(11)
四人は不自然に顔を見合せる。そして、視線だけがユナ、アイリ、ユナ、ミゼル、アイナと移っていく。口では言えないことをまるで四人だけがアイコンタクトで話しているかのように。
――これ、絶対魔法で連絡取り合ってるよな。
裕也は四人の不自然な視線の移りから、アイコンタクトだけではなく思念みたいなものを使って、四人が会話していると推測した。そうじゃないと、ここまで視線が移り変わることがないからだ。
――しょうがない、待ってやるか。
四人がそこまで真剣に会話していることが邪魔するのも気が引けた裕也は、仕方なく魔力を紙に送る練習をし始める。それぐらいしかすることがなかったためである。
しばらくすると、その会話が終わったのか、
「ごめんごめん、妖精と話す方法もとい契約をしてなかったよね。そのことをすっかり忘れてたよ!」
苦笑いと共にアイリが今までのことを誤魔化すように少しだけ大きな声で裕也に声をかける。
裕也は紙に魔力を送る練習を止めて、四人を一度一瞥した後、再びアイリへと視線を戻す。
「それぐらいのことだろうと思ったけど――って、おい!」
言葉の途中でそれを遮ったのは、裕也が持っていた弓と紙をユナが奪い取ったからである。弓に関しては、裕也の手元から離れた瞬間、アイリが持ってきた状態に戻ってしまう。
無理矢理奪い取るような真似をしたことを申し訳なく思っているらしく、
「すみません。それどころじゃなくなってしまったので……」
と、ペコリと頭を下げる。
「だったら先にそれを言えよ。別に『渡せ』って言われて、オレが拒否する必要ないんだから。てか、この状況上、精霊を使役する契約か何かを結ばされるってことぐらい、オレでも簡単に想像がつくしな」
「分かってましたけど、やっぱりバレバレでしたか」
「せめて、テレパシー的な何かで会話するなら、視線を動かさないようにしなきゃバレるぞ」
それはユナだけではなく、全員への注意である。
仮にこれが戦闘でする場合、一瞬のアイコンタクトだけならともかく、さっきのように長時間話すとテレパシーで作戦を練っていることがバレバレだからだ。
「それはいいのッ! 本当にすることがあるんだから!」
口を挟むのはアイリ。
アイリは裕也に近付くと手をバッと広げて、裕也を中心とした足元に魔法陣を展開した。
「あ、マジで契約するの?」
「……」
「あれ? 無視?」
アイリに質問するも、アイリは何かを真剣にしているらしく、目を閉じている。そして、口をパクパクと開いている。
「本当に契約するんですよ」
裕也の質問にアイリが答えないため、アイナが代わりに口を開く。
「本来だったら、私が契約の手続きをするべきなんでしょうけど、魔力が不安定ですから、アイナがすることになったんです。こればかりは妖精を使役する人にしか出来ないことなので」
「つまり、自分の魔力を使ってるユナと先生には無理ってことですね?」
そのことを本人に確認するように見ると、二人とも頷いて見せる。
「そういうことになりますね。とりあえず、その魔法陣の中でジッとしててくださいね。別に苦痛系のものではありませんので」
「まぁ、そういうことがあるなら先に言ってくれてると思いますから、何の心配もしてませんよ」
「はい、その通りですね」
裕也の微笑みに、アイナも同じように微笑んで答える。
「はい、設定完了! あとはユーヤお兄ちゃんと契約をするだけだね! ユーヤお兄ちゃん!!」
アイリは少しだけ大きな声を上げて、裕也の名前を呼ぶ。
その声に反応し、裕也もそのちょっとした威圧感に近い呼び方に「はい!」、とちゃんとした返事で答える。
「お願いだから、ジッとしててね? 頭の中では何を考えててもいいから、何も喋らないこと。分かった?」
「お、おう」
「本当にジッとしてるだけでいいからね」
「じゃあ、やるよ?」
「分かった」
裕也はその言葉に従い、目を閉じる。
契約してもらっている最中をアニメで見たことがあるが、こうやって目を閉じていることが多いからである。そのせいで、目を閉じることが当たり前という刷り込みがあったからだ。
そして、視界を閉じた他の神経が突如として敏感になってしまう。
「数多に存在する精霊たちよ。新たに精霊を使役する者として、下記の人物を追加した給え。名はヤマシタ ユーヤ」
――オレのフルネーム、よく覚えてるなー……。
あの時、一回しか言ってない名前を誰に聞くこともなく、スラスラと言えたことに感心してしまう裕也。
そんなことを思っていると突如として下から強風がブワッと吹き荒れる。
裕也は思わず「うおっ!?」と声を上げそうになったが、アイリに注意されていたため、必死に声を出さないように耐える。
――契約成功なのか?
流れが分からないまま、目を開けると周囲にはチカチカと光る妖精たちが周囲に散らばっていた。その様子はまるで蛍と同じである。
その中の一つが裕也の眼前に近付いてくると、
〈あなたがヤマシタ ユーヤさん?〉
と、尋ねられる。
「そうだけど……」
〈だよね。正直に答えてね?〉
「はぁ」
〈あなたは私たちに何を望むの?〉
「望む?」
〈うん、契約を手伝ったあの子は『私たちと友達になりたい』って願ったように、あなたは何を望む?〉
いきなりの問いかけに裕也は「んー」と首を傾げる。
アイリは一人だったからこそ、今精霊が言ったように友達になることを望んだのだろう。それは分からなくもない答え。
しかし、裕也はちょっとだけ違った。
現状、力を貸してほしいだけの存在。自分の身が危なくなったり、誰かの危険が迫った時に護れる力が欲しい。素直に言ったところでどうなるか分からないが、アイリもアイナも同じように契約をし、何を言わなかったことから、この質問はその人の本質を問おうとしている。そう思った裕也は、
「自分や誰かを護るための力がほしいんだ。だから、友達とかとは違うけど、アイリみたいに仲良く出来たらいいかな?」
とその問いに答えた。
〈合格だね。ちょっと痛いけど、我慢してね。それが証だから〉
「え?」
その瞬間、心臓の上に何かチクッとした痛みが走る。その痛みは激痛ではなく、腕にかすり傷を作る時に起きる程度の痛み。忠告されなくても何の問題もない痛みだった。
そして起きていた強風は何事もなかったかのように、裕也の視界は晴れ、アイリの姿が現れる。




