(4)
「さて、それで四人で訓練の方針について話し合ったんだろう? そのことを詳しく教えてくれるか?」
そう言って、裕也は四人を交互に見る。
昨日言っていた訓練方向の変更もとい武器の使用することを聞いていた裕也は、改めてその説明を四人の内の誰かに求めることにした。
その言葉から誰かが説明しないといけないと察したらしく、四人は一斉にお互いの様子を伺うもやはりアイナの方へ視線が集中する。しかし、アイナはまだ顔色が悪く、喋っている途中で気分が悪くなることを考慮したのか、勢いよくアイリが手を上げた。
「ボクが説明してもいいかな?」
三人の答えは分かっているものの、改めてアイリが尋ねると、
「お願いします、アイリちゃん」
と、この中で一番説明出来ないユナが頭を軽く下げ、
「お願いしますね、アイリ」
アイナは申し訳なさそうにそう頼み、
「そういうのは苦手だから任せるよ」
困ったようにミゼルは頬を掻きながら、説明することを認めた。
三人の許可を貰ったことを「よしっ」と自分に気合を入れるようにして、笑顔で裕也を見つめて、
「そういうわけで、ボクが説明するねッ!」
説明出来ることが嬉しそうに言った。
「おう、よろしくな。それでどんな武器を使わせてくれるんだ?」
「武器は弓だよ。一応、剣とかあるんだけど、それはまた筋力トレーニングとかも始めないといけないから、気軽に扱える弓!」
「弓かー。んー、扱えるかな?」
弓道経験は一切ない裕也はそのことが少しだけ不安になってしまう。
矢をセットし、弦を引く力がどれくらいいるのかも不安ではあるものの、それは慣れれば問題はない。しかし、それ以上に問題なのが目標物に命中させることが出来るのか? ということだった。いくら『ACF』がそれを補助してくれたとしても、命中精度はそう簡単に上がらない。それを考えると、どうしても不安を隠すことが出来なかったのである。
「ユーヤお兄ちゃんが心配してることは、ここにいるみんなが分かってるよ?」
そんなことを考えていると、アイリにそう声をかけられたため、
「え?」
と、意識を改めてアイリへと向ける。
「命中に関しての心配でしょ? 違う?」
「いや、そうだけどさ……。なんで分かったんだ?」
「それはね――」
「あ、ユナが話したのか。それなら納得だな」
ユナが天使であり、出会った時に自分のことを全部知っていることを思い出した裕也は、アイリの言葉を遮って、自己解決した。
その答えを聞いたアイリは、
「ちぇっ、つまんないの……」
裕也が簡単に当てたことがつまらなさそうに舌打ちを隠すことなく打ち、自分の気持ちをはっきりと溢す。
その様子にアイナを除く全員が空笑い。
「面白い、つまらないは置いておくとして、その心配をなんとかする手段があるのか? アイリの言い方じゃ、それをなんとか出来る感じだったけどさ」
ただ、こんな会話をしていても時間の無駄だと思った裕也は、ちょっとだけふてくれているアイリへそう尋ねると、
「まぁ、その弓に特殊な性能が付いてるんだよ。ね、王女様」
そのことを改めて確認するように、アイリはアイナの方を見る。
アイナもそれに従い、首を縦に振る。
「へー、そんなに特殊な性能なのか?」
「特殊というか、エルフで国宝級の一つの武器かな?」
「………え?」
「だから、国宝級の武器の一つをユーヤお兄ちゃんに貸してあげることになったの。王女様の命を救った人が、その真犯人を見つけようとしてくれてるんだから、力を貸さないと国の威厳にかかわると思ったから貸してくれるんだよ」
「……それ、大丈夫なのか? 国宝級の武器なんだろ? オレが下手に扱って壊れたりするんじゃないのか?」
「国宝級なんだから壊れるはずがないよ。それに雑な扱い方しないでしょ?」
「そりゃ、そうだけどさ……」
それでも裕也は不安を隠すことが出来なかった。
アイリの言う通り、雑な扱い方は最初からするつもりはない。それだけ『国宝級』という三文字はかなり重要な言葉だからである。しかし、自分の予想とは外れ、損傷してしまうこともないとは言い切れない。それを考えると、やはり自分にはその武器を貸してもらうことが無謀にしか思えなかったのだ。だからこそ、裕也の返答は一つしかなかった。
「やっぱり、その武器は貸してくれなくていいよ。貸してくれるなら、普通の武器――」
そう言っている途中で、
「ユーヤお兄ちゃんッ!!」
と、アイリに大声で名前を呼ばれ、裕也は言いかけていた言葉を飲み込み、身体をビクンと振るわせる。
「な、なんだよ?」
「王女様が貸してくれるって言うんだよ? その意味を考えたことがある?」
「え? その意味? 貸してくれる理由に深い意味があるのか?」
「……やっぱり分かってなかったんだ……」
そのことが分かり、がっくりと項垂れるアイリ。しかし、すぐに顔を上げて、真面目な顔になる。
「あのね、ユーヤお兄ちゃん。今回、国宝級の武器を貸すっていうのは、ユーヤお兄ちゃんに生き残ってほしいからなんだよ?」
「生き残るって……そんなの当たり前だろ? なんで――」
「いいから最後まで聞いてよ」
「……分かった」
「例えばの話だけど、今回真犯人が今怪しんでるセインだとして、ユーヤお兄ちゃんは勝てないのは分かるでしょ? セインより弱い人なら、セインもこちら側の味方になってくれるけど、敵に回った場合は無理。だから、なんだよ。ボクたちがその武器を貸すっていうのは、ユーヤお兄ちゃんを死なせたくないから。宝物より大事な物って、やっぱりあるでしょ?」
アイリは裕也が死んでしまう想像をしたのか、声の元気も無くなり、表情を弱々しい笑顔になってしまう。
同じようにアイナとミゼルもその想像をしてしまったのか、裕也から顔を逸らしてしまう。
そんな中、ユナだけは決意ある目で裕也を見ていた。
『絶対に死なせない』
その目は間違いなくそう語っていた。いや、この世界に来る前にそんなことを言っていたことを思い出す裕也。
しかし、裕也はユナが自分のために死ぬことなんて望んでいない。自分を庇って死ぬなど絶対に嫌だった。そんな重過ぎる罪に耐えられる自信が一切ないからだ。
――選択肢なんて一つしかないのか。
「分かったよ。素直に借りることにする。なるべくは壊さないように気を付けて使うけど、もしかしたらってこともあるから……」
「分かってますよ。それでも私が貸したいと思ってるんです。だから、気にしないでください」
裕也が言わなくても、そのことは分かっていたアイナははにかむ。
「ありがとうございます、王女様。大事に使います」
裕也はその言葉を聞いて、頭を下げてお礼を言った。いや、武器を借りることだけではなく、自分の命を守ってくれようとしていることの気持ちも含めて。




