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(8)

「可能性として覚えてそうなのは……王女様しかいないよね……」


 アイリはそう呟き、アイナが寝ているベッドのカーテンを見る。

 それに同意するように三人も自然とそのカーテンを見つめた。アイリの言う通り、アイナが最後の希望みたいなものになっていたからだ。


「王女様のことだから、日記ぐらいつけててもおかしくないと思うけど……」


 記憶としては覚えていなくても、アイナは性格や立場上の事から日記ぐらいは付けているはずだと思った裕也がそう呟くと、


「うん! 王女様だから、それぐらいのことはしてるかもしれないね!」


 裕也の言葉にアイリは満面の笑みを浮かべて頷く。

 それはミゼルも同じだったらしく、


「そうだね。王女様のことだから、こまめに日記の一つや二つぐらいは付けててもおかしくはないだろうね」


 「うんうん」と首を縦に振るも、


「――ただ、今すぐというわけにはいかないことは分かるね? 設定では今日の朝までは起きないように設定してる。無理矢理起こすことは許さないよ?」


 ここで初めてミゼルが救護の先生として初めて真剣な表情を見せた。

 雰囲気はそのままに目付きだけが鋭くなったような状態。

 アイリはその目付きに慣れているせいか、何ともない様子だったが、今まで見たことがなかった裕也とユナは少しだけビビってしまう。


「わ、分かってますよ! そんなことするわけないでしょッ!」


 最初から起こすつもりなんて一切なかった裕也はビビったせいで、少しだけ上擦った声になってしまうも、その行動を目の前で両手を振りながら拒否の意思を示す。


「そうですよ! そんな病人さん? に無理をさせるようなことするわけないじゃないですかッ!」


 裕也につられるように、ユナもまた上擦った声で首を左右にブンブンと振りながら、全力でそれを否定した。

 しばらくの間、その目付きで裕也とユナを確認した後、


「ごめんごめん、脅かしちゃって」


 と、ミゼルは軽い言葉を吐いて、へらへらと笑い始める。

 一気に力が抜けたような物言いに裕也とユナは少しだけ反応に困っていると、


「昔ね、そういう人がいたんだよ。病人なのに無理矢理話を聞こうとした人が……。そのせいで先生は敏感になってるんだ!」


 アイリが、ミゼルが思わず真剣になってしまった理由を教えてくれる。

 理由が理由だけに裕也とユナは裕也の虜になっているにも関わらず、それを裕也にまで威嚇するように注意をしてきた理由を察することが出来た。


 ――この仕事に誇りを持ってるってことか……。


 思わず納得出来てしまう言葉に、裕也は思わずビビってしまったことを反省してしまう。だからこそ、軽くだが頭を下げて、


「なんかすみませんでした。無理にはしないので安心してください」


 と、勘違いさせてしまうような雰囲気にさせてしまったことを謝った。

 それはユナも同じだったようで、


「私の方こそすみませんでした!」


 ユナは裕也よりも深く頭を下げて謝罪した。

 謝られるなんて思ってもみなかったミゼルは、


「あ、謝らないでくれ! 当たり前のことを当たり前のように言っただけなんだから。そ、それよりも威嚇混じりでそう言ったことを許してくれると嬉しい。一種の癖みたいなものだから……」


 頭は下げなかったものの、ミゼルは二人から視線を逸らして、反省が含まった声で謝る。


「そういうことで、これで終わりにしようよ! たぶん、また謝罪合戦になるでしょ?」


 裕也が「そんなことはないです」と言おうとする前に、アイリが口を挟んで、これから起こりそうな流れを指摘。そして、三人の様子を見て、


「だよね?」


 と、改めて確認するように三人へと尋ねる。

 三人もまたアイリの言葉を確認するようにお互いがお互いを見つめ合い、


「そうだな」

「ですね」

「その通りだね」


 三人がそれぞれ答えて、その確認を同意した。


「じゃあ、話題を変えよう。変えようと言っても、王女様に話を聞くのは起きてからなんだけど、これからどうするの?」


 そう言いながら、「ふぁああ……」とアイリは欠伸を溢してしまう。そして、慌てた様子で顔を横にブンブンと振って、その眠気を払おうと試みる。

 その様子を見て、裕也はベッドから立ち上がり、カーテンに仕切られている範囲の外へと顔を出す。そして、柱に掛けてある時計を見て、現在時刻を確認する。


「二時半か……」


 確認後、身体を三人の方へ向けると、


「じゃあ、今日はもう部屋に帰って寝るか。そうすること以外、何も出来ないしな。訓練はするとしても、遅めになるけど――」


 そう尋ねるとユナも納得したように、


「それはしょうがないです。訓練の方も大事ですけど、やっぱり身体を休めることも一番大事ですから」


 裕也の言葉に安心したように少しだけ目をトロンとさせた状態で答えた。


「えへへ、よかった。そろそろ限界だったんだよねー……」


 アイリはその言葉を待っていたかのように、今まで張っていた糸を完全に切り、遠慮なく欠伸を溢し、目をゴシゴシと擦り始める。


「大丈夫か?」

「んー、もう少しだけ……なら……」

「部屋まで頑張れ」

「ふぁーい……」


 アイリに近寄り、頭をポンポンと軽く叩いて、意識をしっかりさせると、


「じゃあ、そういうわけで部屋に帰りますね。お世話になりました!」


 ミゼルへ顔だけを向けながらそう言った。


「ん、ちょっとだけ寝にくいかもしれないけど、ゆっくり寝るんだよ。じゃあ、自分も残業をしてから寝ようかね……」


 ミゼルは座っていたベッドから立ち上がると、首に手を添えながら軽く捻るとポキッという気持ちよさそうな音を鳴らした後、机へと向かい始める。

 裕也たちもそれを合図に、裕也を先頭にして救護室のドアに向かって歩き、ドアを開けた後、


「ありがとうございました」

「ありがとうございました。裕也くんがお世話になりました」

「ありが……ござまし……たー」


 それぞれにお礼を述べた後、救護室の外に出て、自室へ戻るのだった。


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