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(9)

「そんなことだろうと思いましたけどね。じゃなかったら、聞いてると思いますから」


 そのことを質問しなかったことを問い詰めるかのようにユナはぼやく。

 ユナの言う通り、もしそのことに気が付いていたら、そのことを四人に尋ねていた自信があったため、何も言い返すことは出来なかった。


「ユーヤくんは鈍感なのか、察しがいいのか……たまに自分は分からなくなるよ」

「うっ!」


 ミゼルの一言に裕也は唸る。

 それは間違いなく『ACF』の効果によるものが強いことが分かっているからである。ただ、それが制御出来ていない現状、自分でさえどのタイミングで察しが良くなるか分からない。だからこそ、ミゼルの言い分がよく分かってしまうのだ。


「とにかく先に進めましょうか。時間の無駄になりそうなのは間違いなさそうなので……」


 アイナはそんな裕也を少し残念そうな目で見ながら、そう促す。


 ――頼むから、そんな目で見ないでくれ。


 アイナにそんな目で見られると思っていなかった裕也はそう思いながら、ちょっとだけ悲しくなってしまう。アイナだけはそんな風に見てくると思っていなかったからだ。


「ですね、進めましょうか」


 しかし、この空気から逃れたかった裕也はそう言うことで、逃れることに決める。


「けど、違いってどんな感じなんですか? 妖精を使役する時とかって、どんな感覚なんですか? ちなみに自分の魔力を使ってやる時の感覚もあったりします?」

「感覚、ですか?」


 アイナは「うーん」と唸りながら、三人を見つめる。

 三人ともビクッ! と身体を震わせたことを裕也は見逃さなかった。いや、見逃すはずがなかった。なぜなら先ほど仕返しをしてやろう、と密かに心の中で思っていたら家である。

 そして、まずはその一人目のターゲットことにユナに声をかける。


「ユナ?」

「は、はい? なんですか?」

「自分の魔力を使うってどんな感じ?」

「え、えーっと……」

「えーっと?」

「……いや、あの……」

「……」

「……」


 助けを求めるようにユナは三人を見るも、三人とも即座にユナから視線を外す。

 その様は自分に振らないでくれ、と言っているようなもの。

 が、裕也もユナだけを責めるはずがなく、


「アイリ―? 妖精を使役するってどんな感じー?」


 と、わざとらしくにこにこしながら問いかけた。

 アイリはあからさまに視線を外し、何も答えようとはせずに口を手で覆う。

 その様子をジィーッと見つめる裕也。視線を逸らすことはなく、ただただ見つめるだけの行為。

 それだけの行為のはずなのに、アイリはビクビクと怯え始めてしまう。それだけ、さっきの仕返しをされていることに気が付いたらしい。

 そして、今度はミゼルに視線を合わせると、


「ユナが上手く答えられないらしいので、先生に応えてもらおうかな? 先生なら余裕ですよね?」


 そこまで言った時に、ユナが胸を押さえてホッと息を吐いたため、


「ユナにも言ってもらうからな? 別に一人じゃなくてもいいんだから。感覚の感想なんて」


 と一瞥し、冷たく言い放つと、


「は、はひッ!」


 ユナは改めて気を引き締めたかのように、怯えた返事で答える。


「それで先生なら教えてくださいますよね?」


 そして、ユナのせいでもう一度ミゼルに同じ質問をすることになった。

 ミゼルはこの流れから逃れきれないと思ったのか、すでに答えを導き出していたらしく、諦めた表情で、


「悪いね。その感覚ってのは自分には分からないよ」


 裕也が思っていた通りの回答を述べた。


「あれ? そうなんですか?」


 しかし、裕也はそれを白々しく尋ねることにした。

 同時にユナとアイリからは「分かってくるくせに」という冷たい視線が注がれるが、裕也は無視。


「何年も前だしね。手足を動かすのと変わらないぐらい、自分にとっては当たり前になってるんだ。だから今さら、『どんな感覚ですか?』って聞かれても、私にはもう分からないかな?」

「そうですか。質問に答えて頂き、ありがとうございました」


 裕也は素直に言ってくれたことに感謝し、頭を下げた。


「すまないね。役に立たなくて」


 逆にその質問に答えられなかったことにちょっとだけショックを受けたように、ミゼルはため息を溢す。


「――って、そんな回答でいいんですか!?」


 ユナは二人のあっけない会話の終わりに驚き、そう突っ込んだ。

 それはアイリも同じだったらしく、


「そうだよ! あんだけ脅すような尋ね方しといて、それでいいなんておかしくない!?」


 と、ユナに同調して声を荒げる。

 そんな二人を呆れた視線を交互に向けながら、


「何言ってんだよ? オレは『分からないなんて言ったら許さない』なんて一言も言ってないけど? 『どんな感覚なんだ?』って尋ねたけど……」


 口端をつり上げ、意地悪く笑う。

 そんな裕也に反論するようにユナは負けじと言い返し始める。


「だ、だって! 雰囲気がッ!」

「雰囲気? オレはそんなもの出したつもりは一切ないけど? 勝手にそう受け取っただけだろ?」

「ッ!」

「先生みたいに素直に言ってくれたら、別に流すけど? 『もしかしたら違いがあるのかも?』って感じで聞いただけだし……」

「一言もそんなことッ!」

「言う必要もないだろ? さっきも言ったけど、『分からないなんて言ったら許さない』なんて言ってないんだし……」

「……」


 さすがに言い返す言葉が見つからなくなってしまったらしく、ユナは沈黙してしまう。

 そんなユナをフォローするかのように、アイリがアイナを指差し、


「お、王女様には聞かないの!? ボクたちだけに聞いて、王女様に聞かないなんて不公平だよッ!」


 と、アイナにも聞くように促す。


「指を差すなよ。王女様なんだから。まぁ、アイリの言う通り、不公平だから聞くだけ聞こうかな?」


 アイリの言葉に従い、アイナの方を見て、ウインクをする裕也。

 そのウインクの意味に気が付いたらしく、


「すみません、分からないです。ミゼル先生と同じで……」


 裕也が質問する前に、その質問を述べたため、


「ありがとうございます。分からないで当たり前ですね」


 裕也もまた用意していた言葉をアイナへと返す。


「う、う……ッ!」


 そんな用意されていた展開にアイリは文句を言うことさえも封じられてしまったかのように唸り、悔しそうに顔を歪めていた。


 ――ざまあみろ。


 裕也はユリとアイリが悔しそうにしている顔を見られて、心の底から満足したのは言うまでもない。


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