(20)
あれから一時間が経過。
裕也とアイリはベッドの上でアベルの使っていたベッドに寝転がりってグロッキー状態になっており、ユナが代わりに本をペラペラと中身を確認しては、新しい本と取り換えていた。
本来、ユナがやっていた机の引き出しに入っていた書類は全部見終わったのか、綺麗に机の上に重ねてあり、いつでも見られるような状態になっていた。
しかし、さすがのユナも疲れたのか、持っていた本を捲り終わるとパタン! と勢いよく本を閉じ、
「さすがに疲れました……。というより、ちょっと休憩をしないと身体が持ちません」
と、身体をベッドの端へ持たされてしまう。
「おう、少し休め。書類を見るよりも意外と疲れるな、これ」
先にグロッキー状態になっている裕也は、そう言って、本を一冊ずつ確認していく辛さを十分に分かっているため、からかうことなくそう言った。
「うん。なんか目がしょぼしょぼする。本なんて当分見たくないよー」
アイリもまた裕也の言葉に賛同し、目をゴシゴシと掻いて、弱々しく愚痴を漏らす。
「普段、本なんてほとんど読まない奴が何を言ってるんだ?」
裕也はアイリがなんとなく本を読まないタイプであろうことは予測がついたため、話の流れでそのことについて鎌をかけてみると、
「な、なんで分かったの!?」
アイリは身体をビクッと反応させて、裕也が正解を引き当てたことを驚き、本当だということを知ってしまう。
「鎌をかけただけですよ。さすがの裕也くんもそこまでは分からないと思いますから」
裕也が答えようと思っていたことを、先にユナが疲れた声で答えてしまう。まるで、『そんなくだらない会話がするような暇があったら、本を見てください』、と言わんばかりの呆れた声で。
それを聞いたアイリは裕也とユナに聞こえるほど大きな声で、ため息を吐いた。
「なーんだ、適当に言ったなんだ……。本を読む時の行動やさっきの発言からバレたのかと思った……」
「さすがにそこまでの洞察力はないさ。ただ――」
「ただ?」
「アイリの容姿で考えると、読書するよりも外で運動するタイプだろうなって思っただけだ」
「ははっ、そうだねー。少なくともボクはこうやって読書をするよりも、ユーヤお兄ちゃんの訓練に付き合う方が性に合ってると自分でも思うよ!」
裕也の言葉に納得し、そのことに「うんうん」と頷くアイリ。
「そうですね。私もアイリちゃんは訓練を手伝ってる方が生き生きしてたと思います。……実際、私もこっちは辛いですから」
ユナもまたそのことに賛同した後、自分がこの作業に向いていないことを自覚したのか、「はふぅ」と大きなため息を溢しながらぼやく。
しかし、そんなことを言ったところで解決しないことが分かっている裕也は、
「ぼやくのはいいけど、ある程度ぼやき終わったら、全員で再開するぞー」
と、自分にも喝を入れる意味を含めて、二人にそう言った。
二人とも再び疲れたため息を吐いた後、「はーい」と情けなくそう返事を返す。が、二人とも動く仕草一つ見せず、この無駄な惰性感を貪り続けていた。
もちろん、それは裕也も同じである。
――あー、誰が教えてくれたのか分からないけど、もうちょっとヒントが欲しかったな……。
なんて、心の中で思ってしまうほどだった。
しかし、いくらこうやってぼやいたところで、そのヒントを教えてくれた人物が分からない以上、頼ることが出来ない。なんでそのことをしっかりと覚えていなかったのか、と少しだけ後悔の気持ちが生まれて来ていた。
これもまた二人に言えば、なんて言われるか分からないため、
「よっと!」
裕也は無理矢理思考を切り替えるために、ベッドから起き上がり、そのまま机へと向かう。そして、机の上にあるユナがまとめた種類を手に取り、再びベッドへと戻り、そのまま倒れ込む。
ユナとアイリも裕也の行動をしっかりと見ていたが、行動が最初から分かっていたのか、その行動について口を開くことはなかった。
「暇つぶしにはちょうどいいな」
裕也は一番上に乗っていた紙を手に取り、残りを自分とアイリの間に置くようにして、その紙を見始める。
「あまり重要そうな内容じゃなかったので呼ばなかったんですよ?」
裕也の方を見ることなく答えるユナ。
「分かってるよ、オレが言ったことをちゃんと守ってるんだから怒らないさ」
「個人の判断って一番難しい判断だと思うんですけど……」
「まぁ、確かに難しいよなー。って、これはあまり大した内容じゃなかったな」
そう言って見ていた紙を自分の頭の上に置く。
この紙に書かれてあったのは、この城が責められた時用の臨時の逃げ道をまとめ、アイナをどうやって逃がすのかとアイディアが書かれたものであった。ただ、こちらも書き駆けであり、どっちかというとメモ書き程度の内容のもの。
「これは結構興味深いんじゃないかな?」
次の紙を取ろうと手を伸ばすと、その下にあった紙を持っていたアイリがそのまま裕也の手に渡す。
「んー、そんなに重要なのか?」
「ボクは重要だと思うよ」
「まぁ、全部目を通すつもりだからいいんだけどさ」
裕也はアイリに言われるがまま、その紙に目を通す。
そこには戦争になった時の戦術などが詳しく書かれてあった。こちらは今までのような書きかけのものではなく、完全に清書されたように事細かに書かれてあり、アベルがどれだけ真剣に考えていたのか、それを知るには十分なものだった。
「へー、ガチで勝つ気で考えたのか……」
そう言うと、ユナも裕也が見ている紙の内容を一度通しているためか、
「戦略のやつですよね? パターンAとかパターンBとかのせいで数枚似たようなものがありますよ?」
これから見るであろう裕也の紙を先に伝える。
「確かにこれ一枚で終わるはずがないよな。分かってたけど……」
「はい。一番上に置いてた紙の逃げ道を利用した戦略とかありますからね」
「マジか……。辛くはないけど、面倒だな……」
「チラ見でもいいので、頑張って目を通してくださいね」
「分かってるよ……」
裕也は隣に置いてある数枚の紙をチラ見してから、再び今持っている紙の中身を見始める。




