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「って、それよりも聞かないことがありました!」


 そう言って、裕也は弓をアイナに見せつける。

 アイナは裕也が聞こうとしている質問の意味が見出せず、きょとんとした顔で裕也の顔を見る。


「分かりませんか?」

「えっと……なんでしょうか?」

「……弓に必要な物ってなんですっけ?」

「矢ですか?」

「ですよね?」

「はい」

「矢はないんですか? それがないと武器として成り立ちませんよね? いや、成り立つのかな?」


 外側部分の流れに沿って、少し削ってある部分を触れながら、元居た世界であり得る想像を行う。

 アイナはその部分に触れようとはせず、


「矢はないんですよ?」


 とあっさりした返答をした。


「え? ないの?」


 そのあっさりとした返答に驚いてしまい、裕也は再び尋ねると、


「はい、ないです」


 再びあっさりと答えられてしまう。


 ――じゃあ、どうやって戦えって言うんだ?


 弓=矢というべき要の部分がない以上、どうやって戦えばいいのか分からない裕也は頭を悩ませ、戦い方を模索し始める。いや、想像通りの展開であれば、あの削られた部分で戦闘は出来るはずなのだが、それでは弓としての名前がふさわしくない。つまり、どうにかして矢というべき存在を作り出す必要があると考えた時、ふと裕也の頭にある閃きが生まれる。


「あ、気付いた?」


 アイリが「ようやく?」みたいな表情を浮かべてながらも、気付いたことにホッとため息を溢す。


「ユーヤくんにしては気付くのが遅かったね? ずっと気付かないのかと思ったよ」


 ミゼルには至っては少しだけ皮肉交じりに言ってきたが、下手をすれば本当に気付かない可能性があったため、裕也はそれにたいして文句を言うことが出来なかった。


「さて、答え合わせをしようか? その弓は何を矢として放つと思う?」

「答えとヒント、両方言っているような気がしますけど……」

「そうかい?」

「はい」

「まぁ、良いから答えなよ」

「分かりました。自分の魔力ですよね?」

「正解だよ、ユーヤくん」


 ピッ! と裕也に向かって指を突き出す。

 裕也はなんとなくその射線から顔を逸らしながら、


「それぐらいしか考えられませんからね」


 と、正解したことに喜ぶわけでもなく、苦笑いを溢す。


「それぐらいのことをすぐに思いつかなかったんだけどねー」


 アイリが先ほどの仕返しとばかりに言ってきたため、


「しょうがないだろッ。ノーヒントで気付け、って方がおかしいと思うぞ?」


 その不満を露わにして文句を言うと、


「でも、ユナお姉ちゃんは気付いたみたいだよ?」


 ユナをチラッと見ながら、「ふーん」と意地悪く言った。

 裕也もそのことが本当なのかどうかを確認するためにユナを見ると、自慢そうに胸を張っているユナの姿が視界に入る。


 ――くそッ! 経験の差を考えろよッ!


 思わずそう言ってしまいそうになったが、それでも気付けなかったことは本当だったため、


「分かった分かった。すぐに気付けなかったオレが悪いってことでいいよ」


 と、仕方なく負けを認める。


「それよりも! もっと大事なことがあるだろ? どうやって『魔力の矢』を作るんだ? 体内から物に魔力を移動させることは出来たけど、矢として形成する方法なんて教えて貰ってないぞ?」


 そして、次に大事なことをアイリへと質問した。


「大丈夫大丈夫、ボクたちがその準備をしてないわけないでしょ? 本当にユーヤお兄ちゃんは心配性なんだからー」


 アイリはそう言いながら、ゴソゴソとポケットから一枚の紙のような物を取り出す。そして、それを裕也へと差し出す。

 差し出された物の端を掴むようにして、その紙のような物を持ち上げる。それは目測で矢ほど長いものだった。

 が、裕也にはこれが『魔力で矢を形成する』訓練にどうかかわって来るのか分からなかった。


「どう使うの、これ?」

「風船と同じだよ!」

「風船? 魔力で膨らませるってことか?」

「そうそう。魔力を込めると膨らむ仕組みだから、最初はこれで慣らしていけば、最後にはこれがなくても魔力で矢を作ることが出来るようになっている、ってことだね!」

「ほうほう、なるほど」


 裕也はその部分を掴んだまま、「んっ!」と気合を入れるようにして、その紙に魔力を込めようと試みる。

 やり方は弓と同じような感じで、その紙に魔力を送るだけの簡単な方法である。


「あっ……いいや! 続けて!」


 アイリは裕也の先走った行動に何か言おうとするも、「やってみれば分かるか」という雰囲気を露にして、その言葉を自分で封じた。

 だからこそ、裕也はその指示に従い(無視してやり続けるつもりではあったが)、その紙に魔力を込め続ける。手にはすでにあの時のような熱い感覚が通っているものの、それはその紙に上手く流れるような気配はなかった。


 ――なんだ、これ?


 さすがに違和感を覚え始める裕也。

 そう思ったのは、風船のどこかに小さな裂け目が出来ていて、そこから空気が漏れる感覚に近い感覚があったからだった。もし、それが本当ならば、この紙は絶対に膨れるはずがない。

 だからこそ、裕也は魔力を送り込むことを諦め、胸に溜まっていた重苦しい空気を一気に吐き出す。


「これ、膨らまないだろ?」


 ムスッとした様子でアイリに尋ねる裕也。

 しかし、その言葉にアイリは首を横に振る。


「膨らむよ? ボクがやってみようか?」


 アイリは自分に渡すように手を伸ばしてきたため、裕也は持っていた紙をアイリへと返す。

 そして、アイリは裕也のように気合を入れるまでもなく、何か必死になる様子でもなく、あっさりとその紙を膨らませてしまう。そして、改めてその紙を膨らませると、矢のような形状になることを知る。


「ほらね、出来たでしょ?」


 ポカーンとしている裕也を余所に、アイリはやるべきことはやったと言うように矢を膨らませることを止める。


「これはね、魔力が拡散しやすいように作ってあるの。その仕組みがなかったら、きっとユーヤお兄ちゃんでもすぐに膨らませることが出来ると思うよ? でも、それじゃ違う問題が生まれるの」

「違う問題?」

「矢の強度だよ。硬ければ硬いほど威力も増すし、柔らかすぎると矢が飛んでる最中に霧散したりすることもあるからね」

「そういう理由でか。通りで膨らまないはずだ」

「最後まで話を聞かないからいけないんだよ?」


 「ふふん」とアイリは偉そうに鼻を鳴らし、ない胸を張った。

 しかし、それが本当のことであるため、裕也は文句を言うことが出来ず、その紙を渡すように手を伸ばす。

 アイリは再びその紙を裕也に渡しながら、


「それでユーヤお兄ちゃんはどっちの方法で矢を膨らませようとしてるの? 自分の魔力? それとも精霊の使役?」


 と、裕也に尋ねた。

 そんなことを何一つ考えていなかった裕也は思わず、アイリと紙を交互に見た。そして、「えーと……」と考え始める。しかし、全然考えていなかったため、最終的にどんな言い訳も思いつかず、苦笑いを溢すことしか出来なかった。

 その苦笑いに全員が情けないため息を溢したのは言うまでもない。


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