(2)
「へー、ボクって魔法をかけられてたんだー……」
裕也とユナがアイリに魔法をかけられていたことを伝えると、アイリは「へー」と頷く。が、そこまで気にしていないらしく、あまり興味を持っていないようだった。むしろ、気持ち良く睡眠出来たからどうでもいい、とでも思っているような感じで欠伸を溢す。
「気にならないのか?」
そんな興味を持ちそうにないアイリにそう尋ねると、
「別に悪意があったってわけじゃなさそうだしねー。ボクとしては昨日の件のことを忘れられるぐらい気持ちいい夢が見れたんだ!」
逆に嬉しそうに答えられてしまう。
アイリの様子から悪意が感じられないことが分かるも、そのことがあまり納得いかない裕也はユナを見てみる。
それはユナも同じらしく裕也と目を合わせた後、そっと目を閉じて、神経を集中し始めた。が、すぐに目を開けて、
「魔力の残留が感じられないですね。こういうタイプの探知はあまり得意じゃないからもしれないからしれませんが、悪意的な何かも感じ取ることが出来ませんし……」
そのことを残念そうに顔を横に振りながら答える。
「そっかー。ちなみにアイリ」
ユナの報告を聞いた後、アイリに顔を向ける裕也。
「何?」
「ユナが見た夢ってどんなのか聞いていいか?」
「夢の内容?」
「おう」
「お父さんとお母さんと仲良く過ごしてる子供の頃の夢だよ?」
「その夢なら悪意があって眠らせたわけじゃないことは確定だな」
「悪意があるなら、悪夢を見せるはずだもんね!」
「その通りだから困る……それに――」
そう言いながら、裕也はアイリを起こすための合言葉を教えてくれた声の主について模索し始める。
あの声は一切聞いた覚えがない。しかも、あの時見たユナの反応からはユナが言ったように思えなかった。そのため、余計に原因が分からなかったのだ。
――可能性として、あの声の主が犯人であることは間違いないんだろうけど……。
アイリを起こす合言葉を知っていた以上、その声の主がアイリに魔法をかけた犯人だという確信はあっても、その証拠がなく、その人物もいない以上、どうすることも出来ない。あくまで悪意がなかったことがマシか、と考えていると――。
「えい!」
アイリにグリグリと指と右頬に思いっきり捻じり入れられる。
「痛ッ! な、何すんだよ!?」
その指を慌てて掴みながら文句を溢すと、
「ユーヤお兄ちゃんがいきなり自分の世界に入るからいけないんでしょ!?」
イライラとした口調で文句を言われ返されてしまう。
そんなつもりは一切なかった裕也は「え?」と声を漏らし、ユナを見る。
「ぼんやりしてましたよ? まぁ、アイリちゃんに魔法をかけた犯人について考えてたのは分かりましたけど……。だから、私は邪魔しないようにしてました」
アイリの意見と裕也が考えていたことが分かっていたため、どっちつかずの状態で自分の考えを述べた。
「あー、すまん。ユナの言う通り、アイリに魔法をかけた犯人について考えてたんだ」
と、裕也はぼんやりしていたことを素直に謝罪。掴んでいたアイリの指を離すと、アイリの不満を少しでも宥めるために頭を撫で始める。
「反省してるならいいけど……、ユーヤお兄ちゃんが中途半端に言葉を止めるからいけないんだよ? 『それに……』って」
「それはあれだ、さっき説明したろ? 不思議な声。それについて考えたんだよ。たぶん犯人だろうなって……」
「あ、ボクもそう思う」
「そっか……。まぁ、悪意がなかったから、これ以上の詮索はしないんだけど、どういうつもりで魔法をかけたのかって考えただけさ」
「だね。悪意があるならダメだけど、ないから何とも言えないよねー」
アイリもそのことを了承し、「うんうん」と何度も首を縦に振る。
「ですね。他にすることがありますから」
ユナもそれには同じ意見らしく、にっこりと笑い、納得してくれた。
その時、タイミング良くドアがコンコンとノックされ、三人は全員の顔を見合わせる。
「まぁ、ここにやってくるなんて決まってるよな」
そのノックしてきた主に心当たりがあった裕也は二人に尋ねると、
「ですね。決まったようなものです」
「うん、そうだね」
二人ともやってきた人物に心当たりがあったらしく、裕也が返事をすることを促してきたため、
「はーい、どうぞー!」
と、裕也は仕方なく代表して、ノックしてきた主が部屋に入る許可を出す。
そうして入ってきたのは三人が予想した通り、ミゼルとその後ろに隠れるようにしてアイナの姿があった。
ミゼルが来ることは分かっていた三人だったが、アイナまでやってくるとは思っていなかったため、少しだけ驚いてしまう。が、すぐにほぼ同時に三人に動き出し、アイナへと近寄る。
「大丈夫なの、王女様!?」
一番に尋ねたのはアイリ。
裕也とユナもその言葉を誰よりも先にかけたかったが、友達であるアイリが声をかける方がいいと思い、二人はその言葉をアイリへ譲ったのである。
「大丈夫です、心配おかけしました」
ミゼルから一歩出るようにして、アイナはアイリの頭を撫でながら、まだ少し元気がない声でそう答える。元気ではないけれど、元気であることを悟られないように必死に誤魔化そうとしていた。
――あんな物を直接見たからしょうがないか……。
今でもあの惨状を思い出せば、簡単にそのことが思い出すことが出来た裕也は反射的にやってきた吐き気を押さえるべく、手元に口を手に当てる。
「あ、大丈夫ですか? 私は気絶してしまいましたが、ユーヤさんは私よりも――」
口元が手に持っていく仕草で、昨日のことが蘇ってしまったと気付いたアイナが心配そうに裕也に見つめながら言ってきたため、
「だ、大丈夫ですよ。王女様こそ大丈夫ですか?」
裕也はそう反射的に答えた。
「大丈夫ですよ、一応は……。それでも……ッ!」
アイナもまた裕也と同じように思い出したらしいが、ミゼルが首元に手を置き、
「その話題はあまりしないようにって言ったじゃないですか。というわけで、三人ともこの話はなるべく禁句だ。自分の能力で王女様の吐き気をなるべくは押さえるようにしてるけど、限界はあるからね」
その手を光らせながら、ミゼルは面倒くさいという表情をしながら、三人に伝える。
「す、すみません」
「分かりました」
「気を付けるね」
ミゼルの三人は素直に頷く。
裕也に至っては、少しだけ吐き気がきている自分にも今、アイナにやっていることを自分にも少しだけやってほしいと思ったが、アイナの方がかなり顔色が悪いため、口に出して言うことはなかった。




