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 ユナに言われた通り、裕也はその紙を全部チラ見した結果、戦争が始めてしまった場合のエルフの生き残り方ことについて書かれてある内容がほとんどを占めていた。残りは、他の重役との話したメモ書きなど、そういう内容の物であり、今後役に立ちそうなものがあるかもしれないという理由で選別されたものにすぎなかった。が、裕也たちが望んでいた手紙関連の内容の物は一切なかった。


「なんか無駄なことをさせちゃったみたいで悪いな、ユナ」


 『もしかしたら机の引き出しに隠してあるかも?』という予想の範囲で手紙を探してもらっていたのだが、それでも無駄足をさせてしまったみたいになってしまったため、裕也は思わずユナに謝ってしまう。


「気にしないでください。でも、その紙で分かったことがありますね……」


 ユナはベッドに顔向きから凭れるようにして、裕也とユナを見つめる。

 その視線に気が付いた二人はほぼ同時に身体を起こして、ベッドの上に座り、


「うん、そうだね。これはタカ派って感じじゃないね……」


 と、アイリは再び近くに持っていた紙を手に取り、再び見つめながら、後悔のため息を溢してしまう。そして、そう思い込んでしまっていた自分を責めるかのように、暗い表情になった。


「落ち込むなよ。アベル自身がそんな風に見せてたんだしさ。ただ、それだけエルフの人々のことを真剣に考えてただけさ」


 落ち込んだアイリを励ますように、アイリの頭の上に手を置く裕也。

 しかし、アイリは今までのようにすぐに機嫌が良くなるわけではなく、暗いまま顔を上げて、裕也を見る。


「でも、ボクたちエルフのことをここまで真剣に考えてくれてたんだよ? そんな風に自分を犠牲にする必要なんてないと思うんだけど……」

「オレはアベルじゃなから分からないけど……予想で答えていいか?」

「うん」

「たぶんだけど、自分を悪く見せてた方が、都合が良かったからだと思うんだ。真剣にエルフたちのことを考えることをバカにされたり、褒められたり、そういうのが嫌だったんじゃないか? しかも、自分が嫌われる立場になることで、戦争時みたいな疑似

緊張感を生み出すことで、こんな風に真剣に考えることが出来るしさ」

「……そう言われると、『そうなのかも?』って思えちゃうから不思議だよ。でも、やっぱり本当の姿を見せて欲しかったな」

「本当の姿? 容姿か?」

「ううん。容姿じゃなくて中身かな?」

「そっちか。まぁ、これはあくまでオレの予想だから当たってるとも限らないぞ。分かってるのは、これだけ紙を見ると、それだけ真剣にそのことを考えてくれてたってことだな」


 裕也もまたアイリと同じように紙を取り、事細かに書かれた戦略の内容に思わず感服と共に無駄に訪れた喪失感を吐き出すためにため息を吐く。


「やっぱり人にはバレたくないことがあるんですね」


 ユナは少しだけ意味深な感じでそう呟くと、


「そうかもしれないね。他の人を知るって本当に大変なことなんだね……ッ」


 アイリはそのことを心底思い知らされたかのように答えた。

 が、裕也はアイリがユナの発言にピクッと外見上で分からないほどの小さな揺らぎがあったことが、頭の上に置いていた手から伝わって来ていた。そのことを誤魔化すようにユナの呟きに答えたと気付くには十分な出来事だった。

 同時に裕也は、ユナがこのタイミングでその質問をしたのかも分かっていた。

 それは、アイリが何かを隠しているという疑問を確信に変えるために、アベルの真実を知って動揺してしまった隙を突いたのだ。

 が、アイリもまたそのことがバレないように最低限の反応で済ませたことに裕也は少しだけ感心してしまった。


 ――いったい何を隠してるんだか……。


 アイリが裕也に何かを気付かれたかと心配しているのか、上目遣いで見つめて来ているのは一瞬視線があったことで分かったが、裕也はそれに気付いてないように振る舞いながらそう思った。が、普通に聞いたところでアイリはそのことを話そうとはしない。それだけは間違いなく分かっているため、現在いまは聞こうとも思ってなかったので、話題を変えることしか出来なかった。


「とにかくだ。アベルの本性はあくまでこの紙の内容を見ての判断だから、オレたちの想像が当たってるかどうかは分からない。けど、それだけエルフの人たちのことを人一倍考えてたってことは真実なんだろうぜ……」


 それだけ言って、裕也は再びベッドに横たわる。


「そうですね。あくまで私たちの予想ではありますけど、『犯人かも?』って疑ってしまった私たちが恥ずかしいですね」


 ユナもまた疑ってしまったことに対し、少しだけ恥を覚えてしまったのか、情けないため息を溢した。


「本当だね。ボクたちは何か間違った情報に踊らされた感が強いよね。こんなんじゃ、セインの件も頭ごなしに疑うのもダメなのかもしれないね……」


 全てに疲れてしまったかのような感じでアイリは呟き、裕也と同じようにベッドに倒れ込む。

 その言葉はユナの発言を聞いた時から、裕也が言おうと思っていた発言だった。それだけユナのさっきの発言は的を射ていたのだ。

 そして、裕也の心には得体の知れない喪失感が訪れてしまう。

 もしかしたら、今まで信じていた情報が誤情報だったかもしれない。

 そう思ってしまったことがその喪失感の原因であることは間違いではなかった。

 それは、裕也だけではなくユナとアイリも同じらしく、誰一人として「頑張りましょう」、と声をかけ、動く様子すら見せなかった。


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