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(5)

「って、そんなことよりも一番大事なことを聞かないといけないんだった」


 一気に場が和んだことにより、思わず聞きそびれそうになったことを裕也は慌てたように漏らす。

 三人とも、裕也の言う大事なことが分からないらしく、不思議そうに首を傾げて、裕也を見つめる。


「アベル……さんの死亡推定時刻は?」

「ああ、そう言えば忘れてたね。そのことも言わないといけないと思ってたのに……」


 ミゼルはそのことを思い出したらしく、難しい顔になってしまう。それ以上にあまり言いたくないという気持ちが身体から滲み出ていた。


「どうか、したんですか?」


 そんなオーラが出てきたミゼルを不安に満ちた口調でユナがそう尋ねた。ユナはそのオーラで何かロクでもない発言が出ると踏んだらしい。

 それは裕也も同じだった。が、逆にそうなる予感がないわけではなかったため、ある程度の覚悟が出来ていた。


「素直に言った方がいいですよ。どうせ、自分がアベルと会ってた時間帯になるんでしょ?」


 そして、ミゼルがそこまでして言いたくない雰囲気になった状況を考えると、その答えしか見つからなかったため、ミゼルが言うより先に自分が先に言うことを裕也は選ぶ。


「……ッ!」


 裕也が言い当てると想像していなかったらしく、三人から視線を逸らすようにして、


「……そうだよ。詳しい時間は分からないけど、少なくともユーヤくんがアベルと会ってた時間帯であることは間違いない……」

「やっぱりか……。真犯人のことだから、なんとなくそんなことをして来そうな気はしてたけど、本当にしてくるとは思ってもなかったな……」


 裕也はそう言って、がっくりと項垂れる。

 アイナが襲われた時に何とかして晴らした疑いを、今度は違う方向から疑われることになってしまい、前者の疑いをもまた再発し、余計に周囲からの視線が厳しくなるような気がしたからだった。


「裕也くん……」

「ユーヤお兄ちゃん……」


 ユナとアイリはそんな裕也にかけられる言葉が見つからないらしく、裕也の名前を呼ぶことだけが精一杯の状態。

 そんな裕也を励ますかのように、


「……あくまで予想だけど、ユーヤくんが思うような酷い展開にはならないとは……思うんだけどね……」


 ミゼルは不確定な励ましの言葉をかけた。

 裕也からすれば、その発言の意図が分からず、項垂れていた頭を上げ、ミゼルの言葉にすがるような目でミゼルを見る。

 そんな目で見られると思っていなかったミゼルは、「うっ!」と声を漏らし、頬を少しだけ紅潮させながら、自分の考えを述べ始めた。


「ユーヤくんはアベルに会うことを誰にも言ってないだろ? 自分とユナちゃん、アイリ、王女様以外には……」

「言ってないかな? 予想した人はいるかもしれないけど……」

「アベルが言ってたなら、意味がないかもしれないが、アベルが死んだ時間に会っていたなんて思ってもみないだろう? だから、疑われる確率が少ないと思うんだが……どうだろうか……?」

「……確かに。アベルが言ってないなら、可能性としては少ないかな……。お城の人たちにアベルのことを聞いたから、いつかは行くのは分かってたとしても殺した時間帯に会ってたなんて考えてもなかっただろうし……」


 裕也はミゼルの話を聞き、少しだけ希望が湧いていた。

 もちろん、少しばかり疑われることは間違いないが、全員から疑われる苦しさから比べれば、かなり和らぐからだ。


「まぁ、ユーヤお兄ちゃんを責めようとしても、王女様が助けてくれると思うけどね。王女様が信頼してるんだし」


 アイリが言った言葉が、裕也の中で一番説得力があるような気がした。

 このエルフの街でトップの人物に信頼されているのだから、そんなことをするはずがない、と思うのは当たり前だと思ったからだ。

 同時にアイリとミゼルがここまで心配してくれることが正直嬉しく、


「アイリ、先生、ありがとうございます」


 と、裕也自身が気付かない内にお礼を述べてしまう。

 二人はそのお礼に少し恥ずかしそうにしながら、


「気にしないでよ、ユーヤお兄ちゃん」

「大したことは言ってないさ」


 それぞれにそう言って、恥ずかしさを誤魔化そうとしていた。

 ユナは二人がお礼を言われている中、一人だけその輪に入れてないような気がしたのか、ムスッとした表情を浮かべ、


「どうせ、私は力になれませんよー」


 と、小声で不満を呟く。

 ユナは聞えないようにいったつもりだったらしいが、その声はちゃんと裕也には聞こえており、


「ユナもありがとうな。心配して、ここまで来てくれて」


 あっさりとそのお礼を述べた。

 少なくともこんな深夜に無理矢理起こされて、わざわざ救護室まで来てくれたことに対し、お礼を言わないといけないと思ったからだった。

 ユナ自身、そこまで気にしていた不満ではなかった。ちょっと気にかけてもらいたかったからこそ、呟いた言葉。それを本当に真に受けて、お礼を言われると思っていなかったため、


「き、気にしないでくださいよ! 私が来たくて来たんですからッ!」


 と、手を目の前でブンブンと振りながら、急いでそのお礼の言葉を撤回するように慌て始める。


「それでもお礼は必要だと思ったんだよ。素直に受け取れ」

「……でもぉ……」

「不満なら別に――」

「いえ、素直に受け取ります! どういたしまして!」

「……前言撤回早過ぎだろ」


 ユナが即座にそれを受け入れたことが、裕也からすれば少しだけおかしく見え、自然と笑いが溢れてしまう。

 それはアイリとミゼルも同じくだったらしく、裕也と同じく笑っていた。


「うぅー! みんなで笑わなくてもいじゃないですかッ!」


 まさか、みんなに笑われると思っていなかったのか、ユナは顔を真っ赤にさせながら、不満を漏らす。そして、その話題から話を逸らそうと、必死に他の話題を考えた結果――。


「せ、セインさんのことはどうなったんですか!? 王女様の部屋に行ったのは、それを聞くためでしょ!」


 そのことを思い出したらしく、早口でそう裕也に尋ねた。


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