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(3)

 そこで、アイリが何かを思い出したように「あっ!」と少しだけ大きな声を漏らす。

 その声に、裕也とユナは自然とアイリへと視線を向ける。


「どうかしたんですか?」


 ユナが不思議そうにアイリに尋ねると、


「セインは? 護衛長のセインはどこにいるの?」


 と、ユナの質問を無視して、裕也へと尋ねた。

 ユナは無視されたことよりも、アイリと同じように今そのことを気が付いたらしく、同じように「あっ!」と声を漏らす。そして、アイリと同じように場所を知りたそうに裕也を見る。


「悪い、知らない。いや、居る場所の予想は付くけど、確定出来るものはない」


 そう言いながら、裕也はベッドのシーツを巻き込みながら、首を横に振る。


「予想ってことは……つまり、アベルの部屋?」

「さすがだな、アイリ。たぶん、あっちの指揮で忙しいんじゃないか?」

「そっかー。そうだよね、王女様の身に何か起きたわけじゃないんだし、現状一番大事な所にいて当たり前かー……」

「……それにオレがいるから安心して来ないのかもな」

「え? あぁ、それもあるかもしれないね!」

「戦闘力は皆無だけど……」

「ボクたちが来ることが分かってての行動なのかも!」

「ありそうだな……」


 皮肉まじり苦笑していると、アイリはそうやってフォローを入れてくれて、少しだけ心が楽になるような気がした。が、同時に急いで魔法を覚えない。そんな焦りも少しばかり裕也の中に生まれてきていた。


「……焦っても仕方ないです」


 裕也の気持ちを読んだらしく、ユナが冷静にそう裕也へ注意した。

 その言葉に少しだけびっくりしてしまう裕也。


「な、なんで分かった?」

「そんなのすぐに分かりますよ。さっき、王女様に部屋を見せないようにすることができなかったことを悔やんでましたからね」

「そこから推測したのかよ」

「そこ以外推測できるところなんでないでしょう? それよりも焦っても仕方ないので、堅実に行きましょう! ……なんて言えないんですけどね……」


 現状、それだけ大変な状況であることは理解しているらしく、困ったように笑いを溢す。


「だから、手っ取り早くやるしかないですね。元から時間が足りなかったので、こうするしか方法がないことは分かってましたけど……」


 と、付け加える。

 裕也はユナとアイリを交互に見ながら、ジト目になり、


「また、二人で変な風に話し合いしたんだろ?」


 自分がその話し合いの仲間に加われなかった不満をあからさまに現す。

 その不満に対し、二人は「あはは……」と苦笑しつつ、


「ごめんね、()()()でじゃないんだ」


 アイリは申し訳なさそうに謝罪の言葉を述べる。


「は? 二人じゃない?」

「うん、二人じゃないんだよ。正確に言うと四人」

「四人? ってことは……」


 バッとアイリが眠っているベッドのカーテンを見つめた後、二人へもう一度見直す。

 その視線の意味があっていることを示すように、二人はコクンと頷く。


「い、いつの間に?」

「『いつの間に?』って、ユーヤお兄ちゃんが一人になるタイミングは一つしかなかったでしょ?」

「一人になるタイミング……あっ! もしかして――」

「正解! アベルの部屋に行ってる時でした!」

「……マジか」


 それを確認するようにユナへ視線を移すと、ユナは即座に首を縦に振り、それをあっさりと肯定。


「しょうがないじゃないですか! あのままじゃ裕也くんの訓練が中途半端に終わって、決戦までに間に合わないと思ったんですから!」

「べ、別に決戦があるって決まったわけじゃあ……」

「ないと言い切れるんですか?」

「いや、それが違うけど……」

「じゃあ、急いだ方がいいですよね?」

「そうだな……」


 論破されてしまった裕也は素直に頷く。

 ただ、これからは自分の事なので、せめて自分も話し合いに参加させてほしい、と思いつつ。


「それで、どんな方法を取るんだ?」

「このお城にある武器を使って、魔法を運用してもらうことになりました」

「ある武器?」

「それについてはボクが説明するねッ!」


 アイリが勢いよく手を上げ、その説明をすることを立候補。

 ユナはその立候補に素直に認め、


「アイリちゃんの方が詳しいので、そっちの方が良さげですね。じゃあ、アイリちゃんよろしくお願いします」


 そう言いながら、アイリの頭を撫でる。


「じゃあ、アイリよろしく」


 裕也からすれば、どっちからでも説明でも良かったため、素直にアイリに任せることにした。


「単純にこのお城には家宝と呼ばれるお宝の一つがあるの。それをユーヤお兄ちゃんに貸してあげようってことだよ……」

「家宝? あの……昔からある大事にされてるお宝ってことだよな?」

「そうだよ。家宝ってそういうものでしょ?」


 びっくりして、ちょっとだけ震え声になっているにも関わらず、アイリの声はあっさりとしたものだった。というよりも、家宝の大切さを全く分かっていない物の言い方。


「それ分かってて、なんで貸そうなんて思ったんだ?」

「……それ、ボクが決めたことじゃないから分かんない」


 アイリは許可を出した人物を見るように再び隣のベッドのカーテンを一瞥。

 もちろん、そのことが分かっている裕也は違う意味で頭が痛くなりそうで、再びおでこを押さえる。


「その件については起きてから尋ねるとするか……。てか、アイリはその武器の何を知ってるんだ?」

「知ってることは、その武器が所持者の魔力を吸収して使うってこと。それと武器は弓矢だからね」

「……自分の魔力を矢として放つのか」

「正解! まぁ、それなりの問題があるけど、それはまた後でにしようよ」


 アイリはこの話はおしまい、と言わんばかりにうるさくない程度に手を叩く。

 裕也とユナはその行為の意味が分からず、そのことに追究しようと口を開いた矢先、遠慮なくガラガラとドアが開く音が聞こえる。


「はぁ……疲れた疲れた……」


 今まで聞いたことがないような気だるさと共に聞こえていた声の主――それはミゼルだった。


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