(3)
「は、はぁ!? ちょっ、ちょっと待てよ! ユナにはその発動条件ってやつが分かるのか?」
とても重要なことをあっさりと話したユナの両肩を向かって、裕也は手を伸ばす。そして、ユナの両肩を掴んだ後、無理矢理自分の方へ向けさせる。
そんな裕也の表情を見て、「分かりませんか?」とでも言いたげな表情を向けた後、「コホン」と喉を鳴らし、人差し指を一本立てる。
「裕也くんの能力『ACF』での効果……効果というか発動条件というのは『知りたいことについての知識が少しでも必要』ということです。教室で英語の授業での話をしましたよね?」
「あ、ああ」
「あれは分からなくとも、必要最低限の知識があり、それを脳がなんとなく理解していた。だから、テストのときは『ACF』により、脳をフル回転させていたというわけです」
「なるほど」
「ちなみにですが、身の危険とかそういう時は無条件に感覚とかがアップするので、その警戒には敏感に反応してくださいね。正直、私でも超遠距離攻撃魔法とか反応出来ないですので」
「超……遠距離?」
「はい。スナイパーライフルなどの狙撃ですね」
「本当に超遠距離だな」
「ですね。まぁ、とにかく魔力を使えるようになるのでしたら、自分の身体で魔力を感じることが出来るようになることですね」
ユナは裕也に掴まれた両肩を自分の手を内側に入れ、外側に押し始める。
元々、そこまで強く掴んでいたわけでもなかったため、その行為に裕也の両手をあっさりとユナの両肩から離れされてしまう。
その隙にユナはもう一度、地図の方へ向き直り、さらに拡大させて現在位置をさらに調べ始める。
――魔力を感じるようになるかー……。
裕也は右手を自らの顎に置き、そのことについて考え始める。
その時、『ACF』の効果により、頭脳の方へパラメーターが移行したらしく、あることを思い出す。
それは右脳強化するために左手を見るとかいう話だった。
裕也はそれを聞いたことがあっただけで実際に試したことはない。試したことはないけれど、右脳そのものが想像力を司るため、「もしかしたら?」という考えが浮かんだのである。
早速、裕也は自分の左手を凝視し始める。
方法としては左手全体に薄い緑色の膜のようなものが出来上がれば、想像力を鍛えられるらしい。なので、その薄い膜を作れるようにしていると、
「……えーと、何をしてるんですか?」
と、ユナの少しバカにした声が裕也の耳に入ってくる。
「想像力を鍛えてる」
「……なんでですか?」
「魔法って想像力みたいなものじゃないのか?」
「間違ってはないですけど、それは形を形成する段階の話ですよね? あ、それか魔法を造る際とか……」
「え? 魔力を感じることに関係なかったり――」
「しますね。ちょっと今忙しいので、近くの町か村に移動してから、ゆっくり方法を教えようと思ったんですけど……」
「……」
その言葉に裕也はあっさりと自分の行っていたバカらしい行動をすぐに辞めた。そして、凝視し過ぎて辛くなった目を何回か瞬き、左腕はグルグルと回して、何事もなかったように振る舞い始める。
ユナもこれ以上、このことに突っ込まれたくないことを察したらしく、
「現在位置分かりましたよ」
次の話題として、現在一番大事なことを口に出す。
「現在地点から近い街はエルフの街ですね」
「エルフって、あの耳が尖ってるエルフ?」
「そうですよ。むしろ、それ以外のエルフっているんですか?」
「いるかもしれないから、オレも聞いたんだろ?」
「……そうですね。話を進めますよ」
「おう」
「近いというだけですから、エルフの街じゃなくても大丈夫ですがどうします? ちなみに私はエルフの街に行くことをオススメしますよ?」
「その理由は?」
「性格的が温厚だからです。それに索敵能力とか高いので、味方にするのであればいいかなって思いました」
「うんうん。じゃあ、エルフの街に行こう」
ユナの考えを一通り聞いた後、裕也は即座に答えを出す。
むしろ、否定するところが見当たらなかったのだ。
最初から凶暴そうな火精霊や魔族などに行っても、絶対に味方にならない気がしたからである。何より変な流れで戦闘が起こってしまったことを考えた場合、絶対に負けることが確定している今、そんな危ない橋を渡る必要もないからだ。
自分の考えに賛同してくれたことが嬉しいらしく、胸の前で両手をパン! と叩き、
「ですね、エルフの街に行きましょう!」
と、ユナは地図を掴み、自らの手で丸め始める。
――そこは魔法じゃないのか……。
地図を片づける様子を見ながら、ふとそう思う裕也。
その視線に気付いたのか、
「なんでもかんでも魔法を使えばいいってものじゃないんですよー」
ユナは苦笑しながら、地図に付いている紐を元通りに縛る。そして、取り出した時と同じように黒紫色の空間を作り、その中に地図を投げ入れた。
「また乱暴な入れ方だな」
両腰に手を置き、呆れた視線を向けながら裕也が言うと、
「ちゃんと入れた所で自然と収納される仕組みですからね」
ユナはあっさりと言い、先ほどまで休んでいた大木の奥、森の方を指差す。
「方角はこっちです。言いたいことは分かりますが、森の方へ向かって進みましょう。そっちの方が近道ですので!」
「……何を言いたいって?」
「え? だから、『この道なりに進んだ方がいいんじゃないか?』って質問です」
「……いや、道が分からないオレに、そんな質問出来ないよな。知ってたならまだしも、知らないんだから、ユナの言う通りに進むしかないと思うんだが……」
「あっ……」
さすがにそこまで考えていなかったのか、ユナは「しまった」という表情で口元を押さえる。
「ドンマイ。とにかく、行こうぜ。のんびりしてたら、日が暮れそうだしさ」
裕也はあまりフォローになってない言葉をかけながら、ユナが指差した森に向かって歩き始める。
ユナも裕也の隣に並ぶように駆け足で近寄ると、頬を軽く膨らまし、
「もうちょっとマシなフォローが欲しかったです」
と、自爆したことを棚に上げ、そんなことを言い始めたため、
「変な先読みをしなきゃいいだろ」
裕也はそう言い返す。
「それでも、もうちょっと気遣うとか――」
「はいはい」
「ちょっと、聞いてますか?」
「聞いてない」
「ちょっ、裕也くん!」
二人はそんな他愛ない会話をしながら、歩き続けた。