(11)
「ヒントはアベルの机の中と本棚にありますよ。本棚に関しては普通に探しては見つからないと思うので、本を全部見る勢いでやった方がいいと思いますけどね」
ユナはそう言い残し、裕也に背中を向ける。そして、ベッドに向かって歩き始めた。
その様子からもう話すことはない。
裕也はそのことをユナの背中から読み取ることが出来たため、
「ありがとうな。助かった」
お礼を言うことしか出来なかった。
そこでユナ自らが足を止めて、思い出したように再び裕也の元へ歩み寄ってくる。
「お礼なんて良いですよ。私が裕也にするべきことを思い出しましたから」
「するべきこと?」
「別に出てくるのはいいんですけど、これをちゃんとしないとダメって言われてました」
「出てくる? ちゃんとしないといけない?」
裕也の中ではその言葉は嫌な言葉でしかなかった。
何をされるのかは分からないけれど、自分にとって不都合なことしか起きない。そう思うには十分すぎるほど材料だったからだ。だからこそ、
「やめろ。何をするつもりか知らないけど、止めろ!」
質問ではなく、制止の言葉を言い放ちながら、後ろに下がる。が、二、三歩下がった後ろがベッドであることをすっかりと忘れていた裕也は、そのままベッドに仰向きで倒れ込むような形になってしまう。
「大丈夫ですよー。あの時と同じように痛くなんてありませんから」
もう逃げ道がないと言わんばかりに、偶然にもカーテンの隙間から入ってきた月光を背中にユナは妖艶に笑って見せた。
「あ、あの時?」
「思い出せないでしょうけどね。いいんです、思い出せなくて。ううん、思い出せなくて当たり前のことをしたんですから。今回もそれと同じことをするだけですよ」
「思い出せなくて……当たり前……?」
裕也はその言葉から自分の記憶を弄られたことを悟る。が、何をどうされてしまったのかまでは全く思い出すことが出来ず、頭の中は恐怖でぐちゃぐちゃになりそうだった。
その隙を逃さないとばかりに、裕也の上にまたがるユナ。
「はいはい、大人しくしてください……無理ですね。混乱してるみたいなので。何を消されたのか分からなくて、何を思い出せばいいのか分からない。だから、思考がそっちを思い出そうとして、身体が動かないんですよね?」
「な、なんで……」
「顔に出てますから。ほら、やりますよ」
「だから、止めろって! せっかくもらったヒント――」
「その部分は改変して起きますから。ほら、やりますよ!」
容赦なくユナは裕也の眼前に手を伸ばす。そして、手が薄く光り始める。
「だからやめ――」
「おやすみなさい、裕也」
「……ッ!」
そして、その言葉を最後に手から放たれた光を受けて、そのまま意識を失ってしまうのだった。




