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(2)

「それで、これからどうするんだ? どうするというか、各種族の長を虜にするのはいいけど、どの種族から行く?」


 先ほどの会話のおかげで、ユナが聞いてきた質問を今度は裕也から口に出す。本来のあるべき形の質問として。

 ユナは自分からその質問をしたことを忘れているのか、


「そうですねー。ちょっと地図を見てみましょう」


 手を右の方へ伸ばすと勝手に上から下に向かって空間が裂け、黒紫色の入口が現れる。そして、迷うことなくその中に手を入れる。そして、空間から抜かれた手に持たれていたのは一枚の用紙。その空間も用事が終わったと自動で認識したのか、手を抜くと同時にその入口は、今度は下から上へと閉まり、何事もなかったかのように消え去ってしまう。


 ――これはどっちの力なんだよ。


 この世界では魔法が一般的になっている世界ということは分かっているものの、ユナは天使という存在。いったいどちらの力で今の空間を出現させたのか、裕也には分からなかった。

 ユナはその用紙の紐をほどき、バサッと広げた後、手から離す。すると、その用紙は勝手に宙に浮く。そして、そのことに驚く裕也を無視して現在地を探し始める。


 ――魔法の世界だから当たり前、か……。


 ユナからすればこんなつまらないことに驚かれ、反応するも面倒だと思った裕也は、何事もなかったかのようにユナの隣に移動して、一緒になってその用紙を覗き込む。


「お、おい。こ、これは……ッ」


 見た瞬間、裕也はこの世とは信じられない物を見たような怯えた声を漏らす。

 なぜなら、それには地図自体は書いてあるものの、現在地までは到底分かるはずがない世界地図だったからだ。

 さすがにこれはユナも想定済みだったのか、


「さすがにこれでは分かりませんよね。いえ、一応場所は示してあるんですけど……」


 苦笑しながら、赤い矢印のようなもので示された箇所を指差す。


「これで分かるはずがないだろ」

「いえいえ、分かるんですよ、これで。というより、これは裕也くんがよく使っているあの機械と同じ仕組みですから」

「オレがよく使ってる機械?」

「はい。分からないなら静かに見守っていてください」


 そう言って、ユナは赤い矢印を中心にするようにして、自分の二本の指を垂直に立てる。そして、裕也がよく知っている動き――二本の指を大きく広げる。すると、地図はその動きに従うようにその矢印の個所を中心に拡大。そして、さっきより詳しく地名などが書かれた物へと変わる。


「ああ、スマホか」


 さっきまでは分からなかった言葉の意味を理解した裕也は右手の親指と薬指を擦らせ、音を鳴らすことで理解したことを示す。


「はい、その通りです。あくまでこちらは地図の方に魔法がかけてあるので、これが出来るのですが……。やり方としましては魔力を指先に集めて、スマホと同じように広げる感じですよ」

「へー……。オレにも出来るかな?」

「やってみます?」

「いいのか?」

「攻撃魔法とかじゃないですし、指に魔力を集めることが出来るのであれば、簡単に出来ると思いますよ? どっちみち、裕也くんには魔力を上手く扱えるような特訓を受けてもらわないといけませんから」

「あ、やっぱり?」

「当たり前じゃないですか」


 なんとなく、魔力を上手く扱えるような特訓をしないといけないような気がしていたため、ユナの発言に対して驚くことはなかった。が、「面倒くさそうだな」という気持ちは拭いきれそうになかった。

 そう思ってしまったのは、今までの人生で身に付けてきたものが全く役に立たず、一から始めならない。万能とも言える『ACF』も初めてのことには上手く働かないという確信に近い物があったからである。

 しかし、そんなことを愚痴ったところで進展しないことが分かっているため、ユナにそのコツを尋ねることにした。


「それでどんな感じでやるんだ?」

「えーと……ですね。私は生まれた時から使える力だったので、あまり意識したことはないんですが、指先に光を灯らせるって感じです……かね?」

「……ものすごく当てにならないコツだな」

「そ、そんなこと言われてもしょうがないじゃないですか! 何でもですけど、自分が知っていることを他人に教える時ってそんなものでしょう!?」

「いや、そのモヤモヤする気持ちは分かるけどさ。こればかりは理解が追いつかないんだけどな……。まぁ、いいや。やってみよう」


 ユナが持っている地図を奪い取るようにして掴むと、自分の目の前で地図を浮かせる。そして、ユナの言われた通り、指先に光を灯らせるイメージを行う。

 集中すること数秒。

 そのイメージをすることが出来た裕也は地図に二本の指を置き、スマホの画面を拡大する時と同じ感覚で指を広げる。

 が、拡大されることはなかった。

 一度、裕也はユナを見る。

 ユナはそれに対して、頷いて応える。

 裕也はもう一度、指を地図に押し付ける。地図が指の圧力によって、凹むほど。そして、もう一度広げる。

 しかし、反応はない。


「こうです」


 さすがに二度目の失敗で上手くいかないと判断したのか、ユナは分かりやすくするために指先に赤い光を灯らせる。そして、隣から腕を伸ばし、赤い矢印が付いた場所を中心にして広げる。すると、その動きに従い、地図は拡大される。


「分かった」


 その赤く光る指先を直接見た裕也は目を閉じ、頭の中で指先が赤く光るイメージを行う。「んー」と唸る声を上げた後、指先に何か熱い感覚を覚えたため、ゆっくりと目を開ける。

 それは気のせいであり、何も起きていなかった。

 当たり前の結末に、裕也は気合を入れていた身体を脱力させるとともに、体の中に溜まっていた二酸化炭素を一気に吐き出す。


「~~~ッ! あー、もうどうやったら上手く行くんだよ! オレのACFはどのタイミングで発動するんだ!」


 少しばかり自分の能力に頼っていた裕也はそう声を張り上げながら、ユナを見つめる。

 ユナを見つめたのは、その答えを知っていると思ったからだ。


「これでACFは発動しませんよ? というより、発動条件を満たしていませんし」


 その裕也の質問にユナはあっさりと答えながら、再び自分の前に地図を移動させ、自分たちがいる現在位置を確認し始める。


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