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「さて、本格的にアベルを殺した犯人の手掛かりを探さないとな。とりあえずこの手紙の前に送られた手紙を探すぞ。確か、机の引き出しとか、本棚に置いてある本を全部見る勢いで探すように言われたんだったな」


 裕也はそう言って、机の真ん中にある引き出しを掴み、勢いよく引き出す。

 引き出しの中には丁寧にまとめられた種類はあるものの、手紙の封筒のようなものは一切なかった。が、封筒だけを捨てて、中身だけを抜いて、綺麗にまとめてある可能性もあるため、それを一枚一枚確認しないといけないことを考えると裕也は思わずため息を溢してしまう。


「ねぇ、ユーヤお兄ちゃん」


 机の中にある紙を元から入れてあった紙を引っ張り出していると、アイリから不思議そうにそう尋ねられたため、


「んー、どうした?」


 と、裕也は何か面倒くさそうに尋ね返す。


「さっきのユーヤお兄ちゃんの発言なんだけど、誰に教えてもらったの?」

「え? そんなこと言ったか?」

「言ったよー! 『机の引き出しとか、本棚に置いてある本を全部見る勢いで探すように言われた』って。ねぇ、ユナお姉ちゃん!」


 自分が間違っていないことを確認するようにユナを見るアイリ。

 ユナもまた同じ疑問を持っていたらしく、


「はい、言ってました。誰が教えてくれたんですか?」


 アイリの言葉に賛同し、ジーッと裕也を見つめる。

 二人が真面目に自分を見つめてくるため、裕也は「んー」と呻きながら、その質問に答えようと考える。が、自分ではその言葉を漏らした感覚がなかったため、頭の中ではその答えが導き出されることがなかった。


 ――って、これ誰が教えてくれたんだっけ?


 二人が真面目に見つめてくるため、その言葉を発言したこと自体は間違いのない事実だという確証を得ることは出来たが、それを教えてくれた人物の名前を思い出せることが出来ずにいた。


「もしかして……分からないの?」


 裕也の様子からそのことを察したのか、アイリは少しだけ攻め気味な感じで裕也へ尋ねる。


「え……あ、ああ」

「……教えたくないとかじゃなくて?」

「別に教えない理由なんてないだろう?」

「……だよね。うん、ユーヤお兄ちゃんの様子を見てたら、本当に教えてくれた人の存在が分からないってのは分かるけど……。でも、不思議だね」


 そこでチラッとユナを見るアイリ。

 ユナはそれだけで自分が何をするべきなのか分かったらしく、


「ちょっとだけ失礼しますね」


 そう言って、無理矢理裕也の顔を自分の方へと向ける。そして、熱を計る要領で裕也の額に右手を添える。


「え? 何を――」

「少しだけ静かにしてくれませんか? 集中したいので」

「……分かった」


 真剣な声でユナにそう言われた裕也はその場でジッとして、口を閉じる。

 しばらくして、ユナは「ふぅ」と息を吐きながら、首を横に振り、裕也の額から手を放す。


「ダメですね。記憶を消去されたような感じもないですし……」


 その一言は裕也ではなくアイリへかけた言葉。

 アイリもまた同じように息を吐き、


「そっかー。『もしかしたら?』って思ったんだけど、違うかー」


 少しだけ残念そうにそう呟く。


「私でも感知出来ないような高度な魔法を使われた可能性もありますけど、それはそれで今回の裏の黒幕的な存在が存在するのかもしれないですけど……」

「さすがにないでしょー」

「そう信じたいところではありますね」

「……頭の端には残しておくつもりでいいとは思うけどね」


 二人の会話はすでに裕也の度忘れを頭の中には入れていない物言いだったため、


「いやいや、もしかしたらオレが忘れてるだけかもしれないのに、そんなに大事に考えるなよ」


 と、この重苦しい雰囲気を吹き飛ばすかのように笑いながらそう言った。

 瞬間、二人からキッ! と睨まれてしまう。


「あのね、ユーヤお兄ちゃん、ちょっといいかな?」


 そして呆れた様子と共にいつもより低い声を出すアイリ。

 その雰囲気の飲まれてしまった裕也は、「は、はい」と真面目に返答してしまう。


「普通はそういう重要な情報を教えてくれた人を忘れるはずがないとは思わないの?」

「……ですね」

「本当は忘れちゃいけないんだよ? 王女様暗殺未遂、アベルを殺した犯人に繋がるヒントをくれた人なんだからさ」

「それはそうだけど……」

「けど、思い出せないってことは、教えた後に記憶消去の魔法をかけられたって可能性が多いんだよ。まるで自分の存在を隠すために」

「存在を隠すために……ねぇ……」

「うん。だから、笑い飛ばせる状況じゃないの」

「ご、ごめんなさい」

「ううん、ユーヤお兄ちゃんはそういう風に魔法をかけられてるから、そう思うだけなのかもしれないね。なんだかムキになっちゃって、ボクの方こそごめんなさい」


 先ほどの真面目な空気から一変、また子供のような柔らかい雰囲気に戻ったアイリは軽く頭を下げる。ただ、自分の考えは間違っていないと思っているのか、すぐに頭を上げた。

 裕也自身、アイリにそう言われたことで、ヒントをくれた人物のことが気になる存在になってしまい、改めて自分がとんでもないことを見落としているような気がしてしまう。


 ――こういう時に『ACF』がちゃんと働いたら、思い出せるかもしれないのに……。


 思わず、そう思わずにはいられなかった。

 が、その能力が働くことはなかった。いや、正確には『その人物を思い出す』ということに働かず、『この能力の発動について』の方に働くという間違った働き方をしてしまっていたのだ。もちろん、裕也はそのことに気が付くことはなかった。


「あ、あの……」


 そんな真剣な表情で考える裕也の意識を自分に向けるように、ユナがおそるおそる声をかける。


「どうした? 今、必死に思い出そうと――」

「それは後にしませんか?」

「後に? なんで?」

「たぶん高度な魔法なんで、その魔法を解かない限りは思い出すことはほぼ無理だと思うんです」

「……マジで?」

「大マジです。だから、そのヒントが本当か嘘かを確かめるためにも、言われたことを試すのが一番いいと思うんですけど……」


 ユナにそう言われて、裕也はその人物を思い出すことが一瞬にしてどうでもよくなってしまう。

 どう考えても思い出すことが出来ないと説得されたため、思考が『考えるよりも行動しろ』、と呼びかけたことが原因だった。それにどっちみち、この部屋の探索をすることは当初からのやるべきこと。そう考えると、ユナの言う通り、動いた方がいいと思ったため、


「そうだな。とりあえず、悩むよりも行動に移すか。アイリもそれでいいか?」


 と、アイリが賛成することは分かっていたが、念のために尋ねてみる。


「そうだねー。考えても分からないから、行動に移すしかないよね。うん、探索しようかッ!」


 アイリも同じ結論に至ったらしく、ユナの提案にしぶしぶといった感じで賛同した。


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