(3)
裕也の気持ちは言葉にして出さなくても、表情に出ていたらしく、
「ミゼル先生、私は大丈夫ですから……」
と、アイナが全然良くなっていないにも関わらず、そう言い始めたため、
「だ、大丈夫ですよ! 少なくとも王女様よりは平気だから!」
まだ胃の中に残るムカムカ感を我慢しながら、口元を押さえていた手を離して、両手を横に振りながら、それを拒否した。
「ほ、本当……ですか……?」
裕也が無理矢理元気なフリをしているのは、アイナ自身無理をしていることが分かったからだろうか、全く信じていない目で裕也を見つめる。
ウソを吐かなくも平気です。
口に言わずとも伝わってくるアイナの言葉に、
「本当ですって。自分は背中撫でてもらったら、それだけで――」
フォローした瞬間に、ユナに背中を撫でられ始める。
「こうすればいいんですよね?」
にっこりと笑顔で、裕也はこれで大丈夫と伝えるために裕也にウインクするユナ。
「そ、そうだけど……」
その様子を見ていたアイリもまた、
「ボクもするよ! そうしたら、二倍で良くなるかもしれないし!」
ユナに張り合うかのように、裕也の左側に立つようにして、ユナより下の位置(腰辺り)を撫で始める。
「あ、ありがとう……」
二人の行為に困りながら、アイナとミゼルを見つめる裕也。
アイナとミゼルは口に出して言わないものの、ユナとアイリの立ち位置に行きたかったと言わんばかりの目で見ていた。
だからこそ、裕也は苦笑いをしながら、
「と、とにかく奥に行こう。座ってゆっくり話そう」
そう言って、二人が撫でる手から離れるように、奥に移動。そして、部屋に備え付けてあるイスに座って、誰にも背中を撫でられることがないように背中を守ることにした。
四人とも裕也に指示に従い、ユナは開いているイスへ、アイリは自分がさっきまで寝ていたベッドに座り、体調の悪いアイナは裕也が寝ていたベッドに横たわる。ミゼルもまたアイリ寄り添うようにして、アイナが横たわっているベッドに座る。そして、さっきまでと同じように首筋に手を添えて、治療を続けた。
――別に無理して来なくても良かったんだけどな……。
アイナの様子を見ていると、思わずそう言いたくなってしまう裕也。
それはアイナが来るのではなく、自分から救護室に行くことは最初から予定していたからだった。だからこそ、無理してまでここに来てほしくなかったのである。
――まぁ、オレには分からない女心のせいなんだろうな……。
そう勝手に結論付けて、裕也はその言葉を飲み込み、これからのことについて話し始める。
「今日一日することを話すってことでいいかな? 王女様たちもそれが気になって来たんだろうし……」
それを確認するためにアイナとミゼルを見ると、
「その通りです」
「だね。アベルの件も調べないといけなくなったから、その予定を聞いておこうと思ったんだよ」
二人とも裕也の言葉が的を射ていることを認めた。
「じゃあ、二人の考え通りに自分の予定を話すと、順番的には『訓練』、『アベルの部屋の探索』、『聞き込み』っていう感じかな? たぶん、いつもより早く終わったりするかもしれないけど、本当に殺人起きたから、その真犯人についての考察をしないといけないだろうし……」
裕也は自分が今、思いついたプランについて四人に話す。
もちろん、思いついたのが今なだけあって、四人がそれぞれに考える予定があるならば、それを含めた上で改めて考えるつもりだった。
が、四人はそれにあっさりと首を縦に振った。
「まぁ、それが妥当なんでしょうね……」
「うん、いいと思うよ!」
「……ですね。私は……」
「アベルの部屋には行けないんだろ? 王女様分かってるから。無理に話さなくてもいい」
それぞれが肯定する自分のプランに裕也は思わず、
「いや、それでいいのか? 本当に……」
と、思考停止した状態で口が勝手にそう尋ねてしまっていた。いくら、自分の魅惑能力で虜になっているとはいえ、こういう時ぐらいは自分の考えをしっかりと述べて欲しいと思ってしまったからである。
「え? 何かダメな点ありました?」
そう聞き返すのはユナ。
「特になかったと思うけど……。ボクはユーヤお兄ちゃんと全く同じ考えだったし……」
ユナに見られたアイリは、真顔でそう答える。
「自分は王女様に付いていないといけないからね。王女様の負担がなければ、それでいいよ」
ミゼルはミゼルで、アイナの様子を伺いながら、アイナの行動予定を尋ね、
「私はユーヤさんにお付き合いしますよ? というより、先に訓練をしてもらった方がゆっくり出来そうなので賛成したんです」
少しだけ顔色が良くなったアイナは、ベッドからよろよろと身体を起こして、弱々しく裕也に向かって微笑む。
――……魅惑関係なくそうつもりならいいんだけどなー……。
ユナは何も考えていないとしても、三人はそれぞれに考えた上に導き出した答えみたいだったため、裕也はそう思いながらも無理矢理自分を納得させ、
「じゃあ、そういう予定で行こうか。途中で何かしたことがあったら、ちゃんと言うように」
そう四人に釘を打って、そう言う方針で話を進めることにした。




