してごめんなさいは?」

「ごめんなさいって……」


 伊達は目を閉じ、首を捻った。


「ぎゃあああああっ……!」

「きゃあああーっ」


 四人全員に伊達の体から電流が流れ、方々から悲鳴が上がる。


「悪いことしたんだから、ちゃんと謝る。それが普通のことだろ?」

「わかったぁあっ! わかったから止めてええぇ!」


 ぴたりと、流れていた電流が止まった。皆が息を吐きながら、くたりとする。


「ほれ、早く謝れ。謝ったら俺も一緒に謝りに行ってやる」

「え…… え? なんでアンタが……」

「……大人だからな。ちゃんと謝る時は大人がいた方が話が早いんだ」

「……そ、そうか、なら……」


 伊達は再び、目を閉じた。


「ぎゃあああああっ!」


 アオシの手から落ちた物が地面を打ち、消えた。


「アホかお前は、俺が見抜けないとでも思うのか?」

「ぎゃああああ、くっそおおおおっ!」


 こっそりと右手に銃を生み出して狙いを定めようとしていたアオシ。だが、魔力を感じることが出来る伊達からすれば目を盗むことは無駄な試みだった。


「ほれほれ、早く謝れ! でないと仲間のみんなまで苦しみ続けることになるぞ!」

「くううぅっ、ひ、ひきょうなぁああっ!」


 意外と強情だなと思いつつ、ちょっと他の子は可哀想だなとも思う。だが細かい仕事は苦手だしと、心を鬼にして伊達は電流を流し続けた。

 そんな彼の後ろに、走り寄る気配があった。


「ご、ごめんなさい! すいませんでした!」


 振り返った伊達の後ろに、


「大将、事情は全部聞けましたよ」

「ほんとに、ほんとにごめんなさい! 許してあげてください!」


 ぺこぺこ謝る茶色の子と、笑いかけてくる妖精の姿があった。


「チャ、チャコ……」


 この場にいなかったために難を逃れていたチャコを、電流から解放されたアオシが呆然と見る。


「ア、アオシちゃん達は…… ちょっと怒っていただけなんです…… お怒りでしたら私も一緒にそれに巻き巻きされますから、どうか許してあげてください……」


 今まで、仲間として一緒に悪事を見てきたとはいえ、物を盗ったり何かを壊したりするような大きな悪事は絶対にしようとはしなかったチャコ。そしていつも彼女らが行き過ぎた行動をしないようにと控えめながらに注意してきたチャコ。

 そんな彼女が一番損な役回りを自分達のために買って出てくれていた。その様子にみんなが俯き、心を痛めた。

 意気消沈する一同を見、伊達はチャコに笑いかけ、またアオシ達に振り返った。


「ダメだ」


「ぎゃあああああっ!」

「えええええぇえー!?」


 再び始まった触手電気責めにアオシ達の悲鳴と妖精の驚きの声が響き渡る。


 結局伊達は、彼女達が自分で謝るまで折檻せっかんをやめなかったという。

 (ちなみに黄色は最後までへらへらしていたので諦めた)


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