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 アイリは契約が成功したことに満足したのか、にっこりとした笑みを浮かべ、


「おかえり、ユーヤお兄ちゃん。大丈夫だった?」


 と、とことこと近付き、裕也の服を掴むとグイと捲りあげる。


「ちょっ、何をしてんだよ!?」


 いきなり服をめくられたことに驚きを隠すことが出来ず、慌てて服を下ろそうと抵抗する。

 が、それをさせまいと、


「身体に刻み込まれたでしょ? 『チクッとするかも云々』って言われて!」


 自分が捲った理由を言いながら、逆に抵抗されてしまう。

 捲った理由がはっきり分かった裕也は、抵抗を諦めて、素直にされるがままになることを許可した。

 それは、裕也が女ならば全力で抵抗しただろうが、男であるため上半身裸を見せるぐらいはなんともないからだ。抵抗した理由も、いきなり捲られたからこそしてしまった抵抗だったからである。


「まったく、理由があるなら先に言えよな。そしたら、抵抗なんてしないのに……」

「ごめんなさい。でも、ユーヤお兄ちゃんならいいかなって思って」

「勝手な推測をしないでくれ」

「あはは、でも結局は……あ、ユーヤお兄ちゃんはここに付けられたんだ! 心臓の真上だよ、王女様」


 契約の証を付けられた場所を大声でアイナに伝えるアイリ。


「なるほど。『誰かを護りたい』って願ったんですね」


 その付けられた場所を知ったアイリは、「ふむふむ」と納得した様子で裕也を見つめる。

 無事に服を下ろすことが出来た裕也は、自分が願ったことが分かったアイリを見つめながら、


「もしかして、印を付けられる場所でその判別が分かるんですか?」


 と、そのことについて尋ねた。


「だいたいですね。だいたいの位置は妖精さんたちの中で決まっているみたいです。心臓辺りが『誰かを護りたい』とかいう意思、右腕が『友達や親友になりたい』と思う意思、左腕が『何かの野望を持っていて、それを叶えたい』という意思らしいです。たまに場所が違う場所につけられることがあるので、一概にその意味とは限りませんけれど……」

「なるほど。ちなみに自分は王女様ので当たってますよ。でも、みんなにあの質問をしてるんですね」

「私自身が妖精ではないので、その質問をする意味は分かりませんけどね。妖精たちからすれば、真面目な質問なのでしょう」


 そう言った後、両手を胸元でパン! と叩き、


「それより本番です」


 その話は区切るようにして、アイナはそう言った。


「本番?」

「はい。契約自体は成功したので、次は話す方法ですね」

「あ、ああ。そういうことですか」

「はい。話す方法と言っても、自分の魔力を使って、体の外に熱を出す感覚で魔力を放出しながら、心の中で話しかける感じです」

「……放出まで同時指導ですか……」


 移動自体は感覚を掴み、不安定ながらも出来るようになったのだが、放出になるとまたやり方が違うため、その感覚を掴むことから始めないといけなくなるため、裕也にとってハードルが上がったような気がしていた。

 その不安が顔に出ていたのか、


「大丈夫だよ、ユーヤお兄ちゃん。またボクが手伝うからさ」


 裕也を安心させるように、アイリが裕也の手を繋ぐ。しかも、子供ながらに力強く。


「大丈夫なのか?」

「何が?」

「昨日は確か失敗して……」

「あれはしょうがないよ。コツを掴んだら、あんな風に自分勝手に移動量を増やしちゃうのも。けど、今回からはもう大丈夫でしょ? 昨日の教訓があるから」

「それはそうだけどさ……」

「信じてるよ、ユーヤお兄ちゃん」


 アイリは疑う様子すら一切見せず、裕也ににっこりと笑いかける。

 いくら、それを手伝ってくれるとはいえ、また失敗してしまうことが怖く、助けを求めるように裕也はユナを見た。

 しかし、ユナもにっこりと笑うだけで、助けの言葉をかけようとはしない。


「そんなに自信がないなら、今日はやめとくかい? せっかくアイリが手伝ってくれるっていうのに……」


 そうやって不安になる裕也が気に入らないのか、少しだけ不機嫌そうに言い放つミゼル。それは表情と行動に出ており、組んでいる腕の肘を指でトントンと叩いていた。


「いや、それは……」

「アイリが『大丈夫』って言ってるんだ。ユーヤくんは胸を借りるつもりでやったらいいんだよ。たぶん、ユーヤくんのことだから、すぐにコツなんて掴めるんだろう?」

「それは過大評価しすぎですよ」

「本当かなー」


 苦笑いする裕也とは正反対にミゼルはニヤニヤと笑い、裕也がすぐにコツを掴むことを疑う様子は一切なかった。

 が、裕也はその言葉ですぐにコツを覚えてしまいそうな気がしていたため、完全に否定することは出来ず、


「しょうがない。先生の言う通り、アイリに手伝ってもらうしかないな。アイリ、また迷惑かけるかもだけどよろしくな」


 アイリにそう言うと、


「ううん! ボクの心配をしてくれてありがとう! それでもボクは大丈夫だよ! だからさ、訓練しよっ?」


 と、促されたため、


「分かった。じゃあ、頼む」


 裕也はそう言って、痛くない程度にアイリの手を握り締める。

 それに応えるようにして、アイリも裕也の手をさっきよりも強く握り返した。

 そして、裕也とアイリは二人だけの世界に入るかのように、ほぼ同じタイミングで目を閉じ、神経を集中させ始める。


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