(23)
裕也が本をペラペラと捲っていくと、中身は今まで見てきた本と中身は一緒で、何かの魔法についてなどのことが書かれてあるだけだった。
――んー、やっぱり本を選んだのは偶然だったのか?
夢遊病のような状態でユナが適当に選んだだけの本であるため、やはり意味などなかったと思い始めた頃、
「んー?」
裕也と同じようにユナが持って来ていた本を見ていたアイリが、不思議そうに首を傾げる。
「どうした? 何か引っかかるものでもあったか?」
「確証はないけど、今までの本とは何か違う気がする。なんだろ? よく分かんない」
「違うねー……。内容に関しては今までの本と同じような気がするんだけどな」
アイリにそう指摘されたため、再び一から本を読み進めようとペラペラと捲るも、やはり裕也にはアイリの言うようなおかしい所を気付くことは出来なかった。
それに感化されるように、ユナも自分が持ってきた内の本を一冊手に取り、ペラペラと捲り始める。
「……これ、もしかして中身がフェイクになってるのかもしれませんね」
そして、アイリと同じく何かしらの違和感を覚えたらしく、その違和感の正体についての可能性を提示した。
「フェイク? なんだ、それ」
単語の意味自体は分かっていても、ユナが言う言葉の流れが分からなかったため、裕也はユナに質問すると、
「例えばですよ? この本全部が日記とするじゃないですか。そういう日記って普通は見られたくないでしょ? だから、それを隠すために中身を魔法で変えてるってことです」
本を閉じ、見せつけるようにして、その質問に答えた。
ユナの説明から裕也とユナは「おお!」と納得した声を漏らす。そして、思わず拍手をしてしまう。
「ボクの感じてた違和感はそのせいだったんだ!」
と、「うんうん」と首を縦に振りながら、その違和感の正解の可能性にアイリは喜んでいた。
「その可能性はあるな。というわけで、この本にかけられた魔法を解く必要があるんだけど、どうやるんだ?」
いくら違和感の正体を見破った所で、本の中身を本来あるべき内容に戻さないといけないことを指摘するかのように二人に尋ねる。
瞬間、二人は「あっ」と重要なことを思い出したらしく、喜びのテンションから一気に落ちてしまい、暗い表情になってしまう。
――それは分かってないのか……。
二人の表情が変わったことで、そのことを裕也は察し、裕也もまた二人になんて声をかけたらいいのか分からず、言葉に詰まってしまう。
そして、始まる二人の自虐。
「だよね。最終的にはそこに行き着くんだよね……。予想が当たったぐらいで喜んだボクって……」
「アイリちゃんは悪くないです。解除キーも分からないのに、ぬか喜びさせるようなことを言った私がいけないんです」
「ユナお姉ちゃんは悪くないよ。分かってたことなのに喜んだボクが悪いんだって……」
「いえ、まだ問題はあります」
「え? 問題?」
「あくまで私のも推測なんですよね? 中身を軽く読んだ程度なんですけど、所々無理矢理作られた文章があったような気がしたんです。それで、『もしかしたら?』って思ったぐらいで、アイリちゃんの違和感の正体がそれなのかも実は分からないんです。あくまで予想なんですよ。だから――」
「――つまり……」
「はい。この本が本当に日記なのかどうかも分かりません。それに何よりも魔法で中身を変えられてるという証拠も……」
最初からユナの予想だと分かっていたことではあったが、改めてそのことを言われるとさすがに裕也とアイリはショックを隠すことが出来なかった。いや、現状ヒントが尽きてしまっただからこそ、ユナの予想は希望として残っていたのだ。それが完全に打ち崩されてしまったような感覚のせいで、再びガックリと来てしまったのである。
「ま、まぁ……落ち込んだって仕方ない。その『もしかして』に頼るしかないもの事実なんだし、この本が『アベルの日記であること』、『魔法で内容を変えられてること』を信じて行動に移そう」
が、その希望を簡単に諦めたくない裕也は、二人をそう言って励ますことしか出来なかった。
いや、そう言わないと二人とも簡単に諦めてしまうことが分かっていたため、自分だけでもやる気を出さないといけないと思ったのだ。
案の定、二人とも裕也がその希望にしがみ付いたことにより、落ち込んでいた表情から少しだけやる気を見せ始める。
「裕也くんがそういうなら、頑張ってみます。ううん、裕也くんの言う通り、これに賭けるしかないですからね!」
「うんうん! ここが正念場みたいなものだからね! 落ち込むのは、その真偽を確かめてからにすればいいだけ! こんなところで落ち込んでる場合じゃなかった!」
その様子に少しだけ裕也はホッとし、
「とにかく、この本にかけられてる魔法を解く必要があるけど、その手段を考えないといけないな」
と、改めて提案を出した。
その提案にユナとアイリは頷くと、それぞれがいきなり黙り込んでしまう。
それだけ真剣に考え始めてくれたことが分かり、裕也もまた二人と同じように真剣に考え始めた。




