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(13)

 アイリは集中すると同時に握っていた手の力を抜き、手をくっつけている状態にした。

 裕也もまたアイリに合わせるように手の力を抜き、リラックスした姿勢でアイリにすべてを任せる状態にして、意識をアイリへと集中させる。すると自分の身体がいきなり熱くなる感覚が起き、裕也は自分の魔力が全身に行き渡され始めたことを知る。


 ――なんか温水の滝に当たってる気分だな……。


 湯船に浸かるという表現ではなく、そういう表現を使ったのは頭の方も熱があるような気がしたからである。

 しかし、それも束の間、裕也の全身を寒気が襲った。が、それはアイナが襲われた時のようなゾクッとした寒気ではなく、温度がいきなり下がってしまい、身震いしてしまいそうなレベルのもの。だからこそ、「さむっ」と裕也は思ってしまったが、別段気にすることもなく、その場でジッとすることが出来た。


 ――これが魔力を放出している状態なんだろうなー。


 なんて、裕也が思っていると、


『正解だよ。ユーヤお兄ちゃん』


 と、いきなりアイリの声が裕也の脳内に響き、思わず身体をビクッと震わせてしまう。

 それを止めるように、アイリの手が再び力強く裕也の手を握る。


『落ち着いて。乱れたら、それを安定させるのに時間がかかるんだから』


 アイリの声は呆れた様子でもなく、ただ裕也を落ち着かせるように優しい声で冷静にそう注意した。


 ――え、あ……悪い。ちょっとびっくりした。

『だよね。ごめんね、説明を忘れてたみたい。でも、これがさっきボクたちが会話してた時の状態だよ』

 ――ああ、これがあの時の状態か。なんか脳に直接声が響くんだな。

『そうそう。内緒話をするなら、結構有効でしょ?』

 ――けど、考えたことがそのまま届くから面倒な面もあるな。

『この状態で変なことを考えたら、すぐにバレちゃうからねー』


 アイリは少しだけ裕也に脅すようにそう言った。

 現在いまのアイリが目を閉じているのか、現状目を閉じたままになっている裕也には分からないものの、悪戯な笑みを浮かべている様子だけは頭の中で簡単に思い浮かんだ。


『なーんてね。それは冗談だよ。少なくてともお互いの魔力を同調させて接続させないとこんな風に話せないから、意味はないんだけどね』

 ――へー、そっか。なら、安心だな。

『あ、あれ? もう少し驚くと思ったんだけどなー』

 ――何が?

『いや、安易に心で呟けないと思わせておいてからの説明だったから、ツッコミぐらいは来ると思ったのに……ってこと』 

 ――放出するまではオレの心の声に対する返事がなかったから、それぐらいだろうなって予想はしてた。だから、驚く必要もないだろ?

『察しが良くてつまらないなー』

 ――はいはい、唇を尖らせなくてもいいから、それより先に進めようぜ。これからどうすればいいんだ?

『見えないはずなのに、ボクの口調から表情を詮索しないでよー。とにかく話を進めるね』


 裕也は自分の予想が当たっていたことに、少しだけ頬を緩ませてしまう。アイリの口調から表情を見出すことが少しだけ楽しくなったからだった。が、話を進めるように言ったのは自分のため、そのことについてツッコミはせず、アイリに話を進ませることにした。


『今はボクだけとしか魔力の波長を合わせてないけど、次は妖精たちと波長を合わせるね。そして、今僕と話してるみたいに何をどうしたいのか、その説明をしたらあとは手伝ってくれるよ』

 ――じゃあ、今回みたいに紙を膨らませたい場合は……。

『そうだね。「紙を膨らませたいから、その手伝いをしてくれないか」って言ったらいいと思うよ』

 ――意外と簡単なんだな。

『うん、今はね』


 アイリは少しだけもったいぶった言い方に、裕也は「ん?」と不思議に思ってしまう。言い方が意味深すぎて、まるで今だけしか出来ないように感じ取れてしまったのだ。


 ――それって、今はアイリが手伝ってくれるから出来るってことなのか?

『正解。ボクがね、魔力の放出を手伝って、紙を膨らませる分より多めに出してるから大丈夫だと思うよ。もし、それが足りなかったら、手伝ってくれないってことだからね? 戦闘中だとピンチになることは間違いないね』

 ――お、おいおい……。


 その言葉を聞いた裕也の背中にゾクッとした悪寒が走る。もし、戦闘中に上手くそれが出来なかったら、失敗=死に関わる可能性が強いからだ。


『そんなに怯える必要はないと思うけど、とにかく自分の魔力を使うにしろ、妖精を使役するにしろ、放出に関してマスターするしかないってことだね』

 ――日数短いのに、問題が山積みじゃないかよ。

『ははっ、頑張ってね! ボクたちはユーヤお兄ちゃんを信じてるからさッ』

 ――ひ、他人事にしか聞こえない……。

『ほらほら、妖精と繋げるよー』

 ――ん、頼む。


 裕也は我慢出来ずに心の中だけではなく、身体からもため息を溢す。そうでもしないと、山積みになった問題の重圧に心がやられてしまいそうになったからだ。

 ため息を終わった瞬間に、


〈何か用かな?〉


 と、契約時に問いかけられた声と同じ声が裕也の脳内に響く。

 その妖精の声は改めて会話出来ることを喜んでいるかのように、少しだけテンションが高い様子だった。


 ――えーと、初めましてって言っておこうかな?

〈そんなのどっちでもいいよ。それより私たちを呼んだってことは何かして欲しいんだよね? それを教えてくれる?〉

 ――まだ持ってないけど、これから持つ紙を膨らませたいんだ。力を貸してくれないかな?

〈いいよー。ああ、あの子が持ってる紙?〉


 あの子と言われた人物がユナだと即座に理解した裕也は、


 ――そうそう、その子が持ってる紙。


 と、迷うことなく答える。


〈うんうん。手伝ってもらってるけど、魔力の放出はあの紙に必要な最低基準は足りてるから問題ないね。ただ――〉

 ――言われなくても分かってる。手伝ってもらってる子に聞いたから。もし足りてないと手伝ってくれないってことだろ?」

〈分かってるならオッケー。本当だったら一回分の魔力を貰うのが当たり前なんだけど、初めての協力だし、サービスとして二回分の魔力を貰って、二回協力してあげる。それでいいよね?〉

 ――分かった。

〈じゃあ、これからも訓練頑張ってね!〉


 そして、テレビが切られた時のようなプツッっていう音が小さく聞こえたかと思うと、それ以降、妖精の声が聞こえなくなる。


『お疲れ様。上手く会話出来て良かったね』


 代わりにアイリが、会話が上手くいったことに対しての労いの言葉をかけてくれた。しかし、こうも言葉を続ける。


『今はボクがこうやってユーヤお兄ちゃんの放出量を全部面倒見てるけど、次からユーヤお兄ちゃん一人で出来るように、ボクが調整を緩めていくようにするね。そして、早く妖精との波長を一人で出来るように頑張って』


 少しだけ残酷なことを裕也へと突きつけた。

 が、それを一人でしないといけないことは最初から分かっていただけに、


 ――頑張るよ。大変だけど……。


 再び心に重圧を感じながらも、素直にその言葉を受け止めることしか出来なかった。


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