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「起きてください。早くしないヒントをあげませんよ!」


 裕也の耳に入ってくる聞き慣れない声に対して、「うーん」と唸りながら寝返りを打った。眠気が強すぎるせいで、その言葉の意味などどうでもよかったのだ。


「ほら、早く起きてくださいよー。じゃないと、殺されちゃいますよー?」


 ――うるさいな……。


「ほらー、早く……面倒くさいですね。こうしましょうかッ!」


 その言葉の主は言葉で起こすのを諦めて、足を思いっきり振り上げる。狙いは裕也の頭。

 裕也は行動に移されたことを知る術はなかったが、ピンチの時に『ACF』が働き、その危機を直感で知ることが出来た。そのため、即座に身体を回転させて、その射線上から逸れることで、直撃することはなかった。が、そのせいで思考が一気に活性化してしまい、眠気が消え去ってしまう。


 ――な、なんだ……ッ!?


 裕也はいまいち状況分からず、自分が使っていた枕に落とされた足を見ながら、こめかみを簡単に押さえる。こめかみを押さえたのは、急激な覚醒により頭痛が起きてしまったからだった。しかし、そんな痛みを気にしている場合ではなく、この敵意あるかかと落としを繰り出してきた人物の足を辿るようにして、その人物の顔を見る。


「やっと起きましたか……。こっちには時間がないってのに、のんびりしてるから悪いんですよ?」


 声の主は自分の顔を見たと認識したことを認識したうえで、かかと落としを繰り出したことを悪びれてもいない明るい声でそう言った。


「なっ……」


 その声の主を見た裕也は声が詰まってしまう。

 いや、誰が見ても詰まってしまうのだ。

 なぜならば、その声の主はユナの容姿をしていたから。

 しかし、ユナであってユナではない声質。ユナの高い声が素であるならば、このユナの低い声も素として存在している声質だった。それは裕也の持つ『ACF』がそう答えを出しているせい、裕也は疑いようのないもの。


 ――もしかしたらッ!


 ユナに化けた誰かかも知れないと思った裕也は、ユナが寝ているはずのベッドを見てみる。

 が、そこにはユナの身体はなく、アイリが気持ちよさそうに寝ているだけだった。

 つまり、目の前のユナが本物であることは間違いない事実が突き付けられてしまう。

 そんなごく当たり前の行動が面白いのか、ユナは口元に手を当てて、クスクスと笑っていた。


「何を笑ってんだよ?」

「何を笑ってる……? 当たり前じゃないですか。 私が思った通りの反応を、裕也がそのままの反応をしたんですよ? もちろん、行動も。笑ってしまうのが当たり前の反応じゃないですか?」

「……ッ!」

「まぁ、それはいいんですよ。私が裕也に言いたことがあるんですけど、いいですか?」

「待て、それよりも大事なことがあるだろ?」

「パス」

「はぁ?」

「どうせ、あれでしょ? 『お前は誰なんだ?』的な質問なんですよね?」

「当たり前の――」

「パスします。説明するのが面倒なので」


 ユナは「嫌だ嫌だ」と言わんばかりに、裕也から視線を逸らし、自らの髪を撫でる。

 が、裕也がそれで納得いくわけがいかずに反論しようとすると、


「うるさいな。そんなくだらない質問ごときで、時間を潰そうとしないでくれませんか?」


 ユナの身体からブワッ! と冷たいものが噴き出す。

 それが魔力と殺気から来る威圧だと魔力の訓練から理解していた裕也は、改めてそのことを知らない方が良かったと思ってしまう。理解するということは、その根源にある魔力と殺気の濃さを知ることになるからだ。そのせいか、裕也の身体は一気に竦んでしまい、行動だけではなく、心そのものが折れて、反抗する気持ちが根こそぎ奪い去られてしまう。


 そのことを裕也の様子から判断したらしいユナは、


「やっと静かになってくれましたね。ここまでしないといけないなんて、本当に面倒なんですから」


 と、クスクスと意地悪な笑みを浮かべつつ、ベッドに腰をかける。そして、顔だけを裕也の方へ向けて、


「さて、本題に入りましょうか。いつまで真犯人を見つけられることが出来ないんですか? 裕也が真に『ACF』の力を引き出せていたら、犯人を見つけることぐらい容易でしょう?」


 心底呆れた様子で裕也を軽蔑し始める。


「ちょっ、ちょっと待て! その力を引き出したところで、上手くいくわけがないだろッ! 犯人に繋がるようなものが一切ないじゃないかよ!」

「……本当にですか?」

「……え?」

「本当にも何も……そんなヒントなんて……」

「ふーん。じゃあ、分かるはずがないですね。もっと周囲を観察しないとダメですよ? 裕也の周りにはヒントがゴロゴロ落ちてるんですから。なんて言ったところで気付かないでしょうけど。現在の裕也なら……」

「……ッ!」


 軽蔑された言い方、それを隠そうともしないバカにした目で裕也を見るユナ。

 それが裕也の感情を恐怖から怒りへと変わろうとしていた。

 ユナの言い分は間違ってはいないのだが、それを一切隠そうとしないことに腹が立ってきてしまったのだ。


「ほらほら、悔しかったら何か言い返したらどうです? 別にいいんですよ? ほらほら、早くー」


 裕也の感情が怒りに変わったことを知りつつ、ユナはさらに裕也を煽り始める。まるで、この状況を楽しんでいるかのように。


 ――くっ、このペースに飲まれてたまるかよ……ッ。


 苛立ちは隠せないことは悟った裕也は、その煽りになるべく乗らないように拳を握りしめ、この流れを変えるために次の話題を頭の中で模索し始める。

 そのことが分かったのか、ユナはつまらなさそうに舌打ちをして、


「つまんないの。のればいいのに……」


 その雰囲気を隠すことなく、舌を出す。

 裕也はその様子を見て、ユナに怒っていた自分に呆れてしまい、握っていた拳の力を抜き、ユナと同じように隠すことなくため息を溢した。


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