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(1)

 裕也はゆさゆさと身体を揺さぶられる感触でゆっくりと目を開ける。


「……ッ!」


 が、すぐにその目を閉じ、腕で目を隠すように覆う。

 目を閉じてしまったのはカーテンが全開で開けられており、太陽光が一気に目に入って来たからである。


「ま、眩しいな……。なんで、そんなカーテンがもう空いてるんだよ……」


 その眩しさに不満を漏らすと、


「空いてるんだよ……って、何時だと思ってるんですか?」


 その不満を不満で返すようにユナの呆れた声が帰ってくる。

 裕也はユナの声を聞いて、覆っていた腕を退かせ、目を細めるようにして太陽光に耐えながら、ユナを見る。


「ユナ……?」

「なんですか?」

「……」


 なんとなく頭の中にぽっかりと浮いたような穴を感じつつも、それがなんなのか全く分からない裕也は首を傾げつつ、


「いや、やっぱりなんでもない」


 何を尋ねようとしたのかも分からずにそう答え返した。

 ようやく太陽光に慣れてきた裕也の視界に入ってきたユナは、その答えに迷ったように首を捻っていた。


「ものすごく気になるんですけど……」

「今、何時なんだ?」

「普通に無視ですか。別にいいですけど……。もう七時ですよ」


 無視されたことにムスッとしながらも、ユナは呆れたように目覚まし時計を裕也に付きつけるようにしながら答える。

 裕也はその時間にびっくりしていまし、


「し、七時!?」


 と、声を荒げてしまう。

 ユナはその声にびっくりすることはなく、


「そうですよ。七時です」


 むしろ、冷静にその時刻を再び伝えた。


「く、訓練は!?」

「しますよ、これから」

「いや、だって……ッ!」

「昨日、あれだけ慌ただしくなったんですから、どうしようもないじゃないですか。そもそも、アイリちゃんなんか爆睡してしまって、揺すっても起きませんし……」


 ユナは自分のベッドに顔を向けながら、「はぁ……」とため息を漏らす。

 裕也もまたそれに釣られるようにベッドを見つめると、そこには丸まった毛布を抱きしめ、気持ち良さそうに寝ているアイリの姿があった。


「……昨日……いや、時間にして今日だけど寝るのが遅かったせいか?」

「知りませんよ。知らないけど、爆睡してるのは本当ですよ」

「ユナが揺すっても起きないんだから、そうみたいだな」

「そういうわけで分かります?」

「…………なんとなく」

「じゃあ、早く起きてお願いします」

「分かったよ」


 裕也はユナの指示に従い、身体を起こし、自分が使っていたベッドから降りる。そして、今度はユナとアイリが使っていたベッドの上に登り、


「おーい、アイリー。起きろー!」


 そう言いながら、ユサユサとアイリの身体を揺さぶる。


「うーん……」


 アイリはそう漏らしただけで、再び気持ちよさそうな寝息を立て始める。この様子から起きる気配は一切ない。


 ――本当に爆睡してるな……。


 この時点で自分の声でもアイリは起きる気配を見せなかったため、裕也は諦めモードになってしまう。それは直感が「なんとなくダメだ」と伝えてきたからである。

 それを伝えるためにユナを見ると、ユナはキッ! と裕也を睨みつけながら、顎を裕也からアイリへと向ける。


「はいはい、分かった分かった」


 ユナの指示に従い、裕也は再び、


「おーい、アイリー! 朝だぞー! 起きろー!」


 と声をかけながら、さっきよりユサユサと身体を揺らす。


「う、ううーん」


 すると先ほどよりも良い返事が返って来るものの、起きる気配は全くなかった。

 この様子を見ていると、裕也はアイリが魔法か何かによって強制的に眠らされてしまっているような感覚を覚えてしまう。そうでないとここまで熟睡する可能性が低いからだった。


 ――そう考えると設定された時間まで起きないんじゃ……。


 救護室で寝ているアイナのことを思い出し、同じように設定されていると考えるとそれぐらいしか考えられなかったのだ。

 その時、不意にユナの方から低い声で、


「裕也が取られちゃいますよ」



 と、はっきりと聞こえる声でそう言われる。

 裕也は聞き慣れない声に慌ててユナの方を見ると、ユナは「え?」と不思議そうに声を上げながら、きょとんとした表情を浮かべた。


「どうしたんですか?」

「え? 今、『裕也が取られちゃいますよ』って低い声で言わなかったか?」

「低い声? しかも、呼び捨て……ですか? 私、そんなこと言った覚えありませんけど……」

「でも、そっちから声が……」

「気のせいじゃないですか?」

「……気のせいかな……」


 ユナは不思議そうに言う中、裕也はそんな感じは全くしなかった。それだけはっきり聞こえたからだ。

 それに、その言葉でアイリがなんとなく起きそうな、そんな気がしてしまい、


 ――まぁ、やるだけやってみるか……。


 根拠は一切ないものの、裕也はそう思い、顔をアイリに顔を近付け、


「おーい、ユナー。『裕也が取られちゃうぞー』」


 自分の名前を呼び捨てで恥ずかしいのは少しだけ恥ずかしかったが、それを我慢して囁く。

 すると、その言葉がアイリにかけられた魔法を解く合言葉だったらしく、バチッ! と目を開ける。そして、ガバッ! と勢いよく身体を起こした。


「んー、良く寝たぁー! って、どうしたの、二人ともびっくりした顔をして?」


 自分が魔法で眠らされていたことなど知る由もないアイリは、その起き方にびっくりしている裕也とユナを見て、そう尋ねた。


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