(15)
裕也とユナ、アイリはアベルの部屋に辿り着くと、部屋の前には二人の兵士が立っていた。
昨日のアイナの部屋の前にいた兵士とは別の兵士だからか、それとも裕也がアベルを殺した犯人として疑っているのか、敵意の満ちた目で裕也たちを見つめる。
しかし、裕也たちからすれば、その視線は初日からずっと浴び続けた視線のため、気持ち的にはよくなかったが、ある程度は慣れたものとなっていた。
「お疲れ様です。部屋の探索をさせてもらいますね」
裕也はアイナの部屋に入る時のように軽く頭を下げてから、部屋のドアノブを掴もうと近付く。
が、それをさせまいとドアノブが届かない距離で持っていたランスでバツを作り、裕也の動きを阻止した。
「え?」
なんで阻止されるのか、その理由が分からない裕也は二人の兵士を見つめた後、ユナとアイリを見つめ、首を横に振った。
その仕草の意味は、『二人とも口を開くな』という意味である。
案の定、あと一秒でも遅れていれば、二人ともこの兵士に文句を言おうと口を開こうとしていた。が、裕也の視線の意味を理解したらしく、慌てて口を閉じた。
そして、改めて裕也は二人の兵士へ向き直り、
「セインさんに何か言われているんですか? それとも二人の判断ですか?」
部屋に入れてもらえない理由を改めて尋ねる。
しかし、二人の兵士はその質問に答えようとはしない。そもそも、首を横に振る動作も何もせず、ただジッと睨み付けるばかり。
――自分の判断みたいだな……。
その様子から裕也は勝手にそう判断した。
もし、命令されているのであれば、何かしらの反応があると思ったからだ。同時にそれに対する説明もあるはずなのに、その説明がないということは個々の判断が強く、それを言いたくないと拒否している感じが強かった。
『じゃあ、どうするか?』、と考えた時、裕也はもちろん一つの手しか思いつかなかった。本当はあまり取りたくなかった手段――。
「アイリ、救護室に行って、王女様からこの部屋を調べる許可を貰って来てくれないか? ちゃんと紙に書いてもらってな」
最後の手段とも言えるこの方法を、アイリに顔を向けることなく頼むと、
「オッケー! ちょっと時間がかかるかもしれないけど、待っててね」
そのお願いを受け入れてくれたアイリが、ダッシュで救護室に向かい始める音が裕也の耳に届く。
そのことを聞いた二人の兵士の表情は青ざめてしまう。
ここまで強硬的な手段に出ると思っていなかった証拠だろうと思う裕也だったが、青ざめた理由が違うことをすぐに気付かされる。
「ただいまー」
その声はさっき走って行ったはずのアイリの声。
その声には申し訳なさと共に、少しだけ疑いと怯えなどの感情の揺らいだものも含まっていた。
「え? え……?」
いち早くその状況に気付いたユナも疑問の声から、動揺が混じった声で同じ言葉が繰り返される。
「アイリ、早かった――」
何を驚いているのか、その疑問を覚えつつも裕也は振り返ると、
「え?」
と、ユナと同じ言葉を漏らしてしまう。
それはそのはずだったのだ。
アイリがまるで連れて来たかのように、アイリの隣には裕也たちが現在一番疑っている人物――セインが立っていたのだから。
そのセインは少しだけ怒っているらしく、少しだけ怒りに満ちたオーラが全身から溢れていた。
「なぜ、この二人を中に入れてあげないのだ? 王女様の命令があることを忘れたのか?」
セインは二人の顔を交互に見ながら、裕也たちを部屋に入れない理由を問いかける。
怒りの原因が逸れであることを知った裕也は内心ホッとしてしまう。それは、セインが怒っている理由が、自分たちがセインのことについて尋ね回っていると勘違いしてしまったからである。が、その可能性が少しでも残っているため、裕也は少しだけ心を引き締めていた。
そんな裕也とは正反対に二人の兵士は困った顔をして、お互いに顔を見つめ合っていた。そして、片方の兵士が言いにくそうに、
「この人間たちが怪しいと思ったので止めているのです。護衛長は昨日、『怪しいと思える奴は入れるな』と命じたではありませんか。それを守っているだけです」
命じられたことを忠実に守っていることを示すかのように反論した。
その言葉にセインは困ったようにため息を吐いた後、「そうか」と小さく納得したように呟き、身体から漏れていた怒りもなくなってしまう。そして、少しだけ落ち着いた声で、
「ユーヤたちよ、すまない。どうやら、私のせいでこんなことになってしまって」
と、軽くだが裕也たちに謝罪した後、
「特例として、ユーヤたちは中に入れてあげるんだ。それなら問題はないだろう?」
二人に衛兵にそう尋ねた。
二人の衛兵はその質問に対し、「はぁ」と納得いかないような曖昧な返事で答える。
その理由は、命令した人物がセインである以上、その人が許可を出したのであれば、二人は裕也たちを部屋の中に入れることを拒む理由がないからである。
だからこそ、今までランスで作っていたバツを退け、部屋に入る許可を出した。
「あ、ありがとうございます。最後の手段を使うところでした」
裕也も首から上だけを下げるようにして、セインにお礼を述べると、
「偶然、そこであっただけさ。こっちに用事があったからな」
と、少しだけ不愛想に返されてしまう。
「そうですか。じゃあ、部屋の中に入らせてもらいます」
裕也はドアノブを掴みながら、
――それ、本当かよ。
いまいちセインの言葉が信じることが出来なかった。
それは、セインの用事が『この部屋にある』と思わずにはいられなかったからである。
しかし、セインの行動は言葉通り、この部屋に入ることはなく、そのまま通路を歩いて行った。
それを視界の端で見送りながら、ユナとアイリを先に部屋に入れた後、裕也はようやく部屋の中に入る。




