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 しばらく三人はやる気が出ずにそのまま沈黙を貫いた。


 ――こんなんじゃダメだよな!


 いくらやる気が出ないと言っても、やるべきことは何も変わらないことは当たり前のことだった。

 そう思った裕也は、ユナとアイリのやる気を出させるために自分から動き出そうと身体を起こそうとした時、一足先に動き出す人物がいた。

 それはベッドに凭れていたユナ。

 ユナは裕也やアイリに励ます言葉をかけるわけでもなく、無言で立ち上がり、調べていた本棚に近付く。

 そのことに気が付いたアイリもまたユナの行動が気になったのか、身体を起こして、裕也を一瞥した後、ユナの行動を観察し始める。

 裕也とアイリに観察されていることも気付いていないのか、ユナは今まで順番通りに見ていた本からは外れ、全く違う場所の本を手に取り始めた。


「え? ユナお姉ちゃん、そこ違うよ?」


 きっちりかっちりしているはずのユナが今までの流れから外れた行動をするという予想を外れた動きに、アイリは思わずユナに注意を促す。

 しかし、ユナはアイリの言葉に反応することなく、黙々と適当に本を取り続けていた。


「お、おい。ユナ?」


 ここまで無反応だと、裕也もまた心配になってしまい、声をかける。

 が、アイリの時と同じようにユナが反応することはなかった。まるで何かに憑りつかれてしまったかのように本を取り続けるだけ。

 その様子に裕也とユナはちょっとした恐怖みたいなものを感じてしまい、その行動を止めることが出来なかった。そもそも、今までのユナとは雰囲気が違っているような感じがしてしまったからだ。

 そして、目的の本を取ったように五冊ほどの本を取ると裕也たちの方へ振り返る。そして、顔を前髪で隠すようにして歩いてくると、それを裕也とアイリの間に落とす。その本を読め、とでも言うように。


「これを読めばいいのか?」


 行動からユナの考えは分かっていたとしても、裕也はそう聞かずにはいられなかった。

 しかし、それはユナの口から堪えられることはなく、首を縦に振って頷いて応えられてしまう。


 ――な、何が起きてるんだ?


 瞬間、ユナはハッと意識を取り戻し、勢いよく顔を上げる。そして、周囲をキョロキョロと見回し始めた。


「だ、大丈夫なの?」


 その行動に対し、アイリは四つん這いでベッドの上を歩き、ユナに近付く。そして、ユナの手を掴んだ。


「だ、大丈夫ですよ? はい、大丈夫です」


 自分の変化自体には気が付いていたらしく、裕也とアイリに心配をかけまいとそう答えた。


「行動そのものは本を取るだけの行動だから肉体の問題はないだろうけど、メンタル的な問題が心配なんだけど……」


 その発言で余計に心配になってしまった裕也はそう尋ねると、


「本を取ったんですか?」


 と、自分の行動を改めて知ったかのように、ベッドにユナが落とした本を食い入るように見つめた後、本棚を確認し始める。


「そ、それさえ覚えてないのか?」

「覚えてないというよりも、私寝てただけなので……」

「い――」

「居眠り!?」


 裕也が驚きの言葉を言おうとしてたが、それを上回る声でアイリが驚きの声を上げてしまったため、裕也の言葉がかき消されてしまう。


「は、はい! なんか急に眠くなってきちゃって……」

「あんなに普通に行動してたのに!? ボクとユーヤお兄ちゃんは名前まで呼んだんだよ!?」

「そうなんですか? すみません、よく分からないです。今までこんななこと一度もなかったのに……」

「だよね。一緒に寝てた時もそんな風な行動は見せてなかったのに……。もしかして突発的な夢遊病ってやつなのかな?」


 眠りながら勝手に歩き出す=病気と思ってしまったのか、アイリは心配そうにユナを見つめる。

 そのことについては裕也もまた頭の中に浮かんだ答えだったが、あそこまではっきりと動き出すものは思えないため、何か違うような感じがしていた。けれど、その確証もないため、何も言えずにユナが持ってきた本を手に取る。


「夢遊病かどうか分からないけど、一応夢遊病ってことにして考えてみても不思議だよな。順番通りじゃなくて、この本を取ったんだから」

「そう……なんですか?」

「ああ、迷うことなく取ってたぞ。しかも、『この本を読め!』的な雰囲気で、ここに落とすし……」


 裕也がそう言うと、


「うんうん! そんな雰囲気だった! 無意識に本を取ってきたっていうよりも、何かに憑りつかれてたって感じだったよ?」


 アイリがあの時感じたことをそのままに話す。

 さすがに二人からそう言われたせいで、『何かに憑りつかれているのではないか?』と思ったらしく、アイリはキョロキョロと慌てた様子で周囲を確認し始める。が、もちろん憑りつく=幽霊のため、霊感がない限りは見えるはずがないのだ。


「も、もしかして……」


 しかも、この部屋はアベルが殺された部屋ということもあって、ユナの顔はみるみるうちに青ざめていく。


「考えてる通り、アベルがユナに憑りついて教えてくれたのかもしれないな」


 そんな怯えるユナを助ける言葉をかけることなく、裕也は冷たくそう言い放つ。


「な……ッ! 普通、こういう時は慰めるぐらいの言葉を言うものじゃないんですかッ!? 私、本当に怖いんですよッ!!」


 そんな冷たい一言に煽られる形で、ユナは裕也へと噛み付き始めるも、


「待て待て! 今回は結構悪いことじゃないと思うぞ? むしろ、オレは感謝してるぐらいだし……」


 その言葉の真の意味を伝えるべく、裕也は落ち着きを取り戻すように促す。


「どういうことですか? 内容によっては許しませんよ?」

「いや、現実問題手詰まりに近かっただろ?」

「……はい」

「だから、アベルの霊がユナに憑りついて、犯人の手掛かりを教えてくれたって言うなら、それはそれでいいことじゃないか」

「で、でも! 私は怖い思いをしてるんですよ!?」

「今、してるのか? 怖い思い」

「…………いいえ、今は裕也くんのその態度に苛ついてますけど……」

「じゃあ、結果オーライだな」

「な、納得いかないんですけど! 怖い思いをしてる女の子がいたら、普通は慰めるものでしょッ!」

「もう感情は切り替わってるんだから、また今度な」


 裕也はユナの文句を流すようにして、ユナが持ってきた本を捲り始める。

 自分の気持ちと共にユナの感情を切り替えることが出来たため、これ以上干渉したくなかったのが裕也の本音だった。別に慰めようと思ったら慰めることは出来たものの、それをしなかったのはアイリがいたからである。もし、ここでユナを慰めたりしたら、それに影響されてアイリまでも甘えてくるような気がしたせいなのだ。


 ――悪いな、ユナ。


 心の中で怒り狂いそうになっているユナに謝罪しつつ、裕也はユナが持ってきた本を読み進めた。


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