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 裕也は緊張から身体が一気にほぐれたせいで、今まで以上の痛みを感じながらも、


「お前、何しに来たんだよ。雰囲気がからかいにしか来たにしか見えないぞ」


 それを手でこめかみをグイグイと押さえながら痛みを耐えながら、そう尋ねた。

 すると、ユナは舌を出し、


「バレた? ううん、バレるようにしたんだけどねー」


 なんてさっき同様に悪いことをしたと思ってないのか、明るい声で答える。


「はいはい、それで何をしに来たんだ?」

「犯人を見つけるヒントをあげにきた」

「へー、そうなんだー」

「むっ! なんで、そんな微妙な返事?」

「誰かさんが無理矢理起こしたから、頭痛が来てんだよッ! 教える気があるなら、さっさと教えやがれッ!」


 いちいち勘に障る言い方だったため、裕也はつい声を荒げてしまう。そして、慌てて口を押える。

 そして、寝ているアイリの方向を見る。

 裕也からすればかなり大きい声を出し、その声に反応して思わず耳を押さえているユナを見れば、間違いなく起きてしまいそうなものだが、アイリは相変わらず気持ちよさそうに寝ていた。


 ――もしかして……。


 アイリの様子を少しだけ確認した後、全く起きる気配がないことから、あることに裕也は気付く。


「結界的な何かを張ってるのか?」


 押さえていた耳をゆっくりと話しながら、ユナは少しだけ不満そうな口調で、


「そうだよ。だから、私が話しかけられるんだよ。そんなことも分かってなかったの? ったく、こんなので本当に大丈夫なんだか……」


 ぶつぶつと文句を垂れながら、結界を張っていることを素直に認める。


「なるほどな。つか、ぶつぶつうるさい」

「誰のせいで耳がキーンってなったと思ってるのよ!」

「はいはい、悪うございました。早くヒントくれよ」

「それが人に教えを乞う態度なのかなー?」

「じゃあ、いいや。オレから頼んだことじゃないし。おやすみ」


 教えてもらう以上、お礼を言うつもりではあったが、土下座などをしてまでヒントをもらうつもりは一切なかった裕也は気にせず、ユナに背中を向けるようにして横になる。横になったのはそれだけではなく、頭痛がどんどん酷くなっているような気がして、座っていることが辛くなかったからだった。

 そんなことを知らないユナは「むすぅ」と不満全開の表情を浮かべて、


「じゃあ、別にいい。そんな態度取られるなら教える義理ないし……」


 再び挑発し始める。


「はいはい」

「……いいの、本当に? 負け確定しちゃうよ?」

「自力でなんとかするからいい」

「本当に出来るのー? 出来なさそうだから――」

「うるさい。なんとかする」

「……あっそ。好きにすればッ!」


 さすがのユナも意固地になったらしく、そんなことを言い始める。そして、同時にそれが気に食わないとでも言いたげな冷たい雰囲気が溢れ始める。

 しかし、裕也からすればそんなことよりも頭痛の方が問題になっていた。ガンガンとやってくる痛みの方が強く、ユナの冷たい雰囲気など気にしている余裕すらないほどに。


 ――これが……偏頭痛……ってやつか……?


 過去に何度か寝起きの頭痛は起きた経験がある裕也ではあったものの、ここまで酷いものは初めてだったため、自然と身体が丸まり、その痛みを必死に耐える姿勢になってしまう。


「あー、もう! 面倒だなー!」


 さすがに裕也の状況を見て、演技ではないことを悟ったのか、ユナはベッドに登ると、裕也の頭に手を置く。


 ――何をするつもりだ……?


 手を置かれた感触から何かをしてくることは分かった裕也は少しだけ不安に思ってしまう。それは、今までの様子から考えて、自分の身を案じてくれると思っていなかったからだ。

 しかし、裕也の想像とは別に手を置かれた瞬間から痛みはどんどん引いていき、最終的に痛みそのものが完全になくなってしまう。


「あ、ありがとう……」


 裕也はその痛みがなくなったことに戸惑いを覚えつつ、ユナにお礼を述べる。

 声の調子から完全に体調がよくなったことを察したのか、ユナは裕也の頭に置いていた手を離し、


「どういたしまして。私が無理矢理起こしたことが原因みたいだしね」


 そう言いながら、ベッドからゴソゴソと下りて行く。

 その音を聞きながら、裕也も身体を起こす。そして、完全に頭痛が引いているのか確認するために、ゆっくり頭を左右に振ってみる。すると、本当に痛みが引いているらしく、痛みは一切伝わることはなかった。


「ユナ、どうやったんだ?」

「……秘密。っていうか、ユナじゃないのは分かってるんでしょ?」

「そりゃ……」

「だったら、魔力の使い方も変わったことってことで理解しといて」

「……分かったよ」

「あ……でも一時的にだから無理しない方がいいですよ。一時間持つか持たないかぐらい。だから、早く寝直した方がいいんじゃない?」


 そう言い残して、ユナはアイリが寝ているベッドに移動し始める。

 しかし、裕也はそれを引き止めるべく急いでベッドから降りて、ユナの手を掴む。

 ユナは初めて驚いた表情をして、その掴まれた手を一瞥、


「何? いきなり?」


 手から裕也へ視線を移して、動揺した声で尋ねた。


「いきなりも何もないだろ。お前は何のためにオレの前に姿を現したんだ?」

「あ……ヒントね。いらないんじゃなかったの?」

「……言いたくないならいいけど?」


 そう言いながら、裕也はその手を離す。

 ユナはもっと食いつくと思っていたのか、手を離された瞬間、「あっ……」と残念そうな声を漏らしてしまう。そして、そんな声を出してしまった自分に呆れるようにため息を溢し、


「私の負けみたいですね……。分かりましたよ、ヒントをあげます」


 素直にヒントを裕也に与えることを承諾した。


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