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② 二十七歳はおっさんじゃない! ……のか?


「何あれ……」

「知らないおっさんですね……」

「うわー、ちょっとダサいですねー……」

「え? そうかな……」

「あはは~」


 小学生達の不審者を見る目がおっさんに突き刺さる。自分では決まったと思っていたおっさんの指先がくにゃりと曲がった。


「大将、万引きじゃなくて強盗っスよ?」


 ひょろろんっと布団屋の上から金髪の小さな女の子が降り、おっさんに語りかけた。大きさ二十センチくらいと思われる人形のような女の子には羽が生えており、羽からは金色の粒子が煌めいていた。


「お、おう…… そうだな……」


 小さな女の子に首を向け、情けない顔でうなずくおっさん。

 その光景に、魔法少女達がどよめいた。


「ななな! あれ何!?」

「妖精……?」


 赤い子の驚きに答えるように呟いた青い子の一言が、更に場をヒートアップさせる。


「妖精? 妖精って…… ハッグマンちゃんみたいなものかしら?」


 緑の子が出した名前、それは熊のぬいぐるみのような生き物で有り、彼女達を魔法少女へと導いた魔法の国の―― なんかそんな存在だった。


「え? ってことはあのおっさん……」

「まさか……」


 ――「魔法少女!?」


 何人かの声が揃い、おっさんに注目が集まる。

 妖精と何かやりとりしていたおっさんが「へ?」という顔を向けた。


 ミサオが冷静に、顎に手を当て彼を見ながら言う。


「いや、待て…… 少女はないだろう。強いて言えば魔法…… 中年だ―― ぶふっ……!」


 自分で言って、耐えきれなかったのか自分で噴いていた。

 一人だけ笑いのツボが違うのか、彼女以外は特に笑ってはいない。


「魔法中年―― ぶふっ……!」


 ただ、妖精はツボったようだった。


「誰が中年だコラ! 俺はまだ二十七だ! 言い過ぎだろうがっ!」

「す、すんませんっスすんませんっス……! ぶはははっ!」


 片手で捕まれた妖精が、がっくんがっくん揺すられながら爆笑していた。


「二十七だって……」

「二十七……」

「二十七っておっさん?」

「先生やお父さんとそんなに変わらないから……」

「あはは~」


 キッと中年呼ばわりにキレていたおっさんが小学生達を睨んだ。


「おっさんでもねぇよ! 三十超えるまではお兄さんだ! 覚えとけ!」


 自分でおっさんと言うにはいいが、人に言われるとちょっと嫌。微妙なお年頃である。


「それでおっちゃんなに? なんか用?」

「おっちゃんでもねぇよ!」


 怒鳴られてびっくりしてる青い子や、ちょっと涙目になっている茶色い子もいるが、赤い子はマイペースだった。

 ちなみに、冒頭から時折書いていたように名前はそれぞれにちゃんと用意されているが、五人全員をいきなり名前で書き出すと読者が覚えきれないと思い、赤だの青だの書いている。決して設定をサボって見切り発車しているわけではなく、キャラ紹介に文字数を割けない短編ゆえの配慮である。ご理解(たまわ)りたい。


「大将大将、大人げねぇっス。冷静に」


 妖精のちっこい手で肩をぽんぽんされ、おっさんは若干落ち着いた。


「だからおっさん言うな!」

「特別企画だからって地の文にまで突っ込まないくださいっス……」


 最早なんでも有りである。


「ま、まぁいい…… とにかくだ。君らはなんだ、魔法少女ってやつか?」


 ぴくっと赤い子が反応し、首を振って周りの子に目配せした。

 少女達が赤い子を中心に一列に横並びし、各々が妙なポーズを決めにかかる。


「千の弾丸が愛を撃ち抜く! 必殺必中一撃離脱! 魔法少女レインボーシュ――」

「ああ、そういうのいいから、簡単に頼む」

「愛は撃ち抜いちゃダメっしょ……」


 おっさ―― 黒ジャンパーの男と妖精は、少女達のバックに現れたステキな虹色の背景を言葉で割り込んでかきけした。ぱらぱらと、それぞれがポーズを解く。一部の子がちょっと恥ずかしそうだった。


「魔法少女だよ、レインボーシューターズ。知らないの?」


 不満げな顔で赤い子が言った。


「ふーん…… 赤いってことは、君がリーダーか?」


 「へへへー」と胸を張る赤い子。周りのみんなが青い子に顔を向けているのは黙っていてあげた方が良さそうだった。


「じゃあ、聞かせてもらおう。なんでこんなことをする? シャッターぶっ壊して物取りなんて魔法少女のするこっちゃないだろ」


 男の咎めに対し、反応は様々だった。青い子と茶色い子が視線を逸らし、緑の子は困ったような顔で手に頬を当てる。黄色いのは、へらへら笑っていて何を考えているのかわからない。


「なにさ! おっちゃん文句あんのっ?」


 そして、赤いのは逆ギレした。

 男は腕を組み、明後日の方向を向いて涼しい顔をして言う。


「まぁ、あるかなぁ。小学生が非行に走るのは大人としては見たくないもんだし…… このぶっ壊されたシャッターの修理代に悩む本屋さんも可哀想だしなぁ……」

「ぐ……」

「それに君ら格好からしていわゆる正義の魔法少女ってやつだろ多分。だったら敵とかそういうのっているはずだろ? 何やってんの?」


 「敵」、その言葉に対する皆の反応は一様に、はっと戸惑う表情だった。が、黄色いのは相変わらずへらへら笑っていて何を考えているのかわからなかった。


「うっさいな! おっちゃんには関係ないだろっ!」

「おっとと……!」


 ドンと平手で赤い子に押され、男が後ろに下がった。


「ジャマするならアンタが敵だ! ぶっ放すよ!」


 いつの間にやら消えていた銃がまたと現れ、男に向けられる。


「ちょ、ちょっとちょっとアオシちゃん!」

「おい、いくらなんでもそれは……!」


 茶色い子が止めに入り、青い子が苦言を呈する。だが――


「やるならやってみな」


 おっさ―― 男はにやりと、銃口の先にある赤い子の目を見つめていた。


「何を……!」

「ちょっと!」


 制止も聞かず、アオシはトリガーに手をかけ、引いた。

 SFチックなコンピューターで作られたような射出音とともに、赤く輝く弾丸が男へと向かい――


「……!?」


 体を少し傾ける、それだけの動作で弾丸はかわされていた。

 予想外のことに驚く魔法少女達。男は「ふっ」と鼻で一つ笑った。その背中にはオレンジの陽光に照らされる無数の白い羽が舞う。


「俺は、魔法お兄さん伊達良一。さぁ、お仕置きの時間だ」


 不敵に笑う彼の後ろでは、布団屋のオヤジが今し方空けられた高級羽毛布団の穴を前に地面にうずくまっていた。

 その姿はさながらスラム街のマッチョな市長に車を全破壊され、「オウゥ、マイ、ゴッド」と悲嘆にくれる持ち主のようで、妖精はちょっと後で直しておいてあげようかなと可哀想に思ったという。


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