① 魔法少女レインボーシューターズ
夕暮れの商店街入り口。遠目に見えたその目立つ出で立ちに、行き交う人々がざわめき出す。
「き、来たぞ!」
「またあいつらかっ!」
通りにあるいくつかの商店の店主が、各々細長い鉄棒を手に店の前に躍り出る。彼らは焦った様子で棒を掲げ、店のシャッターを下ろしにかかった。
「急げ! 急げ俺……!」
精肉屋の店主は自らにそう言い聞かせながら、小太りな体を不器用に動かし、焦りでうまく差し込めないシャッター上部の穴に向け鉄棒を定める。
「よ、よし……!」
棒がひっかかり、手の届く高さにまでシャッターを下ろすと、彼は手早く棒を店内へと捨てて両手で完全に下ろしにかかった。
今日は、今日こそは何事もなく――
そう思った矢先、鉄の門は彼の胸ほどの高さにて、衝撃とともに止まった。
冷や汗を垂らしつつ、顔を衝撃の起こった、シャッターを止めた異物の方へと向ける。
「はいアウトー! おっちゃん、チューリップ十本ね!」
そこにはシャッターを片手で受け止める、赤い髪の小さな女の子が笑いかけていた。
日乃ヶ崎商店街。
ここ数日、この小さな商店が並ぶ昔ながらの通りは混乱の最中にあった。
突如として現れた五人の少女達。赤、青、緑、茶、黄―― それぞれが髪の色と揃いのフリフリとした衣装に身を包んだ、まるでアニメからでも飛び出てきたような小さな子供達。その襲撃によってである。
見た目小学生に見える少女達の思考は見た目通りであるらしく、ジャンクフード、おもちゃ、漫画本なんかを扱う店は率先して狙われ、ただでさえ大型ショッピングセンターの進出による焼畑商法に喘いでいた商店街は未曾有の混迷―― まぁ後者のダメージの方が遙かに大きいだろうが、とにかく抜き差しならない状況に陥っていた。
「はーはっはっはっ! ムダだムダ! こんなものでアオシちゃんは止められないのだ!」
シャッターの閉じられた本屋の前。アオシと名乗る短い赤髪の女の子が両手を前に突き出す。赤い光が彼女の手を包み、二丁の拳銃が握られた。
「ちょっとアオシ…… シャッターを閉められた店はセーフじゃなかったの?」
そんなアオシを、少し後ろに立つ背の高い、青い長髪を持つ育ちの良さそうな子がクールに窘め、他の子達―― 緑、茶、黄色の女の子達は「そうだっけ?」と首を傾げたり、「うんうん」と頷いたりする。
「ふははー! 今日はとくれいー! 最新刊の出る日だからなー!」
「む…… そうだったわね。なら特例も有りよ!」
「さっすがミーたん! よくわかってらっしゃる!」
青い髪のミーたん―― ミサオがびしっと親指を立てると、右手の拳銃を振り上げてノリノリにアオシがポーズを取った。他の子達が赤い子に拍手を送る中、髪色もそうならおかっぱな髪型もフツーな感じの茶色い子だけが「えー」という顔をしていた。
「んじゃ、そういうわけで――」
ぴろりろんっと謎な音とともに両腕を大きく上下へと、円を描くような謎なポージングを決めたアオシが―― (おそらくはアニメにおける必殺技のカットインのようなポーズなのだと思われる。カメラワーク無しの現実視点では滑稽であり地味でもある) ――拳銃をシャッターへと向けた。
「レッドデッド・カーニバル!」
掛け声とともに赤色の弾丸が吐き出され、シャッターの端を重点的に打ち抜いていく。四隅を失ったシャッターは、ほどなく彼女の前にバンッと音を立てて破片を撒き散らしながら倒れ込んだ。
彼女達の前には、ガラスが散々に吹き飛んだ手動のガラス戸、その枠が現れる。
「さ、行くよ!」
普通ならば驚くような轟音と展開に、少女達の誰もが動じない。それもそのはず――
「ま、待てお前ら! こんなことをして――」
向かいの布団屋のオヤジが現れ、彼女達の横暴に文句をつけようとする。
「ふっ……」
「へっ……?」
そのオヤジの頭のすぐ隣を青い閃光が走っていき、布団屋の壁を貫通した。
笑みを浮かべる青髪のミサオの手に、青いスナイパーライフルが構えられていた。
「眠らせますかぁ?」
癖毛の緑の子が小ぶりなハンドガン―― 重心に特殊なチューブがあり、水鉄砲のようにも見える麻酔銃を持ち、その隣でへらへらしているもこもこ毛の黄色い子の手には手榴弾が握られていた。
「ちょっとちょっとみんなぁ…… やりすぎだよぉ…… あっ……!」
ゴトリと、情けない声を上げる茶色の子の手から対戦車ライフルが落ち、オヤジに銃口が向いた。
「ひょわぁぁあっ!」
オヤジは脱兎の如く走り出し、自らの布団屋の店内に逃げこんでいった。
「はっはっはっ! さすがチャコたん! ブッソーさはサイキョーだね!」
「うむ、すばらしい威圧だ」
「あー……」
実はオヤジの怒声にびっくりして、つい武器を出してしまっていたというだけの茶色の子―― チャコが嘆息した。
物騒な騒ぎも爆音も、彼女らには日常だった。
『魔法少女レインボーシューターズ』。
可愛らしい衣装に見合わぬヤバげな兵器を持つ彼女達は、商店街にとって今や悪の魔法少女として誰もが知る存在となっていた。
「じゃあ改めて! 新刊奪取にしゅっぱーつ!」
しかし、彼女達を阻めるものは無い。近代兵器然とした魔法の武器に加え、変身による身体強化を施された者達に敵う民間人などは無い。
ならば警察はどうか、報道は、行政は―― 無論、そのような騒ぎを大きくする存在は指一本彼女達に干渉することは出来ない。
なぜなら彼女達は、『魔法少女』だから。
「おーし貰うぞ~!」
「うむ…… 二、三冊私も欲しいものがある……」
「もー…… みんなぁ~……」
唯我独尊。
比類無き力を持ち、比類無き世界からの保護を受けた彼女達は意気揚々と、倒れたシャッターの上を踏んで店内へと押し入ろうとする。
しかし――
「まてまてまてーい!」
往年のコント番組で、ヒーローがフレームインする前のような叫び声が彼女達を打った。
「とうっ!」
彼女らが振り返ると同時、夕陽を背に黒い影が布団屋の屋根から飛び、地面へと着地した。
「万引きは、アカン!」
そこには左手を横に、右手の人差し指をビシィッと突き出す、茶色のカーゴパンツに黒のジャンパーを羽織った、どことなくイケてない感じのおっさんが立っていた。
初めての方はこんにちは!
いつもの方は…… すいません、調子に乗りました……
千場 葉です!
それほど長くもないお話ですが、
どうぞ楽しんでいってください!